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アメリカはなぜ「銃所持」を認めているのか? 【市民の武装権】

今回の記事では「銃器の発展がもたらした政治体制の変化」に着目します。

古代から現代までを時代順に追い、の技術革新がいかに社会の変容を促したかを考察します。

銃の視点から政治変動を捉えることは、世界史の潮流を理解する上で欠かせない視点を提供してくれます。

ギリシアの重装歩兵からアメリカ建国の精神まで、銃と政治の関係性について迫りたいと思います。

古代ギリシア市民の自前装備が民主政の基盤に

古代ギリシアの軍事力の中核は、重装歩兵(ホプリテス)でした。重装歩兵は自前で武器や防具を揃える職業軍人ではなく、一般の自由市民が担いました。

ギリシアの都市国家では、自由民すべてに参政権が認められ、直接民主制のもとで政治が行われていました。そのため軍事力の中核を市民が果たしていたことが、民主政治の根拠ともなっていたのです。

市民が武器を持ち、戦争に参加して国家を守ることが自然な権利とされており、政治的権利の保障にもつながっていました。

古代ギリシアで世界初の本格的民主政が成立した所以です。

アメリカはなぜ「銃所持」を認めているのか?

画像:古代ギリシアやローマで活躍した重装歩兵 public domain

中世ヨーロッパの重装騎兵が封建制を確立

中世に入ると、4〜5世紀ごろからヨーロッパに遊牧民が大移動し、その先進的な馬具技術がもたらされました。

この馬具技術によって、騎乗しながら両手で武器を扱える重装騎兵が可能となります。

重装騎兵は騎馬突撃によって圧倒的な攻撃力を発揮し、戦場を支配するようになりました。

各地の有力者は重装騎兵を組織して軍事力を高め、封建領主としての地位を固めていきます。

領主による土地支配と農奴制が進行する中で、徐々に封建制社会が形成されていったのです。

古代ギリシア時代の重装歩兵は、自前装備の一般市民で構成されており、軍事力の民主化と政治的権利の保障に結びついていました。

しかし中世に入ると、圧倒的な軍事力を持つ騎士が政治の中心となり、民主制から封建制、そして絶対王政への移行が進んだと言えます。

中世ヨーロッパでは圧倒的な攻撃力を背景に、重装騎兵が封建領主としての地位を固めました。

騎士は幼少時から騎乗戦を教育されたプロの戦士で、低い身分の者は対抗できません。

そのため封建領主は、領民から年貢や労役を強制的に取り立て、ときには初夜権(新郎よりも先に新婦と性交できる権利)などの横暴な特権をふるうこともありました。

騎士の軍事力が圧倒的だったため、反抗する術がなかったのです。

アメリカはなぜ「銃所持」を認めているのか?

画像:重装騎兵による戦いを再現した試合 public domain

火薬兵器の登場が封建制の終焉を早める

しかし14〜15世紀、火薬が戦場に登場し、騎士の鎧を貫通できる火縄銃が発明されます。

簡単な訓練で扱える火縄銃の登場で、市民でも騎士に対抗できる軍事力を手にすることが可能になりました。火縄銃によって市民が武装化すると、封建領主(国王)の横暴に対して蜂起できるようになりました。

市民革命の際には、訓練を積んでいない市民兵でも、銃撃戦で騎士を打ち負かすことが可能となったのです。

このように武器の進化が既存の軍事バランスを覆し、政治体制の変革を引き起こす決定的な要因となりました。

市民による武装化が、封建制の終焉と民主主義の到来を加速させたと言えるでしょう。

アメリカはなぜ「銃所持」を認めているのか?

画像:フランスのフォワ城博物館にある17世紀の火縄銃 public domain

18世紀の市民革命が民主主義を実現

18世紀に入ると、フランス革命アメリカ独立戦争などの市民革命が発生しました。

それまで封建的な身分秩序を支配していた国王や貴族階級から、商工業者を中心とする市民階級が政治的権力を奪取したのです。

フランスでは絶対王政が倒れ、アメリカではイギリスからの独立が成し遂げられます。

新政府のもとで自由と平等の理念が掲げられ、身分による差別が廃止されました。

アメリカは建国の理念の一つとして「市民の武装権」を憲法に盛り込んでいます。

政府に対する最終的な抑止力として「市民による武装が自由を守る」と考えたためです。

18世紀に起きた市民革命の成功は、火薬兵器の発展によるところが大きかったと言えます。

市民階級の武装が封建勢力に対抗できる軍事力を生み出し、政治の民主化を推し進めたからです。

銃火器の技術革新がもたらした政治的影響力は、計り知れないと言えるでしょう。

アメリカはなぜ「銃所持」を認めているのか?

画像:アメリカ独立戦争におけるレキシントンの戦い public domain

アメリカ建国の精神が武装権を重視

アメリカ独立戦争は、単なる植民地のイギリスからの独立ではなく「商工業者中心の市民階級が、戦士階級の支配からの自由を求めて戦った」という、市民革命の性格を持っていました。

銃所持の自由は、政府に対する市民の最終的な抑止力と位置付けられます。

市民の武装と革命権の保障を通じて、アメリカは専制的な政府(イギリス)から、自由と民主主義を守ろうとしたのです。

今日でも根強く残るアメリカの銃文化は、建国の精神を反映したものといえるでしょう。

最後に

画像:小型拳銃を所持するアメリカ国民 public domain

アメリカは独立宣言のなかで、悪政に対する抵抗権(革命権)を明記しました。

この権利を保障するため、連邦政府と州政府の権限を分離・競合させるなど権力の分散を図っています。

警察組織も連邦・州・市町村レベルに分散し、権力の集中を防いでいるのです。

こうした権力の分散は、政府の専制を抑制し、革命権を担保する狙いがあります。

その一環として市民の武装権と銃の所持権が保障されており、政府に対する市民の最終的な抑止力の一つとして銃は位置づけられています。

アメリカは革命権の保障を優先し、市民の武装権を認めているのです。

銃規制よりも革命権を重視する立場は、公共の安全を優先する他国とは異なっています。

歴史的に権力者は民衆の反乱を恐れて武器を没収してきましたが、アメリカは一般市民の銃所持を逆に保障したのです。

銃の所持権は、専制的な政府から自由を守るための「最後の手段」として位置づけられています。

参考文献:ゆげ塾・ゆげひろのぶ・川本杏奈・野村岳司(2018)『ゆげ塾の構造がわかる世界史【増補改訂版】』ゆげ塾出版

 

村上俊樹

村上俊樹

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“進撃”の元教員 大学院のときは、哲学を少し。その後、高校の社会科教員を10年ほど。生徒からのあだ名は“巨人”。身長が高いので。今はライターとして色々と。フリーランスでライターもしていますので、DMなどいただけると幸いです。
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