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【ソロモン72柱】 ソロモン王に仕えた悪魔たち 「バエル、アモン、アスモデウス 他」

ソロモン王に仕えた悪魔たち

画像 : ソロモン イメージ

ソロモン72柱とは

ソロモン72柱とは、古代イスラエルの第3代国王であったソロモン王が、神より与えられた偉大なる英知をもって支配したとされる72柱の悪魔のことだ。

ソロモン王はエルサレム神殿の建設に行き詰っていた頃に、唯一神ヤハウェの命を受けた大天使ミカエルから様々な悪霊を支配する指輪(ソロモンの指輪)を賜り、多数の悪魔を使役して神殿の建築を成し遂げたという。

ソロモン72柱については、『ソロモンの小さな鍵』と呼ばれる魔術書(グリモワール)『レメゲトン』の第一書『ゴエティア』に、それぞれの悪魔の印章や性質、使役方法について詳しく述べられている。

今回はその72柱の悪魔たちの中でも、特に知名度の高い悪魔6柱について解説する。

1. バエル ~悪魔へ貶められた最高位の豊穣神

画像:コラン・ド・プランシー著『地獄の辞典』第6版の挿絵におけるバエルの姿 public domain

バエルは66の軍団を率い、東方を支配する序列1番の偉大なる地獄の王である。

猫、ヒキガエル、人間のような姿、または3種すべてを併せ持った姿で現れるという。法の知識に精通しておりしわがれた声で話す。また召喚者を透明にする能力を持ち、知恵を与えるといわれる。

バエルは「バアル」という神が悪魔になった姿であるとされている。バアルは古代のイスラエル地方(カナン地方)で崇められた最高位の豊穣神であり、その名はセム語で主の意味を示す。バアルを信仰する人々からは気高き主を意味する「バアル・ゼブル」という尊称で呼ばれていた。

バアルは広い地域で信仰された神で、エジプト神話のセト神や古代中東地域で崇拝された神モレクとも同一視された。

しかしイスラエルに入植してきたユダヤ教神学者から生贄を欲する淫らな邪教の神として嫌われ、「バアル・ゼブル」をもじったハエの王を意味する「バアル・ゼブブ」と呼ばれ蔑まれるようになった。

そして「バアル・ゼブブ」はいつしかサタンに次ぐ高位の悪魔「ベルゼブブ」として見なされるようになったのだ。

7. アモン ~デビルマンにも登場する元太陽神

ソロモン王に仕えた悪魔たち

画像:コラン・ド・プランシー著『地獄の辞典』の挿絵におけるアモンの姿 public domain

アモンは40の軍団を支配する、序列7番の地獄の大いなる侯爵である。

蛇の尾を持ち口から炎を吐く狼の姿で現れる。召喚者が人間の姿を取るように命じると、ゴイサギやワタリガラスの頭部を持つ人型に変身するという。

アモンは72柱の中で最も強靭な体と、高い戦闘力も持っている。召喚者に対して過去と未来の知識を教え、人間同士の不和や和合を自在に操る能力を持つ。

鳥類の頭部と人間の身体を持つことと名前が似ていることから、アモンはエジプト神話の太陽神「アメン」が悪魔として解釈されたと考えられている。

また七つの大罪の強欲を司る悪魔「マモン」や、四大悪魔の1柱「アマイモン」と同一視されることがある。

日本では漫画『デビルマン』の主人公、不動明に憑依した悪魔としてその名がよく知られている。

9. パイモン ~魔王に忠実に従う堕天使」

ソロモン王に仕えた悪魔たち

画像:コラン・ド・プランシー著『地獄の辞典』のパイモン(Paymon)の挿絵 public domain

パイモンは、一部が天使と能天使からなる200の軍を率いる序列9番の地獄の王である。

ルシファーの忠実な部下とされ、ユダヤ教神学者からは「アザゼル」、もしくは「アザエル」と呼ばれた。

王冠を被った女性の顔と男性の身体を持ち、トランペットやシンバルなどの楽器を鳴らす精霊たちを率いてヒトコブラクダに乗って現れる。非常ににぎやかな悪魔である。

パイモンが現われた際はとても大きな声で怒号のように話すため、召喚者はまずはパイモンを服従させないと何を言っているのか理解できないという。

あらゆる科学的な知識を持っており、その知識を人に与えたり、良い使い魔を与えてくれる。また召喚者に社会的地位を与え、他者を召喚者の意のままに従わせる能力を持つという。

29. アスタロト ~臭い毒の息を吐く元豊穣の女神」

ソロモン王に仕えた悪魔たち

画像:コラン・ド・プランシー著『地獄の辞典』の挿絵におけるアスタロトの姿 public domain

アスタロトは、40の悪魔の軍団を率いる地獄の大公爵である。

巨大な竜のような獣にまたがり、右手に毒蛇を携えた天使の姿で現れる。口からは耐え難いほどの悪臭もしくは毒の息を吐くため、近づくのは危険とされている。「ベルゼブブ」の傍にロバの姿で現れることもある。

召喚者に悪魔たちの堕落の歴史を伝えたり、あらゆる出来事についての正しい答えを与える能力を持つ。

アスタロトはギリシア語では中傷者を意味する「ディアボロス」と呼ばれ、ヨハネの黙示録に出てくる「我々の兄弟たちを告発する者」と同一視されている。『ゴエティア』では大きく取り上げられてはいないが、ルシファーやベルゼブブとも並ぶ高位の悪魔とされる。

しかし元々は序列1番のバエルと同じく、アスタルトというオリエント世界で崇められていた豊穣多産を司る愛らしい女神で、バアルの妻とされる説もある。

ヘブライ語の女神としての名はアシュテレトで、恥を意味するボシェトの母音を読み込み、異教の女神アシュトレトの名で蔑まれるようになった。

アスタルトは様々な女神と習合されたため各国の神話に取り入れられている。

エジプト神話ではセト神の妻である軍神アースティルティトとして登場し、女神アスタルテとしてはギリシア神話の美の女神アプロディーテやローマ神話の結婚の女神ジュノとも同一視された。

32. アスモデウス ~色欲の悪魔となった拝火教の狂暴な悪神」

ソロモン王に仕えた悪魔たち

画像:『地獄の辞典』、アスモデ(Asmodée)の挿絵 public domain

アスモデウスは、72の軍団を率いる序列32番の大いなる王で、キリスト教において七つの大罪の色欲を司る悪魔だ。

牛、人間、羊の頭にガチョウの足と毒蛇の尾を持ち、手には軍旗と槍を持ちながら地獄の竜にまたがって現れ、口からは炎を噴く。牛、人間、羊はどれも強い性欲を象徴している。

その姿を目の当たりにしても恐れず礼儀を持って接すれば大層喜び、様々な科学的知識を教えてくれたり、貴重な指輪やなぜかガチョウの肉をくれたりする。

名前の語源は、ゾロアスター教の狂暴を意味する名を持つ悪神アエーシュマだ。

欲望のままに行動する狡猾な悪魔であり、ソロモン王からソロモンの指輪をだまし取った逸話が『ソロモン王の遺訓』に記されている。指輪を奪い自由を得たアスモデウスだが、結局指輪はソロモン王の元に返り、アスモデウスは魚の内臓を嫌うようになった。

旧約聖書『トビト記』においては、アスモデウスはサラという美しい娘を気に入り彼女に憑依して、サラには直接手出しはしなかったが、サラが結婚をするたびに初夜で夫を絞め殺してしまった。そんなことが7回もあってサラは人々から悪魔憑きと呼ばれてしまう。

しかし人間になりすました大天使ラファエルが考えた閨の香炉に魚の内臓を入れておくという策略にはまり、サラから離れたアスモデウスはラファエルに捕らえられてエジプトの果てに幽閉されたという。

68. ベリアル ~悪徳のために悪徳に耽る悪魔の中の悪魔」

画像:ヤコブス・デ・テラモ著『ベリアルの書』(1473年版)の挿絵におけるベリアルと配下の姿。画面左よりソロモン王、モーゼ、ベリアルが描かれている。 public domain

ベリアルは、堕天使でもある高名で最も低俗な悪魔で、強大な力を持つ序列68番の80の軍団を率いる地獄の王である。

ベリアルはルシファーの次に創造主によって作られた天使であり「天上にいた時は大天使ミカエルよりも高位の天使だった」と自称するという。

ベリアルは神に破壊のために作られた敵意の天使だった。大天使ミカエルとは対の存在であるベリアルは闇の指導者であり、不信仰の象徴でもあり、邪悪と罪を振りまくことが存在意義とされた。

召喚者の前に燃え盛る戦車に乗った美しい天使の姿で現れ、地位や敵味方問わずの助力と優れた使い魔を与えるといわれる。しかしベリアルを召喚し真実を要求するなら、生贄をささげなければならない。

ジョン・ミルトンは詩集『失楽園』において、ベリアルについて「彼ほど淫らで不埒な天使はいなかった」と歌った。さらには「堕天使の中で彼以上に美しい天使はいなかった」と称えているが、同時にそれはすべて偽りの美しさだと否定している。

ベリアルはソロモン王に他の悪魔ともども封印された後バビロニアの人々によって解き放たれるが、他の悪魔たちとは異なりバビロニアの偽神として残り続け、人々を惑わし続けたという。

ユニークで魅力的な悪魔たち

画像:72の悪霊の召喚に使用される魔法円と三角形

ソロモン王は最終的に72柱の悪魔たちを真鍮の入れ物に閉じ込め、バビロンの湖の底に沈めて封印したが、バビロニアの人々が財宝が入っていると勘違いしてその入れ物の蓋をこじ開けてしまった結果、ベリアル以外の悪魔たちは元の位置に戻ってしまったという。

ソロモン72柱には他にもフェニックスやフルフルなど、映画やゲーム好きの人にとっては聞き馴染みのある名前が列挙されている。

『ゴエティア』に記された悪魔は元神だったり堕天使だったりと多彩な背景を持つため、それぞれ個性があって面白い。人間に近い立ち位置にいて、どこか不完全で人間臭い性質を持つことがその一因だろうか。

人間はなぜか悪魔に魅了されてしまうものだ。もし少しでも悪魔に興味が湧いたなら、自分の推し悪魔を見つけてみてほしい。きっと気に入る1柱が見つかるはずだ。

参考文献

青狼団『魔導書ソロモン王の鍵
草野 巧『図解 魔導書
Joseph H. Peterson『The Lesser Key of Solomon: Lemegeton Clavicula Salomonis
コラン ド プランシー『地獄の辞典

 

北森詩乃

北森詩乃

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娘に毎日振り回されながら在宅ライターをしている雑学好きのアラフォー主婦です。子育てが落ち着いたら趣味だった御朱印集めを再開したいと目論んでいます。目下の悩みの種はPTA。

好きなことを仕事にできたらと思い、神話、芸術、事件についての記事を主に書いています。

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