政治,経済

世界初!アルバニアで「AI大臣」が誕生。汚職対策に期待と不安の声

古今東西、政治家の汚職問題は後を絶ちません。

人間だからどうしても欲に目がくらんだり、人間関係のしがらみにとらわれたりなど……いくら公明正大・清廉潔白を心がけていても、何かしらの落度はあるものです。

しかし私的行為ならともかく、公的な立場にある者がそんなことでは、社会の行く末に深刻な影響を及ぼしかねません。

こんなことなら、いっそAI(人工知能)が政治を行ってくれればいいのに……そう考えたアルバニア(アルバニア共和国)では、世界初となるAI大臣「ディエラ(Diellë)」をリリースしました。

賄賂や脅迫が一切通用しない大臣として、汚職問題の解決に期待が寄せられています。

AI大臣「ディエラ」任命の経緯

画像:汚職問題に頭を悩ませるエディ・ラマ首相 Public Domain

バルカン半島西部に位置し、アドリア海に面するアルバニアは、世界各地で武器や麻薬の密売を行う犯罪組織の拠点とされてきました。

資金洗浄(マネーロンダリング)が横行し、公権力の中枢にまで汚職が及んでいるといいます。

公共入札をめぐっても汚職スキャンダルが頻発。近年では2022年3月にエルバサン焼却炉事件でレフテル・コカ元環境大臣が基礎され、懲役6年8ヶ月の実刑判決を受けました。

またサリ・ベリシャ元首相は不動産取引に関連する汚職疑惑で起訴され、2025年7月に裁判が開始されています。

アルバニアでは2030年までにEU(欧州連合)への加盟を目指しているものの、こうした汚職の根強いイメージが、大きなハードルとなっていました。

このネガティブなイメージを払拭するため、エディ・ラマ首相は2025年9月11日、社会党の集会でAIボット「ディエラ」の大臣任命を発表したのです。

AI大臣「ディエラ」への期待

画像:世界初のAI大臣・ディエラのビジュアル Fair use

ディエラとはアルバニア語で「太陽」という意味。アルバニアの伝統的な民族衣装をまとった女性アバターが公開されています。

彼女は2025年初頭にアルバニアの電子プラットフォーム「e-アルバニア」でAIアシスタントとして導入されたのが、今回の大臣任命につながりました。

ラマ首相は「アルバニアは、公共入札に関して100%不正がなく、入札手続きを経るすべての公的資金が100%透明化した国となるでしょう。これはサイエンス・フィクションではなく、ディエラの義務です」とコメント。

新大臣への期待を語っています。

ちなみにアルバニア政府は、ハッキング防止のため、ディエラの運用システム(状況判断や意思決定のアルゴリズムや、その正当性を裏づけるチェック手段や詳細技術など)については公開していません。

AI大臣「ディエラ」に対する国民の反応

画像:AI大臣の起用は、SNSでも議論の的に(イメージ)

世界初となるAI大臣の起用に対して、アルバニア国民はもちろんのこと、世界各国の反応は様々です。

今回のディエラ起用を支持する人々は、意思決定のプロセスから人間を排除することで恣意的な政治の偏りが減少し、より公正でクリーンな政治を実現できると主張します。

一方で、AIツール自体が不正操作や偏向的なプロンプト入力から完全に保護されるのか、そしてAI大臣の決定に人間が異議を唱えられるのか=支配を受け入れねばならないのかなど、ディエラ自体の中立性を懸念する声も上がっているようです。

不正防止のために技術的・運用的な仕組みがブラックボックス化されていることから、ディエラ自身をチェックする手段が確立されていない点は大きな懸念点と言えるでしょう。

SNS上ではディエラの起用について懐疑心や好奇心が様々に反映されており、中には「政治的な不具合があった場合、人間ではなくAIツールに責任を押しつけるかも知れない」という意見も出されていました。

AI大臣「ディエラ」今後の運用スケジュールは?

画像:AIが人間を統治する日も近い?(イメージ)

今回の発表を受けて、多くのアルバニア国民が注目しているのは、AI大臣「ディエラ」の運用スケジュールです。

彼女はいつから政務に携わるのか?省庁や自治体が運用初日からすべての入札権限を彼女に移譲するのか?あるいは試行時期を経て段階的に委譲するのか?等々、AI大臣を導入する影響は、全国各地に波及するでしょう。

しかし、首相官邸はAI大臣「ディエラ」に関する運用スケジュールを明らかにしておらず、その影響についても詳しいことは語っていません。

今後、AI大臣起用の試みが上手くいけば、アルバニア国内の他省庁や他国においても起用が進む可能性が考えられます。

人間社会の意思決定をAIに委ねてしまうことについては、今後議論が活発になることでしょう。

【参考】アルバニア共和国・基本データ

画像:アルバニア国旗 Public Domain

建国:1912年11月28日(オスマン帝国から独立)

歴史:公国⇒共和国⇒王国⇒共産主義⇒共和国

名称:レプリカ・エ・シュチパリサ(アルバニア語)

国旗:赤地に双頭の鷲

標語:汝アルバニアは我に名誉、そしてアルバニア人の名をもたらす

首都:ティラナ

政府:バイラム・ベガイ大統領/エディ・ラマ首相

面積:約28,748平方キロ(日本の約7.6%)

人口:約279.1万人

通貨:レク(1レク=約1.7円)

言語:アルバニア語

宗教:イスラム、ギリシャ正教会、カトリック等

※記事掲載時点。

※参考:
Albania names AI bot ‘Diella’ as procurement minister in anti-corruption push(和訳:アルバニア、汚職撲滅に向けAIボット「ディエラ」を調達大臣に任命)
文 / 角田晶生(つのだ あきお) 校正 / 草の実堂編集部

アバター画像

角田晶生(つのだ あきお)

投稿者の記事一覧

フリーライター。日本の歴史文化をメインに、時代の行間に血を通わせる文章を心がけております。(ほか不動産・雑学・伝承民俗など)
※お仕事相談は tsunodaakio☆gmail.com ☆→@

このたび日本史専門サイトを立ち上げました。こちらもよろしくお願いします。
時代の隙間をのぞき込む日本史よみものサイト「歴史屋」https://rekishiya.com/

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く
Audible で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. 金正日について調べてみた【世襲はなぜ隠されたのか】
  2. 【サダム・フセインの野望】 なぜイラクはクウェートに侵攻したのか…
  3. 「マンジ ザ・マウンテン・マン」この悲劇を繰り返すまい…最愛の妻…
  4. 【ロシアを擁護するトランプ】中国は台湾に侵攻する意欲を増強させる…
  5. マッコウクジラの腸結石(アンバーグリス) を海辺で拾えば一攫千金…
  6. ミシシッピ計画について調べてみた 【世界三大バブル】
  7. 『天国にいちばん近い島』 ~ニューカレドニアの魅力
  8. 「世界一出世した軍人」ドワイト・D・アイゼンハワー

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

消えたセイスモサウルス 「もう一つの超巨大恐竜」

もう一つの消えた超巨大恐竜1979年といえば、コロラド州で現在では無効名となっているウルトラサウ…

袁紹は、なぜ勢力を拡大できたのか? 【三国志正史を読み解く】

三国志といえば、曹操、劉備、孫権が有名ですが、全く知らない人でも諸葛孔明くらいは聞いたことがあるとい…

西郷隆盛と長州征伐について調べてみた

島津久光が薩摩藩の藩主となった当時、西郷隆盛とはそりが合わず、久光に同行して上京する際も、西郷は独断…

【真珠湾攻撃を可能にした日本の恐るべき兵器】 九一式魚雷

真珠湾攻撃の成功太平洋戦争の初戦となったハワイ・真珠湾への日本海軍の攻撃は、1941年(…

『富士川の戦い』本当に平家は「水鳥の羽音」で敗走したのか?史実か創作か

「平維盛(たいらのこれもり)率いる平家軍が、夜間に水鳥の羽音に驚いて敵前逃亡した」この有名な…

アーカイブ

人気記事(日間)

人気記事(週間)

人気記事(月間)

人気記事(全期間)

PAGE TOP