思想、哲学、心理学

本当は嘘?「男脳・女脳」は非科学的

バラエティ番組や、1998年に超ベストセラーとなった書籍『話を聞かない男、地図が読めない女』ですっかりお馴染みとなった男脳女脳の概念

子育て時に親が感じる男児女児の違いや、異性愛カップル間で「あるある」なすれ違い等、

「どうして男はああで、女はこうなのか」

という説明のために使われることが多い概念だ。

本当は嘘?「男脳・女脳」は非科学的

今回は、この男女脳について掘り下げていこう。

■実は間違い?脳科学

世の中に出回っている書籍や記事、番組は、男女のよくある違いを「男女脳」で説明されている事例が少なくない。

一見、納得できるような説明であることが多いが、実は脳にまつわる通説として信じられているものの多くが非科学的であるとも言われている。

2009年にOECD(経済協力開発機構)が発表した「神経神話」として、「ヒトは脳全体のうち10%しか使えていない」「世の中には右脳人間と左脳人間が存在する」「脳にとって重要なことは全部3歳までに決まる」、そして「男性の脳と女性の脳は異なる」といったものを挙げている。

科学や統計学によって人体を研究していくと、一定の傾向などが観察される。
これは基本的に研究者の持つデータであり、この時点では科学性を保っている。

しかし、実際に専門外の一般人に公開された途端、「●●なら▲▲だろう!」という雑な感情的結びつけをされてしまい、客観的な科学的データから「非科学的な俗説」になってしまう。

男女に違いはあるが「脳のせい」で片づけてしまうのは乱暴すぎるようだ。

■脳について科学は何と言っているか

男女脳の差異を語る際に最もよく挙げられるのが「脳梁」だ。

1980年代に「女性の脳梁は男性よりも太いため、左右の脳の連携がスムーズ」だという論文が発表されて以来、これは科学的事実として信じられてきた。

しかし実はこの論文、被験者の数は男性9人と女性5人の合計14人のみであり、データの数が圧倒的に少ないことが分かっている。

たった14名の男女の傾向が、約70億人の脳の違いを説明できるだろうか。いや、できはしない。

本当は嘘?「男脳・女脳」は非科学的

その後、2015年イギリスで行われた研究では、6000人分のMRIを解析した結果、男女の脳に明らかな差異はないと発表されている。

この研究においては、脳梁の大きさ、記憶を司る海馬の大きさの男女差が見つからないとされた。

また、一般に支持されがちな「男性と女性では脳による言語処理の方法が大きく異なる」という説もまた、同時に否定された。

脳はサイズだけでなく神経ホルモンが重要な働きを担っている。

どのような条件下でどのように神経が興奮するか。どういったホルモンがどのくらいの量分泌されるか。

そこまで踏み込んだ研究はまだ足りないと言えるだろう。

もしかすると、脳とは違った生物学的要素が男女の行動を左右しているかもしれない。

■男女脳の存在を否定する立場

東アジア人は血液型占いが大好きだ。

しかし欧米人からすると血液型で性格を決めつけるのは非科学的で不気味と思われがちだ。

ナチスドイツ時代には「勤勉なゲルマン民族はA型であり優秀だが劣等民族のアジア人やユダヤ人にはB型が多い」といった明らかな差別が行われていたことも背景にある。

同様に、男女脳診断TV番組などでもすっかりお茶の間に浸透したが、これも血液型占いと同様のセンシティブな話題だということを認識しておきたい。

男女の性役割がステレオタイプな社会では、生得的な脳の差だけでなく後天的な経験や学習の影響が大きい。

例えば虐待など極度のストレス状況下に置かれた子供の脳は、一部が委縮して成長するという研究も存在する。

つまり、女/男らしくあろうとする行動や考えが脳や体を女性化/男性化させていくこと、はある程度考えられる。

男女脳否定派には、社会的弱者になりがちな女性やLGBTの当事者が多い。特にフェミニストは、「生まれつき女はこうだから」という決めつけにより不利益を感じ続けてきたため、生得論には烈火のごとく反論する。

しかし男女脳の機能やスペック比較としてではなく、社会における男女観や個人の心理面を含めて論じてみると新しい視野が開けるかもしれない。

男/女の脳は生まれつきこうなので、このような違いがある

という生得論が現在の男女脳論の流れだが、

男/女であるという自意識はどのように生まれるか
男/女らしくあろうとする考えは、どのように脳に作用するのか

といった観点であれば、個々を決めつけることもなく新しい知見が得られるに違いない。

■男女という枠組みを超えた現実がそこに

男女だけではなく、LGBTの知れ渡った令和の世の中では「男脳・女脳」議論は力不足感を否めない。

男性にも様々な体格・体質の人がおり、女性にも色々な考え方・生き方の人がいる
つなり脳も最終的には個々で異なることは明らかだ。

また、解剖学的な観点だけでなく社会心理学的な視点を取り入れることは研究に豊かさをもたらす。

なぜ男性/女性は、男らしく/女らしくあろうとするのか
なぜ女性がズボンを履いても変だと言われないのに男性はスカートを履くと怪訝な目で見られるのか

他にも

トランスジェンダーはなぜ体と一致しない心を持つのか
女言葉を使いつつヒゲを生やすゲイは、どのような心理を持っているか

といったトピックを、飲み屋の世間話レベルではなく本格的な研究機関が調査してみると興味深いだろう。

古色蒼然とした「男/女」の枠組みから一歩踏み出し、豊かな次元から性の心理を解明していく試みが今後発展していくかもしれない。

 

ニジクマノミ

ニジクマノミ

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