思想、哲学、心理学

【奇妙な同棲生活はセックスレス!?】 ニーチェの謎に満ちた恋愛生活

ニーチェといえば「神は死んだ」というキラーフレーズがとても有名です。

この言葉だけ聞くと「中二病?」などと思ってしまいそうですが、もちろんそうではありません。

この記事ではニーチェの哲学思想と、彼の恋愛生活について紹介していきます。

ニーチェの生い立ち

ニーチェ

画像 : 1861年のニーチェ public domain

1844年、ニーチェが生まれた当時、まだドイツという国はありませんでした。
彼の出身であるザクセン地方は、プロイセン王国の統治下にあったのです。

いくつもの諸邦や自由都市であったドイツが統一を成し遂げて、工業化が急速に発展する中でニーチェは育ちました。
幼少の頃から聖書を読んだり、作曲したりと、多才っぷりを発揮したまさに神童でした。

24歳と言う若さでスイスのバーゼル大学教授に大抜擢されましたが、健康上の理由により、1879年大学を辞職します。
その後、10年に及ぶ思想的浮浪を経て、1889年に精神錯乱の兆候が出始めます。

そして1900年、ニーチェはワイマールで55歳と言う若さで亡くなりました。

ニーチェの哲学思想についてざっくり説明

ニーチェ

画像:フリードリヒ・ニーチェ public domain

ここではニーチェが提唱した「超人」「永劫回帰」「運命の愛」「権力への意思」というキーワードについて、簡単に説明していきます。

超人

ニーチェは神に変わる存在として「超人」という存在を提起しました。

超人といってもアメリカ映画の主人公のように、空を飛んだり壁を登っていくようなスーパーマンとは違います。
ここでの超人とは人々を支配する存在のこと。

人々は超人に支配され服従するしかない」と定義しているため、「神の前に人はみな平等」と考えるキリスト教や民主主義とは、真っ向から対立する考え方なのが分かります。

これだけ聞くと「私たち民衆は服従するしかないのか?救いは無いのか?」と思えてしまいますが、ニーチェの真意はその逆です。
誰でも超人になれるチャンスがある」と指摘しているのです。

永劫回帰

永劫回帰」とは、神も天国も地獄も存在せず、人間は同じ人生をただグルグル繰り返しているという概念のことです。

これは「どうせ世界で起こる出来事は永遠に繰り返されるのだから、来世に期待することなんて止めて、喜びや苦悩も含めて今の人生をたくましく生きよう」という意味が込められています。

人生に対して、かなり肯定的で力強いメッセージです。

運命の愛

運命の愛」とは、楽しいことも辛いことも何も起こらなくてつまらない…と感じる日常も含めて、自分の身に起こる運命をすべて愛する態度のこと。

ニーチェは「どんな境遇であってもそれを受け入れて、自分の人生という枠の中で精いっぱい努力をすることで、私たちは本来の創造性を発揮できる」と考えたのです。

自分の人生を全肯定して積極的に生きぬこうとする、超・ポジティブ思考なのが分かります。

権力への意思

権力への意思」とは「もっと強く」「もっと大きく」「もっと高みへ」…と自分自身を拡大させようとする能動的な力のこと。
他者に押しつけられた常識や、古い価値観に縛られて生きることは、自分の「生」そのものを否定することつながるとニーチェは考えました。

つまり「社会や世間のこうあるべき、という押し付けられた価値観なんてぶち壊して、自由になろう!」と言っているのです。

このようにニーチェは「絶対的な生への肯定」を説き、当時依然として影響力が強かったキリスト教と民主主義的な思想を弱者の道徳、ルサンチマン(うらみ、つらみ、嫉妬)であると批判したのです。

ロシア美女の虜になったニーチェの奇妙な同棲生活

そんな新たな哲学の思想を提唱し、哲学の歴史の流れを変えたニーチェには、心の底から惚れ込んだ女性が居ました。

彼女の名前はルー・フォン・サロメ

ロシアの将軍の娘です。

画像 : ルー・ザロメ(1914年) public domain

二人を引き合わせたのはニーチェの親友の哲学者・パウル・レーで、彼もサロメにぞっこんだったようです。

レーから「頭が良く才気あふれた美女がいるぞ」と聞かされていたニーチェは、まだ会ってもいないのに既に恋心を抱いており、初対面で既にサロメに完全にはまり込んでいました。

一方、サロメはニーチェに対して尊敬や好奇心といった気持ちを抱いていましたが、ニーチェの身なりや清潔感の無さなど、受け入れることが難しかったようです。

とはいえ、ニーチェと話をすることは彼女にとっては刺激的で、二人で長時間会話をすることも多かったと言われています。

その後、ニーチェから積極的なアプローチを受け続けることに困り始めたサロメは、ある奇妙な提案をしました。

レーと一緒に3人で暮らそう」と言い出したのです。

冷静に考えれば、こんな提案をされた時点で恋愛対象としては見られていない気もしますが、ニーチェはこの提案を承諾。

こうして、恋愛感情を含みながらも性的関係を持たないという、なんとも奇妙な男2人女1人の同棲生活が始まったのです。

ニーチェ

画像:「三位一体」的共同生活時の3人。ルー(左)、パウル(中央)、ニーチェ(右) public domain

しかしそんな謎に満ちた同棲生活も半年も経つと、ニーチェはサロメに対する結婚への期待よりも、疑惑の気持ちの方が強くなっていきました。

その後、ようやく彼女に結婚する意志がないことが分かり、ニーチェはサロメに別れを告げて同棲生活に終止符を打ったのです。

おわりに

ニーチェは、難しい概念を提唱した哲学者とはいえ、好きな女性に猛アタックしたり、同棲したり、失恋したり…と私たちと同じような体験をしていたのです。

これまでのニーチェに対する「何やら小難しい思想を持った哲学者」というイメージが少し変わったのはないでしょうか。

この失恋が、有名な『ツァラトゥストラ』を執筆する大きな動機になったと言われています。

参考 :
飲茶の「最強!」のニーチェ 著:飲茶
哲学と宗教 著:島崎晋
はじめてのニーチェ (1時間で読める超入門シリーズ)  著:適菜 収

 

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