海外

中国による一帯一路「氷上のシルクロード」を考える 〜中国の北極航路は日本を通過する

北極海の海氷融解が進み、航路やその下に眠る天然資源の開拓を巡って、国家は新たな可能性を得ようとしている。

北極海航路は、パナマ運河やスエズ運河を通過する航路に比べて大幅なショートカットになり、また、世界で採取されていない石油の13%、天然ガスの30%が眠っているとされる。

令和時代には北極海を巡る国家間競争は、いっそう激しくなることだろう。

北極へ接近する中国

画像 : 北極海 public domain

近年、中国の北極海への関与は著しい。

北京は2018年1月下旬、北極開拓についての戦略を掲げた「北極白書」を初めて発表し、ロシア側の北極海沿岸を通ってアジアと欧州を結ぶ第3の一帯一路、「氷上のシルクロード」構想を打ち出した。

中国は、ロシアやノルウェー沿岸、アイスランドやデンマーク領グリーンランドへ投資を拡大したり、独自の砕氷船「雪竜」で北極海横断を成功させたりするなど、積極的な関与を見せている。
また、米国とロシア、ノルウェーとデンマーク、カナダの沿岸国を加盟国とする北極評議会にも、中国はオブザーバー国として長年参加し、北極開発のルール作りで影響力を高めようとしている。

こういった中国の姿勢に対し、米国は警戒感を強めている。

米国のポンペイオ国務長官は2019年5月、訪問先のフィンランドで北極海を巡る情勢について演説し、「北極海は新たな戦略空間となっているが、関係各国は共通のルールに基づいて行動するべきだ」との認識を示し、また、「北極海を新たな南シナ海にしてはならない」と中国を強くけん制した。

米国は中国の関与を排除したく、北極海が新たな米中対立の場とならないよう、安全保障的な視点から北極への関与を強めようとしている。

中国の北極航路は日本を通過する

画像 : 氷上シルクロード (researchgate)CC BY-NC-ND 4.0

そして、中国が北極政策を強化するならば、その氷上のシルクロードは必然的に日本近海を通過することとなる。

具体的には、九州の北にある対馬海峡から日本海に出て、宗谷海峡や津軽海峡を抜けベーリング海に抜けるルートだ。

よって、それは日本周辺の海洋安全保障秩序だけでなく、日本の北極外交にも影響を与えることが予想される。
また、天然資源が豊富な北極海は、資源エネルギーに乏しい日本にとっても極めて重要な地域だ。日本企業も北極海に大きな期待を寄せ、その開拓に積極的に関わろうとしている。

北極海は、経済や環境といった側面だけでなく、安全保障や軍事上の戦略空間となりつつある。

これまでの国際政治は、いってみれば北極海は凍っているという前提で語られてきたのであり、海氷が溶けて船(海軍)が通過できるようになれば、米中(露)間の競争は北極海でも生じるようになる。

また、債務の罠に陥っているスリランカやパキスタンのように、中国はカナダやノルウェー、アイスランドやデンマーク(グリーンランド)へ同様のアプローチを仕掛け、影響力を高めようとすることは想像に難くない。

日本は米国との協力を

中国の北極海関与を牽制するためにも、日本は米国と協力を強化することも1つだろう。

例えば、日本としては、中国企業の関係各国への進出、人民解放軍の北極展開などで米国と情報共有を密にするだけでなく、氷上のシルクロードの始まりである対馬海峡や宗谷海峡での海上監視などで米軍と協力を強化することも必要だろう。既存の一帯一路政策でも、綻びが目立ち始めている。

今後、いっそうアジアやアフリカ諸国から反発や抵抗の声が高まることが予想されるが、そうなると、資源ほしさに中国は北極海への関与をいっそう強めてくるだろう。ポンペイオ国務長官が指摘したように、中国が共通のルールに基づいて行動することを望むが、これまでの経緯からそうなりそうにない。

日本としては、今のうちから北極海への関与を強め、また、日米同盟を基軸に米国と安全保障協力を強化することを考えるべきだろう。

文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部

アバター

エックスレバン

投稿者の記事一覧

国際社会の現在や歴史について研究し、現地に赴くなどして政治や経済、文化などを調査する。

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く
Audible で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. 【500年以上前に沈没】 南シナ海で発見された明時代の沈没船
  2. 『トランプ政権発足100日』トランプは日本をどう見ているのか 〜…
  3. 奇行の画家・ゴッホの謎の死 「いくつもの精神疾患」
  4. 『中国の狙いはこれ?』戦わずに台湾を制圧する“海上封鎖”戦略とは…
  5. 中国にある死亡村とは? 【謎の奇病、男女が入れ替わる?】
  6. ロシア帝国の歴史とロマノフ朝について調べてみた
  7. 【貧乏でも高級服を身にまとう】サプールという生き方 ~武器を捨て…
  8. 『台湾で何が起きているのか』義務兵役復活、市民が銃を学ぶ、避難用…

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

桓帝 「後漢末期の流れを作った皇帝」宦官vs清流派

数字を見ると分かる後漢皇帝の異常な年齢三国志の舞台となる後漢は、西暦25年の成立から220年の滅…

始皇帝と秦王朝の中国統一までについて調べてみた

紀元前221年、始皇帝は「秦(しん)」の王となってから、わずか26年で中国全土を統一した。中国初の統…

信長を苦しめた斎藤龍興と、知られざる猛将・岸信周、信房親子「美濃平定」

はじめに織田信長(おだのぶなが)は永禄3年(1560年)に桶狭間の戦いで今川義元を討った後、三河…

千利休はなぜ秀吉に切腹させられたのか? 「木像事件説、三成黒幕説、利休の娘説~」

千利休の切腹天正19年(1591年)2月28日、1人の茶人が切腹して果てた。侘び茶の完成…

張挙の野望と張純の乱【三国志の時代、皇帝を僭称した袁術だけではなかった】

男として生を享けた以上、目指すは天下、皇帝の座……世が乱れれば乱れるほど、多くの者が野心を抱き、天命…

アーカイブ

PAGE TOP