海外

日本の苗字「五十嵐」から名付けられた?台湾人気ドリンク店・50嵐の名の由来

飲料大国 台湾

画像 : タピオカミルクティー イメージ

台湾人は、とにかく「飲み物」が好きである。

「飲料」と言うと少し堅苦しい響きがあるが、つまりはタピオカミルクティーをはじめとするドリンク文化のことだ。日本でもかつてブームとなったタピオカ店だが、台湾ではその数が桁違いに多い。

どの通りにも所狭しとドリンク店が並び、全国どこへ行っても黄色い看板や可愛らしいカップのロゴが目に入る。大手チェーンから個人経営までさまざまで、驚くことにほとんどの店が長く営業を続けている。

台湾人には「この店のミルクティーでなければ」というお気に入りの店がそれぞれあり、多少遠くても通い続けるのだ。

ドリンク店は開業資金が比較的少なく、原料の中心が「水」であることから、よほどの経営難でない限り倒産しにくいと言われている。

画像 : 台湾のドリンクスタンド店「清心福全」 wiki c

とはいえ競争は激しく、各店はそれぞれ独自の“得意分野”を打ち出している。

黒糖タピオカの濃厚な風味を売りにする店もあれば、烏龍茶やプーアール茶といった本格茶葉を低価格で提供する店、あるいはその場で果物を搾るフレッシュジュース専門店もある。

台湾では、どのスタイルも根強い人気を誇る。

価格帯は、茶系が30元前後(約135円)、果物系が100元(約450円)ほど。30元でも十分に香り高く、コンビニでお茶を買う感覚で本格的な味が楽しめるのが台湾らしい。

また、台湾のドリンク文化を象徴する特徴が「カスタマイズ」だ。

砂糖の量(無糖・微糖・半糖・全糖など)や、氷の量(多め・普通・少なめ・氷なし)を選ぶことができる。毎日飲む人も多く、糖分の摂り過ぎを気にする声もある。

そのため、ドリンクの蓋には「砂糖の取りすぎに注意」「無糖がおすすめ」といった注意書きが印字されている。
日本のたばこの「健康に害を及ぼします」に似た、台湾独自の“健康警告”である。

「50嵐(ウーシーラン)」とは

画像:台北・松山區の50嵐民生店 玄史生 via Flickr / CC0

台湾で最も知られたドリンクチェーンといえば、やはり「50嵐(ウーシーラン)」だろう。

黄色い看板に青いロゴが目印で、街を歩けば必ずどこかに見つかるほどの人気を誇る。
台湾本島はもちろん、離島にも支店があり、「50嵐を知らない台湾人はいない」と言っても過言ではない。

メニューは豊富で、タピオカの種類やトッピングの数が多く、烏龍茶や紅茶などのお茶類も充実している。

価格は手頃ながら、どの店舗でも味のブレが少なく、安定して美味しいと評判だ。

同じ名前の看板でも、どの地域でも同じ味が楽しめること。それが50嵐が長年にわたって愛されてきた理由のひとつである。

日本でも「KOI Thé(コイ・ティー)」という姉妹ブランドが展開されており、沖縄や広島、東京などに店舗を構えている。

味の傾向やメニュー構成は本家50嵐に近く、日本でも台湾の味を楽しめるとして人気が高い。

50嵐の起源

画像 : 50嵐(筆者撮影)

「50嵐」という名前は、少し不思議に聞こえるかもしれない。

筆者のある友人が看板を見て「台湾にもアイドルグループの“嵐”が好きな人がいるの?」と冗談めかして言ったことがある。だが、もちろん日本のアイドルとは関係がない。

50嵐の歴史が始まったのは1994年のこと。

創業者の馬紹維(マー・シャオウェイ)氏が、台南で家族が営んでいたフライドチキン店の隣に、小さなフレッシュジュースの屋台を開いたのが始まりだった。

最初は名前もない簡素な店だったが、日を追うごとに客が増えていった。

やがて馬は、店の名をつけようと考えた。
ある日、ふと手に取った日本の雑誌の中に「五十嵐」という人物名が目に留まった。

その響きが覚えやすく、親しみやすいと感じた彼は、「これならおばあちゃんでも覚えられる」と考え、店の名前に採用したという。

こうして生まれた「50嵐」は、わずか一台の屋台から出発し、やがて台南市内に次々と店舗を増やしていった。現在では、台湾全土に600店舗を超える巨大チェーンへと成長している。

台湾には数え切れないほどのドリンク店が存在するが、50嵐の魅力は「味と価格の安定感」にある。
台湾で暮らす筆者にとっても、青と黄の看板を見つけるとほっとする。

その店名が、偶然にも日本人の名字「五十嵐」から来ているという事実が、さらに親しみを感じさせるのだ。

台湾に訪れた際には、ぜひ一度足を運んでみてほしい。

参考 : 『北區50嵐公式サイト』『台南小攤變身全國最大冷飲加盟店』他
文 / 草の実堂編集部

草の実堂編集部

投稿者の記事一覧

草の実学習塾、滝田吉一先生の弟子。
編集、校正、ライティングでは古代中国史専門。『史記』『戦国策』『正史三国志』『漢書』『資治通鑑』など古代中国の史料をもとに史実に沿った記事を執筆。

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く
Audible で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. 『古代の奇策』ペルシア軍は猫を盾にして勝利した?ペルシウムの戦い…
  2. 『北欧で進む徴兵制』ウクライナ侵攻がもたらした北欧諸国の軍備強化…
  3. 「最近の蚊は素早くなった?」逃げ切る蚊の新習性~効果的な撃退方法…
  4. 【アメリカ最悪の集団ヒステリー事件】 セイラム魔女裁判とは 「1…
  5. フィリピンで普及するPiso WiFiとは「フィリピンのインター…
  6. ジンバブエの過酷な現在 【アフリカ食糧庫からの転落、ムガベ独裁後…
  7. マレーシア最古の都市マラッカについて調べてみた
  8. ロンドン塔について調べてみた【イギリス屈指の観光スポット】

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

十八地獄について調べてみた 「そもそも地獄とは一体なにか?」

そもそも地獄とは一体なにか?迷信や言い伝えは、子供を怖がらせていたずらをさせないために使…

【MA-1ブーム再燃!】フライトジャケットの魅力

2017年から始まったMA-1の人気は2018年も衰えることなく、新たな定番となっている。だ…

実は源頼朝だけじゃない。落馬で亡くなった和田義茂(和田義盛弟)の最期【鎌倉殿の13人】

「しかし情けねぇよなぁ。源氏の棟梁が馬から落ちて死ぬなんてよぉ……」NHK大河ドラマ「鎌倉殿…

家紋はなぜ生まれたのか? 「公家と武士の家紋の違い」

家紋とは何?日本では、世界的に見てもユニークな「家紋」という文化があり、今でも多くの家に…

オスタルギーとは何か?東西ドイツ統一後の東ドイツについて調べてみた

東西ドイツ統一1989年11月9日ベルリンの壁崩壊、翌年の1990年10月3日東西ドイツ…

アーカイブ

人気記事(日間)

人気記事(週間)

人気記事(月間)

人気記事(全期間)

PAGE TOP