「ロシア内戦」が一時SNSのトレンド入り
2023年6月24日の朝、ロシアから衝撃的なニュースが飛び込んできました。
民間軍事会社・ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏が、ロシア南部にあるロストフの軍事施設を占拠。武装蜂起を呼びかけました。
そのあとワグネル軍は北上し、モスクワへの進軍を開始しました。
この事態を受けてプーチン大統領は夕方に緊急演説を行い、ワグネルを「裏切り」と呼び、処罰を加える意向を表明しました。
SNS上では「ロシアでクーデター?」「ロシアは内戦に突入したのか?」という声が多くあがり、ものものしい雰囲気となっています。
大きな歴史的転換点になるかもしれないのに、日本のテレビでは一向に報道されないため、私はSNSを通じて事態の推移を見ていました。
結果としてワグネルは、モスクワまで200キロのところで進軍を停止。プリゴジン氏は「ロシアの血が流される責任を理解し、隊列の向きを変える」という声明を発表し、今回の武装蜂起の終結を宣言しました。
納得できない結末
占拠していたロストフの施設からもワグネルは撤退し、24日の朝に起きた一連の騒動は、当日の深夜にあっけない結末を迎えました。
一部報道によるとベラルーシのルカシェンコ大統領が仲介を果たし、首謀者であるプリゴジン氏はベラルーシに亡命。プリゴジン氏をはじめ、武装蜂起を決行したワグネルの兵士たちも無罪放免になるそうです。またプリゴジン氏が終始批判を繰り返していた「ロシア国防省の人事」も刷新されるという情報もあります(2023年6月25日現在)。
「結局、プリゴジン氏は何をしたかったのか?」という疑問だけが残り、腑に落ちない結果となってしまいました。
そこで今回は、ウクライナ研究の第一人者とされている岡部芳彦先生(神戸学院大学教授)が、昨夜緊急生配信した「なぜワグネルが裏切ったのか?」の動画内容をまとめてみたいと思います。
今回の事例を過去にあてはめると、西南戦争
まず岡部先生は言葉を選びながらも、今回のプリゴジン氏による行動は「西南戦争」に似ていると説明します。
西南戦争とは、1877年に西郷隆盛をリーダーとして起こった士族最大の反乱です。国内で最後に起きた最大の内戦といわれ、九州南部が戦地となりました。
明治維新(近代化)によって武士(旧士族)たちの利益が奪われる現状を受けて、西郷隆盛が明治政府に対して、意見を伝えることが本来の目的だったと言われています。
西郷はあくまでも小規模な暴動で抑えることを想定していたそうですが、周囲の人間が事態をエスカレートさせてしまい、結果として戦争へと発展してしまいます。
西郷の軍は熊本城や田原坂などで激戦を繰り広げましたが、明治政府軍の圧倒的な兵力に敗れ、西郷は鹿児島市郊外で切腹しました。
ただ謝罪してほしいだけ
岡部先生は西南戦争を引き合いに出し「プリゴジン氏にクーデターの意図はそもそもなかったのではないか」と言います。
プリゴジン氏はウクライナでの戦況が芳しくない原因を、ロシア国防省のショイグ氏とゲラシモフ参謀総長にあると以前から非難しています。プーチン大統領は、この2人に騙されているという立場です。
プリゴジン氏はプーチン大統領を名指しで批判したことはありません。過激な言葉を使い、感情を露わにするビデオで注目を集めたプリゴジン氏ですが、プーチン大統領に対しては慎重に言葉を選んでいる印象です。
プリゴジン氏の目的は、ショイグ氏とゲラシモフ氏から謝罪を引き出すことではないか、というのが岡部先生の見解です。
プリゴジン氏は、両者を現在の地位から引きずり下ろすことを望んでいる、というSNSの情報もあります。
異色の経歴を持つプリゴジン氏
つまりプリゴジン氏は「今までワグネルを捨て駒のように扱ってすいませんでした」という言葉がほしいだけであり、あまり深い意図を持って行動を起こしているとは思えないということです。
まるでヤクザ映画のような展開で私たちの常識では理解できませんが、プリゴジン氏の経歴を見ると、まさに彼は仁義に厚い人物かもしれません。
1961年6月1日、プリゴジン氏はレニングラードで生まれました。1981年には、強盗と詐欺の罪で懲役12年の判決を受けています。
刑務所から早期釈放されたあと、1990年にホットドッグの販売を開始して大成功を収めています。1995年あたりから事業を拡大、人気レストランを多く経営し、大富豪となりました。
2000年代に入って、プーチン大統領に接近。政府から大型契約を受注して、ますます裕福となり「プーチンのシェフ」と呼ばれます。
ロシア軍を支援するために、2014年にワグネル・グループを設立。活動範囲をシリアやアフリカへと拡大し、現在のウクライナ戦争では、今年初めにバフムートの占領作戦を成功させました。
プリゴジン氏にとって、プーチン大統領はまさに命の恩人です。
叩き上げの人生を送ったプリゴジン氏からすると、エリート官僚のショイグ氏やゲラシモフ氏に生ぬるさを感じて、ストレスを抱いても不思議ではありません。
今後の展望
今回の事態を受けて、ロシアの弱体化が明らかになったため、他の民族(武装)グループが反乱を計画する危険性を、岡部先生は指摘しています。
連邦国家であるロシア国内には200以上の民族が生活しており、プーチン大統領への忠誠心が低いグループも存在します。今後彼らが大きな力を結集して、反乱(クーデター)を起こす可能性があるとのことです。
今回のプリゴジン氏による武装蜂起は一応の収束を見せていますが、これからどのような展開を見せるのか、まったく予断を許さない状況が続いています。
「ベラルーシに亡命したプリゴジン氏はどうなるのか」「今回の事態を受けて、ウクライナ戦線への影響はどれほどあるのか」
など、今後も引き続き状況を見守る必要があります。
この記事へのコメントはありません。