世界には、立ち入ると恐ろしいことが起きるといわれる「7大禁足地」と呼ばれる場所がある。
そのうちの1つが、メキシコのソチミルコ区域のテシュイロ湖に浮かぶ「ラ・イスラ・デ・ラ・ムネカス」という人工の小さな島だ。
この島は通称「ソチミルコの人形島」と呼ばれており、こちらの呼び名の方が日本では浸透している。
世界7大禁断の地のいくつかは立ち入ると現実的な危険が伴う場所であるが、ソチミルコの人形島を訪れてもそういった危険はない。
この島が危険とされているのは、島全体が醸し出す不気味さと呪われた逸話ゆえである。
今回は世にも不気味な呪われた島、ソチミルコの人形島について解説していこう。
ソチミルコ区域の特徴
まず最初に、ソチミルコという区域の特徴について解説しよう。
ソチミルコは南米メキシコの首都であるメキシコシティ内の、16の管轄区域のうちの1つだ。メキシコシティの中心部からは南へ28km離れた場所に位置している。
ソチミルコはアステカ文明から続く伝統が色濃く残る地域で、今も古代文明独特の雰囲気を残しており観光地としても人気がある。
平均標高は高く2200mもあり、区の北部は平地で市街地が広がり、南部には2500m以上の山々が連なっている。
ソチミルコは運河の町としても有名だ。現代も交通路として使用される無数の運河は古代メキシコ盆地に広がっていたソチミルコ湖の名残で、岸辺やアステカ時代から続く「チナンパ」と呼ばれる浮島状の農地の間を縫うように流れている。
運河を行き交うトラヒネラというカラフルな遊覧船や様々な花々や作物が並ぶ市場に加え、レトロな建物と豊かな自然が織りなす異国情緒あふれる光景は、今やソチミルコの重要な観光資源となっている。
ちなみにソチミルコ(Xochimilco)は先住民族の言語であるナワトル語で「花の野の土地」、つまりは花畑のような土地を意味している。
日本でクリスマスシーズンの鉢植えとして人気があるポインセチアはメキシコ原産の花であり、時期になるとソチミルコの市場にも多くのポインセチアが並べられる。
ソチミルコの人形島への行き方
ソチミルコの人形島は運河の合間に浮かぶチナンパの1つだ。人形島に行くためには、舟を使う必要がある。
メキシコシティの中心地から向かう場合は地下鉄から路面電車に乗り換えて、ソチミルコ駅から徒歩やタクシーで船着き場まで行き、そこからトラヒネラに乗る。
船着き場から人形島は遠く離れており、片道2時間ほどかかる。
人形島の手前には人形島のレプリカの島があり、ツアーやガイドの質によってはそちらに案内されてしまう事があるので注意が必要だ。
もし人形島に行くなら、信用できるツアーに申し込むか現地人と交渉することをおすすめする。
何も言わずに人形島に連れて行ってほしいと頼むと、ほとんどがレプリカ島に連れていかれてしまうからだ。
人形島の呪われた逸話
今では世界有数の禁断の地とされている人形島だが、かつては普通のチナンパだった。
この島が呪われていると噂されるようになったのは、ある1人の男の異常な行動とそれにまつわる逸話に原因がある。
人形島の所有者だったドン・フリアン・サンタナ・バレッラという男は、不思議な力を持っていた。それは病人に触れるだけでその人の病を治せるという奇跡のような力だった。
しかしメキシコの街ではサンタナの力は気味悪がられた。やがて街に居づらくなったサンタナは、ソチミルコのチナンパに移り住み孤独な生活を送るようになる。
サンタナはある日、島の岸辺で1人の少女を見つけた。
少女が溺れていると思ったサンタナは、慌てて少女を助けようとした。しかし少女は既に溺死していたのだ。
少女の死体を見つけた日から、サンタナは少女を助けることができなかった罪の意識に苛まれ、少女の霊の幻に取り憑かれた。そして少女の持ち物だったと思われる人形を供養として祀った。やがてサンタナの島には次々と人形が漂着するようになる。
それ以降、サンタナは少女の慰霊のためか、もしくは自分にかけられた呪いを解くためか、一心不乱に流れついた人形を島の木に吊るし始めた。
その後、流れ着く人形だけでは足りなくなり、自分で集めてきた人形を持ち帰っては吊るしていった。
約50年間もの間人形を吊るし続けた結果、サンタナが住む島は古びた人形で溢れかえり、現在の不気味な雰囲気漂う島となった。
そしてサンタナは2001年4月、少女の水死体があった場所で溺死しているところを発見されたのだ。
人形島の現在
サンタナが亡くなった現在、人形島はサンタナの親戚のものとなり観光地化されている。そのため人形島に上陸するには入場料を払う必要がある。
また、人形島は宗教的もしくは文化的に保護されている地区ではないので、観光客が自分で持ち込んだ人形を飾ることもできるという。
人形島ができた理由は先程述べた呪いの逸話の他、「人付き合いをしたくなかったサンタナが他人を寄せ付けないために大量の人形を吊るした」という現実的な説もある。
もしそれが人形島を作った本当の理由なら、今は逆に不気味な人形たちが観光客を寄せ付ける原因となっているのだから、なんとも皮肉な話だ。
2012年にCNNに世界7大禁断の地の1つとして取り上げられてから、人形島の知名度は日本でも一気に上がり、現在では日本の旅行会社も人形島観光ツアーを組んでいたりもする。
禁断の地の中では比較的行きやすい場所であり、周辺の観光資源も豊富だ。
普通の海外旅行に飽きてしまった人は、ソチミルコの人形島へ訪れてみてはいかがだろうか。
参考文献
三栄『時空旅人 2023年7月号』
パイ インターナショナル『世界の美しくてミステリアスな場所』
佐藤健寿『HE WONDER MAPS 世界不思議地図』
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