ラスコーの壁画は、フランス西南部の「ラスコー洞窟」で発見された先史時代の芸術作品である。
これらの壁画は約2万年前、クロマニョン人によって描かれたとされている。
豊かな色彩や巧みな技法が使われており、600頭にも及ぶ動物の数とその迫力が際立っている。
ラスコーの壁画は、人類が文字を持つ以前の時代に描かれたものであり、今もなお多くの人々を魅了している。
今回はその神秘的な壁画について紹介する。
発見と場所
フランス西南部にあるドルドーニュは、国内で3番目に広い地域で、1,000以上の城が点在している。この地域の約45%は森林に覆われており、そんなドルドーニュのヴェゼール渓谷近くに、ラスコー洞窟は存在している。
1940年9月12日、モンティニャック村の4人の少年が、穴に落ちた飼い犬を助けようとして偶然この洞窟を発見した。しかし、実際には倒木でできた穴を犬が興味深く見ていただけであり、穴に落ちたという話は少年が脚色したものだという説もある。
壁画の内容
洞窟内には約6,000点の図像があり、それらは「動物」「人間」「抽象的な記号」の3つに大別される。
絵画には当時の風景や植生の描写は一切含まれていない。
多様な色が使われており、赤、黒、黄、茶色などの自然顔料が使用されている。顔料には鉄化合物(鉄酸化物、黄土)、赤鉄鉱、針鉄鉱、マンガンを含むものがあり、木炭も一部で使用されていた。
洞窟の一部の壁では、顔料が動物の脂肪や地下水、粘土と混ぜられ、絵具として用いられている。顔料は筆ではなく、擦ったり叩いたりして塗られたようである。
他の場所では、顔料の混合物を管を通して吹きかけることで色が塗られており、岩の表面が柔らかい場所では、デザインが石に刻み込まれている。
多くの壁画は既に薄くなっており、劣化してしまった作品も多くあった。
代表的な作品
『雄牛』は長さ5メートルもあり、現存する作品の中で最も壮観な構図である。
2頭の牛が向かい合っており、北側には2頭、南側には3頭いる。
北側の2頭の牛の付近には10頭の馬と、ユニコーンのような角を持つ謎の動物が描かれている。
南側では、3頭の牛が赤く塗られた牛と一緒に描かれており、付近には6頭の小さな鹿と、牛の腹部に重なって描かれた熊らしき姿も見える(判別しにくい)。
『鳥の頭を持つ男とバイソン』は、ラスコーで最も難解とされる作品の一つである。
鳥人(鳥の頭)のような人物が地面に横たわっており、バッファローが槍に刺されているように見えるため、一見すると共倒れしているようにも見える。
左下部には細長い棒の上に鳥が乗っている絵もある。
様々な解釈がされているが、この壁画の反対側には馬が描かれており、この構図には何らかの意味があると考えられている。
現在の状態
「ラスコー洞窟」は1948年に一般公開が開始されたが、1日あたり1,200人もの訪問者によって二酸化炭素、熱、湿気などが増加し、絵画は次第に損傷された。
その結果、1963年には一般公開が中止されている。現在は元の状態へと修復され、洞窟に入れないように監視システムが導入されている。
1983年、ラスコー洞窟のレプリカが作られ『ラスコー2』と名付けられた。ラスコー2は実物から200メートルほど離れた場所に展示されており、一般公開がなされている。洞窟の2/3が再現されており、壁画は当時と同じ材料で複製されている。
しかしラスコーを見るには現地までいかなければならない・・・。そんな贅沢な悩みにお答えするために『ラスコー3』が作られた。
これは持ち運びができるラスコー壁画であり、世界中で展示された。日本では国立科学博物館で2016年11月から2017年2月まで『世界遺産 ラスコー展~クロマニョン人が残した洞窟壁画~』というタイトルで特別展示されていた。
特別展「世界遺産 ラスコー展 〜クロマニョン人が残した洞窟壁画〜」
https://www.lascaux2016.jp/
2016年12月には『ラスコー4』が新たに作られた。
フランスのモンティニャックの施設に再現されたラスコー4は壁画を忠実に再現しており、「複製の域を超えており、芸術作品だ」という評価もされている。
ラスコー4 公式サイト
https://lascaux.fr/en/
なお、本物のラスコー洞窟は、1979年に世界遺産に登録された。
最後に
筆者は2016年に国立科学博物館での壁画展を見てきたが、その迫力に圧倒されたことを覚えている。
ラスコー洞窟の壁画は、先史時代の人々の生活や信仰、そして芸術表現を見事に伝える貴重な文化遺産である。
洞窟内に広がる長さ200メートルにも及ぶ壁画群は、人類の文化史における重要な一ページを刻んでおり、保存と保護は、今後も重要な課題として取り組まれている。
参考 :
フランス観光開発機構
特別展「世界遺産 ラスコー展」
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