スポーツ

【パリ五輪】 男子バドミントンダブルス決勝『台湾vs中国』で起きた、ある事件

台湾と中国

台湾と中国の関係は、歴史を見てもわかるように非常に複雑で敏感な問題を抱えている。

中国は「台湾は中国の一部」と主張し、台湾は「独立した国家」であると主張する。

現在、筆者は台湾に住んでいるので、台湾人の意見を聞くことが多いのだが、彼らは断固として中国の一部であることを認めない。

オリンピックの舞台でも、中国は台湾が「中華台北」として出場することを認めているが、「台湾」という名称の使用は許されていない。

今回のパリオリンピックでも、様々な物議を醸している。

「海峡大戦」

この事件は、男子バドミントンダブルスの金メダルをかけた決勝戦で起きた。

台湾のメディアはこの試合を「海峡大戦」と名付けた。

画像 : 2017年の王齊麟 wiki c Chartlin

中華台北は王齊麟と李洋のペア、中国は梁・王のペアの対戦であった。結果として中華台北が2セットを獲得し、金メダルを獲得した。

筆者は台湾人の友人とリアルタイムで観戦していたが、その喜びようは相当なものであった。
この時点で、中華台北はまだ金メダルを獲得しておらず、初めての金メダルであったからである。彼らの喜びも当然のことであった。

筆者は試合を応援すると共に、その会場の様子や雰囲気にも注目していた。というのも、中国と中華台北の対戦ということで、会場で何か起きるかもしれないと思ったからである。

応援会場は圧倒的な中国の国旗の数、中国応援モード一色で、台湾人の友人はそれに少し不満を漏らしていた。

台湾の応援プラカードが没収される

そんな中でも筆者は、いくつかの台湾の国旗や応援プラカードを目にした。

しかしここで事件が起きた。

台湾ファンが応援プラカードを掲げていたのだが、そのプラカードは後ろから手が伸びてきて強制的に下され、没収されてしまったのだ。

中国と中華台北が対戦する試合では、特に警備が厳しく、「台湾」という文字に非常に敏感になっており、警備員を増員して対応しているという。

テレビ放送にも圧力か

この試合は、元々CCTV-5での中継が計画されていたが、急遽取りやめとなった。

その後、多くのファンからの抗議を受け、CCTV-16での中継となった。

公式な理由としては「一時的に電波が不安定になった」とされるが、多くの人はその背後に政治的な圧力を感じたという。

中国人の反応

中華台北の金メダル獲得後、インターネット上では多くの興味深い反応が見られた。

台湾人は喜び、彼らの栄光を讃え、東京オリンピックに続き、2大会連続金メダル獲得を祝う声が止むことはなかった。

一方で中国の反応は、「台湾は中国の一部であり、中国が金メダルを取ったのと同じだ」といった政治的な発言が多かった。それに対して中華台北側は「スポーツの世界に政治的観点を持ち込むべきではない」と反論する声が多い。

国旗歌

金メダルを獲得した中華台北の両選手が表彰台に登った際、流れたのは「国旗歌」の旋律であった。

台湾では「国歌」と呼ばずに「国旗歌」と呼ぶが、扱いは国歌という形である。国ではないので、国歌という呼び名は使えないという。

しかもオリンピックで歌われるのは、国旗歌と同じメロディーで歌詞が違う歌で、題して「中華台北オリンピックの歌」である。

歌詞は「オリンピックは宗教や種族に関わりなく、世界が平等に一つになれる大会である」といった内容である。

台湾の友人たちは、国家間のいざこざに個人の努力が軽んじられることがあってはいけないと考えている。オリンピックは純粋な競技と努力の場であり、そこに政治的な問題が影を落とすべきではないという信念を持っているようだ。

参考 : 小粉红抢夺“台湾加油”横幅 台外交部怒斥粗暴缺教养

 

アバター

草の実堂編集部

投稿者の記事一覧

草の実学習塾、滝田吉一先生の弟子

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Audible で聴く
Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. 旅の参考書「地球の歩き方」が存続の危機!?
  2. スペイン風邪 ~歴史上最大の猛威をふるったインフルエンザ
  3. 台湾の歴史を簡単に解説 「日本と中国との関係」
  4. 『歴史上最も大きな生物』 シロナガスクジラが来たぞ! ~屏東県国…
  5. 『イケメンすぎる凶悪犯』 カルロス・ロブレド・プッチ 「黒い天使…
  6. 【サンタの起源となった聖人】 聖ニコラウスの伝説 ~塩漬けにされ…
  7. チェスキー・クルムロフとは 【世界一美しい街】
  8. バイク王国台湾 〜「台湾人はなぜこんなにバイクが好きなのか?」

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

豊臣秀吉による天下統一の総仕上げ・奥州仕置(おうしゅうしおき)

小田原征伐以後豊臣秀吉による天下統一と言えば、関八州を支配していた後北条氏に対する小田原…

【神道】けがれた心身をリフレッシュ!禊(みそぎ)って何?具体的なやり方を紹介

「アイツはまだ禊(みそぎ)が済んでいない」何か不祥事をやらかした著名人が暫く姿を消して、再び…

関ヶ原の合戦で、上杉景勝と戦った結城秀康。なぜ彼は殿軍を引き受けた? 【どうする家康】

徳川家康の次男として生まれ、豊臣秀吉・結城晴朝とたらい回し、もとい養子に出された結城秀康(於義伊)。…

【北欧神話の英雄】 ラグナルの竜退治伝説 「ヨーロッパが恐怖したヴァイキング」

北欧神話に語り継がれる伝説の王、ラグナル・ロズブローク。彼はヴァイキングを率いてフラ…

よく見てるね人のこと…『紫式部日記』に記された同僚たちへの観察眼【光る君へ】

「あなたが気にするほど、人はあなたのことなんか見てないし、関心もないよ」とは誰が言ったか、筆…

アーカイブ

PAGE TOP