米中対立は台湾問題に代表されるように、政治や安全保障、経済や貿易、先端技術などあらゆる分野で激しくなっている。
近年でも偵察用気球の問題が大きくなり、訪中を予定していたブリンケン国務長官は突如の延期を発表するなど、米中間では協調という文字は益々薄まり、対立一辺倒になってきている。
そして、米中が互いを戦略的競争相手と位置づけるなか、中国の戦略的競争相手ではないオーストラリアも中国への警戒感を強めている。
悪化した中豪関係
近年、オーストラリアと中国との関係は劇的に冷え込んでいる。
コロナ禍に入り、オーストラリアはコロナ発生源の真相解明において、習政権にWHOの査察受け入れなど透明性ある調査を要求したが、中国はそれに拒否し、対抗措置として石炭や牛肉、ワインなどオーストラリアの主要輸出品の輸入を次々に制限した。
当時のテハン貿易相は2021年6月、中国がオーストラリア産ワインに対して関税を不当に上乗せしているとして世界貿易機関(WTO)に提訴すると発表した。また、当時のペイン外相も2021年4月、南東部ビクトリア州が巨大経済圏構想「一帯一路」を進める中国と2018年と2019年に締結した2つの協定を破棄するとも発表した。
このような関係悪化が影響し、コロナ禍に入った2020年の中国からオーストラリアへの投資額は10億豪ドルあまりに留まり、2019年比で6割以上も減少した。
2020年の中国からの投資件数も20件となり、2016年の111件から大幅に減った。
また、南太平洋の安全保障問題も関係悪化に火をつけた。
オーストラリアは南太平洋を裏庭と位置付けているが、西太平洋での影響力拡大を目指す中国は、21世紀に入ってその南太平洋へのテコ入れを強化し始めた。
シドニーに拠点を置くシンクタンク「ローウィ 研究所(Lowy Institute)」によると、中国は 2006年からの10年間で、 パプアニューギニアに6億3200万ドル、フィジーに 3億6000万ドル、バヌアツに2億4400万ドル、サモアに2億3000万ドル、 トンガに1億7200万ドルなど莫大な資金援助を行い、各国で政治経済的な影響力を強め、オーストラリアはそれに危機感を強めてきた。
オーストラリアの国防当局も2018年4月、中国がバヌアツで基地建設など軍事的な覇権拡大に関心を寄せていると警戒感を露わにし、最近では中国との関係強化を進めるソロモン諸島に対して、中国との過剰な関係強化を控えるべきだと警告した。
上述のようなこともあり、オーストラリアは中国製品からの離脱も進めている。
2022年2月、オーストラリアは安全保障上の理由から、政府機関に設置されている中国製監視用カメラを全て撤去する方針を明らかにした。撤去される監視用カメラは、杭州海康威視数字技術と浙江大華技術の製造した監視カメラ900台あまりになる。
米国とイギリスも昨年11月、中国製の監視用カメラの設置を禁止する方針を発表したが、それに歩調を合わせる形になった。
豪州で高まる中国警戒論
中国への警戒感はオーストラリア市民の間でも広がっている。
同様に、ローウィ研究所が近年公表した世論調査によると、2021年にオーストラリアが米英と共に創設した安全保障枠組み「オーカス」によって豪軍が原子力潜水艦を導入する件について、7割以上の回答者が賛成の立場を示し、台湾有事が発生した場合に豪軍が関与するべきかについては51パーセントの回答者が賛成した。
この数字は前回実施された時より8パーセントも増加しており、市民の対中警戒感は高まっている。
中国の海洋覇権に直面する日本にとって、同じインド太平洋国家であるオーストラリアとの安全保障協力はこれまで以上に重要になっている。
今後は米軍だけでなく、日本独自でオーストラリアとの防衛・安全保障協力を積極的に強化することが求められている。
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部
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