国際情勢

トランプは習近平やプーチンに憧れている? 〜3者の共通点とは

ドナルド・トランプ前米大統領は、中国の習近平国家主席やロシアのウラジーミル・プーチン大統領に「憧れている」との噂がたびたび浮上する。

強権的なリーダーへの傾倒を示す発言や行動が、米国内外で議論を呼んでいるが、本当にトランプは彼らに憧れているのか?

今回はその発言や政策から、その真相を探る。

実際、トランプはそのような発言をしている

画像 : ドナルド・トランプ public domain

トランプが、習近平やプーチンに好意的な発言をしたことは事実だ。

2018年、トランプは習近平が国家主席の任期制限を撤廃した際、「彼は終身で指導者になれる。素晴らしいことだ」と冗談めかして称賛した。
また、プーチンについては、2016年の大統領選中に「彼は強いリーダーだ。ロシアをしっかり統治している」と評価。

2022年のウクライナ侵攻直後にも、プーチンの戦略を「賢い」と形容し、物議を醸した。
これらの発言から、トランプが強権的な指導者に一定の共感を持つと見る向きは多い。

背景には、トランプの政治スタイルがある。

彼は「強い指導者」を自負し、ビジネスマン出身の決断力やメディアを活用した発信力を武器に、大衆の支持を集めた。習近平やプーチンのように、長期政権を築き、国内を一元的に統治する姿勢は、トランプの「アメリカ第一主義」と共鳴する部分がある。
特に、習近平の経済ナショナリズムやプーチンの国家主導の資源戦略は、トランプが目指した保護主義やエネルギー独立政策に通じる。

しかし、「憧れ」の実態は複雑だ。トランプは、習近平やプーチンを称賛する一方で、彼らと対立もしてきた。

対中政策では、2018年から2020年にかけ、中国製品に高関税を課す「貿易戦争」を展開。
2020年には、コロナウイルスを「中国ウイルス」と呼び、習近平政権を批判した。

対ロシアでも、トランプ政権はロシアへの経済制裁を維持し、ウクライナへの軍事支援を承認した。

2022年のプーチン称賛発言も、実際にはウクライナ支援の遅れを批判する文脈でのものだった。

しかし、単なるパフォーマンスとの声も

画像 : プーチン大統領 public domain

専門家の間では、トランプの発言は「憧れ」よりも、戦略的なパフォーマンスと見る意見が強い。

トランプは強権的リーダーを称賛することで、自身の「強い指導者」イメージを強化し、国内の支持層を固めようとした可能性がある。特に、反エリート・反グローバリズムを掲げるトランプにとって、習近平やプーチンのような「体制に逆らう指導者」は、象徴的に利用しやすい存在だった。

一方で、米国の民主主義や憲法を尊重する姿勢を繰り返し表明しており、彼らのような独裁体制を本気で模倣する意図は薄いとされる。

また、トランプの個人的な性格も影響している。
彼は、交渉相手をまず称賛し、友好ムードを作り出す手法を好む。2018年の米朝首脳会談での金正恩への称賛も同様の文脈だ。
習近平やプーチンへの発言も、ディールメーカーとしての駆け引きの一環と見ることができる。

ただ、トランプの発言は米国の分断を映し出す。
リベラル派は、彼の強権リーダーへの傾倒を「民主主義の危機」と批判。保守派の一部は、トランプの現実主義的な外交を支持する。

2024年の大統領選でトランプが再選した場合、習近平やプーチンとの関係は、さらなる注目を集めるだろう。

2025年現在、習近平は中国の経済難を背景に内政に注力し、プーチンはウクライナ戦争の長期化で孤立を深めている。
トランプが彼らに「憧れる」かどうかは、彼自身の政治的野心と国際情勢の変化にかかっている。

トランプの「憧れ」は、半分はパフォーマンス、半分は共感の混在である。

強権リーダーの統治スタイルに魅力を感じつつも、米国の枠組みの中で自身のリーダーシップを追求する姿は、トランプらしい矛盾を体現していると言えるだろう。

文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部

アバター

エックスレバン

投稿者の記事一覧

国際社会の現在や歴史について研究し、現地に赴くなどして政治や経済、文化などを調査する。

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Audible で聴く
Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. 日本人が間違いやすいネイティブ英語⑤【食べ物・果物、おやつ編】
  2. 「共謀罪」について分かりやすく解説
  3. 台湾外国人労働者の現状 「約72万人の海外労働者」
  4. ウクライナ戦争によって「第3次世界大戦」の火種が再び欧州に忍び寄…
  5. 『トランプ相互関税ショック』台湾が報復関税を仕掛けないワケとは
  6. 『プロ野球初の外国人選手』 スタルヒンの野球人生 ~300勝投手…
  7. 『トランプ自動車関税25%』関税率が10倍に!日本の自動車メーカ…
  8. 【北朝鮮は招待、なぜ台湾は外された?】被爆80年目の長崎平和祈念…

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

【光る君へ】 逃亡した藤原伊周の末路… どこへ行ってどうなった?!

NHK大河ドラマ「光る君へ」皆さんも楽しんでいますか?第20回放送「望みの先へ」では、大宰権…

【武蔵陵墓地】 大正・昭和天皇と皇后たちの眠る場所

東京都八王子市に位置する武蔵陵墓地は、日本の歴史と皇室文化を感じることができる特別な場所である。…

江戸時代に「会いに行けるアイドル」がいた!美人番付No.1 茶屋娘・笠森お仙とは

現代は、インターネット,SNS,テレビ,雑誌,映画,DVDなどさまざまなメディアがあるので、自分の好…

ハプスブルク家の歴史と特徴的すぎる遺伝子 【ワシ鼻、受け口】

中世から20世紀初頭にかけて、ヨーロッパで強い勢力を誇ったハプスブルク家。現在のオー…

李在明氏が韓国大統領就任「日本と仲良くしたい」反日トーンを抑えた理由とは?

2025年6月3日に行われた韓国大統領選挙で、革新系「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)氏が得票…

アーカイブ

PAGE TOP