2025年6月、トランプ米政権がイランの核施設3カ所を空爆したことは、中東情勢に大きな波紋を広げた。
この軍事行動が米国の中東への軍事介入強化につながる場合、遠く東アジアの台湾情勢にも間接的な影響が及ぶ可能性がある。
イラン空爆の背景と中東情勢

画像 : ドナルド・トランプ public domain
トランプ大統領は、イランの核開発が「世界最大のテロ支援国家」による核の脅威だと主張し、ナタンツ、フォルドゥ、イスファハンの核施設を精密攻撃した。
使用されたのは、地下施設を破壊可能な「バンカーバスター」と呼ばれる特殊爆弾で、米軍のB-2ステルス爆撃機が投入された。
この攻撃は、イランとイスラエルの軍事衝突が続く中で、トランプ政権が外交交渉の行き詰まりに苛立ち、軍事力による強硬姿勢に転じた結果と見られる。
イランは報復の可能性を示唆しており、中東に展開する米軍基地や同盟国が攻撃対象となるリスクが高まっている。
米国がさらなる軍事介入を強化すれば、ペルシャ湾や中東全域での緊張がエスカレートし、米軍のリソースがこの地域に集中する可能性がある。
これが、東アジアの戦略的バランス、特に台湾海峡の情勢にどのような影響を及ぼすのかが注目される。
台湾情勢への間接的影響

画像 : 台湾海峡 public domain
台湾情勢は、中国の軍事的圧力と米国の対中牽制戦略が交錯する複雑な状況にある。
中国は台湾を自国領土とみなす一方、米国は「一つの中国」政策を維持しつつ、台湾関係法に基づき台湾の防衛を支援している。
トランプ政権下では、対中強硬姿勢が明確化し、台湾への武器売却や高官の訪台が活発化してきた。
しかし、米国が中東での軍事介入を強化した場合、以下のような影響が台湾情勢に及ぶ可能性がある。
第1に、米軍リソースの分散 である。
中東での軍事作戦が長期化すれば、米軍の艦船、航空機、兵力が中東に優先配備される可能性が高い。
現在、米インド太平洋軍は中国の海洋進出を抑止するため、空母打撃群や潜水艦を西太平洋に展開しているが、これらが中東に再配置されれば、台湾周辺での米軍のプレゼンスが一時的に弱まる。
こうした隙を中国が利用し、台湾近海での軍事演習を拡大したり、グレーゾーンでの挑発を強めたりする可能性がある。
第2に、中国の戦略的計算 である。
中国は米国の軍事力が中東に集中する状況を、台湾問題で有利なタイミングとみなすかもしれない。
習近平政権は、国内の経済的・政治的不安定さを背景に、ナショナリズムを高揚させる手段として台湾への強硬姿勢を強める可能性がある。
特に、2027年までに台湾統一に向けた軍事的能力を確立する目標を掲げる中国にとって、米国の注意が他地域に向いている時期は、軍事圧力を強める好機となり得る。
米国の戦略的ジレンマ

画像 : 台湾有事か(台湾の衛星写真)public domain
トランプ政権は、イランの核開発阻止と中国の覇権拡大抑止という二つの目標を同時に追求しているが、軍事リソースの有限性から、両者を完全に両立させるのは難しい。
中東での軍事介入がエスカレートすれば、バイデン政権時代に強化されたインド太平洋戦略が後退するリスクがある。
一方、台湾を軽視すれば、中国に誤ったシグナルを送り、台湾海峡での冒険主義を誘発する可能性がある。
トランプ大統領は、過去の「北朝鮮方式」の成功体験から、強硬な軍事圧力で相手を交渉のテーブルに引きずり出す手法を好む。
しかし、イランと中国では状況が異なり、中東での軍事行動が中国の行動を直接牽制する効果は限定的だ。
むしろ、米国の戦略的焦点の分散が、中国の台湾への圧力を加速させる副作用を生む可能性が高いだろう。
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部
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