国際情勢

『中国戦闘機が2日連続で海自機に異常接近』なぜ中国は“挑発”を繰り返すのか?

2025年6月、太平洋上空で中国軍の戦闘機が海上自衛隊の哨戒機に異常接近する事案が相次いだ。

防衛省によると、6月7日と8日に中国海軍の空母「山東」から発艦したJ-15戦闘機が、海自のP-3C哨戒機に対し、約45メートルの至近距離まで接近。
さらに、8日には哨戒機の前方約900メートルを横切る危険な飛行を行った。

これらの行為は偶発的な衝突を誘発しかねないとして、日本政府は中国側に再発防止を強く申し入れた。

しかし、中国側は逆に日本側の監視活動が「安全上のリスクを生み出した」と主張し、責任を転嫁する姿勢を見せている。

軍事的な示威行動と地域への圧力

画像 : 自衛隊機 JMSDF Kawasaki P-1 wiki c 海上自衛隊

中国軍機の異常接近は、単なる偶発的な出来事ではない。

中国が近年、太平洋での軍事活動を活発化させていることは明らかだ。
特に、空母「山東」の展開は、中国海軍の遠洋進出能力の向上を示す象徴的な動きである。

沖ノ鳥島付近での今回の事案は、日本が実効支配する領域への牽制と、中国の海洋進出意図を誇示する狙いがあると考えられる。
防衛省の発表によれば、2024年度の中国無人機に対する自衛隊の緊急発進は前年度の約3倍に達しており、中国の軍事活動の頻度と大胆さが増している。

こうした行動は、日本だけでなく、近隣諸国や米国に対する軍事的プレッシャーとして機能する。

実際、2014年には中国軍機が米国の哨戒機にも異常接近しており、今回の事案は中国の対外的な示威行動の一環と見なせる。

日中間の対話メカニズムの限界

この事案において、日中間の防衛当局間ホットラインが使用されなかった点は注目に値する。

日中は偶発的衝突を回避するための対話メカニズムを構築しているが、今回のケースでは機能しなかった。

産経ニュースによると、ホットラインは交流行事での使用に留まり、緊急事態での実効性が低いことが露呈した。
空での事案は状況の推移が早く、即時対応が求められるため、ホットラインを通じた協議が難しいとの指摘もある。

中国側は「日本の接近偵察が問題の根本原因」と主張し、対話による緊張緩和よりも自らの正当性を強調する姿勢を崩していない。

この状況は、日中間の信頼醸成が依然として不十分であることを示している。

地政学的緊張と国内世論の動向

画像 : 東シナ海と周辺の地理 public domain

中国の行動は、東シナ海や南シナ海での領有権問題と連動している。

中国は東シナ海での領空侵犯や、沖縄本島と宮古島間の飛行活動を繰り返しており、2024年8月には中国軍のY-9情報収集機が長崎県男女群島沖の領空を侵犯した。

これらの動きは、日本国内で安全保障への懸念を高めている。
SNS上では、「撃ち落とすべき」「政府の対応が弱腰だ」といった強硬な意見が散見され、国民の間で中国への不信感が強まっている。

一方で、戦争反対を掲げる一部のグループが、中国の行動に対して沈黙する傾向も指摘されており、国内世論の分断が浮き彫りとなっている。

中国の狙いには、日本国内のこうした反応を見極め、外交的・軍事的圧力を通じて日本の対応を試す意図も含まれている可能性がある。

国際社会へのメッセージと今後の展望

画像 : 空母「山東」艦載のJ-15 wiki c 日本防衛省

中国の行動は、国際社会に対するメッセージでもある。

米国やその同盟国に対し、太平洋での影響力拡大をアピールする一方、国際法や慣例に基づく自由な航行・飛行の原則に挑戦する姿勢を示している。
特に、今回の事案が公海上で発生した点は、中国が「力による現状変更」を試みているとの批判を招きかねない。

日本は外交ルートを通じて再発防止を求めているが、中国側が対話に応じる姿勢は薄い。

加えて、台湾海峡での中国軍の活動も活発化しており、6月20日には海上自衛隊の護衛艦「たかなみ」が、台湾海峡を通過したことが報じられた。
こうした状況下で、日本は米国や他の同盟国と連携し、抑止力の強化と地域の安定維持に向けた戦略を模索する必要がある。

中国軍機の自衛隊機への異常接近は、軍事的な示威行動、地域への圧力、対話メカニズムの限界、そして国際社会への挑戦という多層的な意図を反映している。

中国の海洋進出と軍事力強化が進む中、日本は冷静な対応と国際協力を通じて、偶発的衝突のリスクを最小限に抑えつつ、国益を守る姿勢が求められる。

文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部

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国際社会の現在や歴史について研究し、現地に赴くなどして政治や経済、文化などを調査する。

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