2025年9月3日午前、中国・北京の天安門広場で「抗日戦争勝利80周年」を記念する軍事パレードが開催された。
習近平国家主席は演説で「人類は再び平和か戦争かの選択に直面している」と述べ、軍に対して「世界一流の軍隊建設を加速せねばならない」と訴えた。
パレードにはロシアのプーチン大統領、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記も出席し、三首脳が談笑しながら天安門楼上へ並んで歩く様子が中国中央テレビで中継された。
このパレードに、北朝鮮の金正恩総書記が出席したことが、国際社会の注目を集めている。
習近平政権は、この機会を利用してどのようなメッセージを発信しようとしているのか。その背景にはトランプ政権が韓国・李在明政権を通じて、米朝関係の改善を図る可能性への牽制がある。
抗日戦争勝利80周年パレードの戦略的意義

画像 : 過去の軍事パレード(イメージ)public domain
抗日戦争勝利80周年記念パレードは、第二次世界大戦における日本軍の降伏を祝う国家行事である。
人民解放軍の最新鋭兵器が披露され、約1万2千人の兵士が参加するこのイベントは、中国の軍事力と歴史的正当性を内外に示す場である。
2015年の70周年パレードでも同様の目的が掲げられたが、今回は金正恩総書記の参加が特に注目される。
習近平政権は、このパレードを通じて中朝同盟の強化をアピールし、国際社会における中国の影響力を誇示する狙いがある。
中国は歴史的勝利を強調することで、国内のナショナリズムを高揚させ、政権の求心力を維持する意図も持つ。
金正恩の参加と中朝関係の強化

画像 : 北朝鮮の金正恩氏 public domain
金正恩総書記の参加は、中朝関係の緊密さを象徴する。
近年、北朝鮮は核開発やミサイル実験を繰り返し、国際的孤立を深めてきたが、中国は一貫して北朝鮮の後ろ盾として機能してきた。
今回のパレードへの参加は、両国が対米戦略において一致団結する姿勢を示すものだ。
特に、金正恩氏が中国の軍事パレードに出席することは、2018年以来の異例の出来事であり、習近平政権が北朝鮮との同盟を国際舞台で再確認する機会となる。
中国は北朝鮮を対米交渉のカードとして利用しつつ、地域の安全保障環境における主導権を確保しようとしている。
トランプ政権と米朝関係の再起動

画像 : 2019年6月30日、韓国・板門店の非武装地帯(DMZ)で会談したトランプ米大統領と金正恩氏 public domain
一方、2025年に再び政権を握ったドナルド・トランプ氏は、過去に金正恩氏との首脳会談を通じて米朝関係の改善を試みた実績がある。
トランプ政権は、韓国の李在明政権を仲介役として活用し、北朝鮮との対話を再開する可能性が指摘されている。
また、李在明大統領は、南北関係の改善を重視する進歩派であり、米朝間の橋渡し役を担う意欲を示している。
この動きに対し、中国は警戒を強めている。
米朝関係の改善は、中国の北朝鮮に対する影響力を弱め、東アジアの勢力図を米国側に有利に傾ける可能性があるためだ。
習近平政権の牽制と地政学的意図
このように、習近平政権が金正恩氏をパレードに招待した背景には、米朝接近への牽制がある。
中国は北朝鮮を自陣営に引き込み、米国との対抗軸を強化することで、地域の主導権を維持しようとしている。
パレードは単なる軍事力の誇示に留まらず、中朝の結束を国際社会に示す舞台となる。これにより、米国や韓国が北朝鮮との交渉を進める際に、中国の存在を無視できない状況を作り出す狙いがある。
さらに、中国はロシアとも連携を深めており、対米包囲網を形成する意図も見える。このパレードは、習近平政権が地政学的緊張の中で自国の立場を強化する戦略の一環である。
今後の東アジア情勢への影響
今回のパレードは、東アジアの安全保障環境に大きな影響を与える可能性がある。
米朝関係の進展が中国の影響力低下に繋がることを警戒する習近平政権は、北朝鮮を自陣営に引き留めることで、米国の動きを封じ込めようとしている。
一方、トランプ政権が李在明政権を通じて北朝鮮との対話を進めれば、朝鮮半島の緊張緩和が進む可能性もあるが、中国の反発は必至だ。
このパレードは、中朝の結束を誇示しつつ、米国に対する牽制を明確にする場となるだろう。
国際社会は、習近平政権の戦略的意図を注視する必要がある。
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部
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