国際情勢

中国人は「反日」から「反習近平」へ?顕在化しつつある“内なる怒り”とは

最近、日中関係は大きく悪化し、中国人観光客の訪日キャンセルなどが相次ぎ、中国人の反日感情が高まっているように映る。

しかし、事はそれほど単純ではない。

近年、一部の市民の矛先は国内の指導者、特に習近平国家主席へと向かっていることが見受けられる。

画像 : 習近平国家主席 public domain

これは、単なる政策への異論というよりも、根底にある自由への渇望と、それに対する政府の強権的な統制、特に国民生活を直撃したゼロコロナ政策の失敗が、主な原因であると考えられる。

2022年10月には、北京市海淀区の高架橋である四通橋で、習近平体制を公然と批判する横断幕が掲げられるという、極めて異例の抗議行動が発生した。

中国共産党第20回全国代表大会の開幕を3日後に控え、厳重な警備と言論統制が敷かれていた時期である。

抗議者は建設作業員に変装して橋に登り、タイヤを燃やして煙を上げ、拡声器でスローガンを繰り返し叫んだと報じられている。

画像 : 2022年10月、四通橋抗議の直後、スタンフォード大学構内に掲示された反習近平スローガンのフライヤー 文言は四通橋の横断幕と同一。Suiren2022 CC BY-SA 4.0

横断幕には、以下のような直接的な文言が記されていた。

核酸(PCR検査)はいらない、ご飯が欲しい。

封鎖はいらない、自由が欲しい。

嘘はいらない、尊厳が欲しい。

文化大革命はいらない、改革が欲しい。

指導者はいらない、投票が欲しい。

奴隷になりたくない、公民になりたい。

写真と映像は瞬く間にSNS上で拡散し、中国当局は即座に削除と検閲を開始した。

この事件は、ゼロコロナ政策による度重なる都市封鎖(ロックダウン)や、人権を無視した強制的な隔離措置など、極端な統制が人々の生活を疲弊させ、不満が臨界点に達していたことを象徴している。

情報統制と強権政治への懸念

習近平体制下では、情報統制がかつてなく強化されている。

インターネット上での検閲は厳しく、政府に批判的な言論は直ちに削除され、発信者も処罰されるケースが後を絶たない。

このような環境下で、国民が不満を表明する手段は極めて限定的だ。

また、習近平氏は2018年に国家主席の任期を撤廃し、異例の3期目入りを果たした。

これにより、彼は事実上の終身指導者となる道を開き、かつて鄧小平らが導入した集団指導体制から、再び個人への権力集中へと回帰させた。

この強権的な政治手法は、一部のエリート層や知識人の間にも、将来的な政治の不安定化や指導者の誤判断に対する強い懸念を生んでいる。

反日感情の煽動は、国民の目を国内の深刻な問題から逸らすために、政府がしばしば用いる手段であったが、国民の関心は自らの生活と政治的抑圧の現実へとシフトしつつあると言えるだろう。

若年層の経済的困窮と体制への信頼低下

さらに、中国の若年層の失業率の高さも、反習近平的な感情を高める一因となっている。

経済成長の鈍化と規制強化により、特にIT企業などの雇用吸収力の高い産業で採用が手控えられる傾向が強まり、大卒者の就職難は深刻だ。

画像 : 寝そべり族 イメージ

「寝そべり族(タンピン族)」と呼ばれる、競争社会から降りて最低限の生活を送ることを選ぶ若者たちの増加は、政府の掲げる「中華民族の偉大な復興」というスローガンと、彼らが直面する厳しい現実との乖離を示している。

未来に希望を見いだせない若者たちは、体制や指導者への信頼が揺らぎ始めており、不満の行き先がより身近で具体的な権力中枢へ向かう兆しがあると指摘されている。

これらの複合的な要因が絡み合い、中国国内の不満は、曖昧な反日という外向きの感情から、より具体的で直接的な反習近平という内向きの批判へと変質していると考えられる。

文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部

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国際社会の現在や歴史について研究し、現地に赴くなどして政治や経済、文化などを調査する。

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