国際情勢

米国のベネズエラ介入は台湾有事への序章?トランプ政権が開いた危険な扉

かつて「米国の裏庭」と呼ばれたラテンアメリカで、今、世界秩序を根底から覆す地殻変動が起きている。

トランプ政権がベネズエラへの軍事介入を断行し、西半球における米国の排他的な覇権を追求する「モンロー主義」を鮮明に打ち出したことは、単なる一地域の政権交代を目的としたものではない。

この強硬な外交姿勢は、裏を返せば、地球の反対側にある「台湾」の運命を決定づける危険な引き金となる可能性がある。

画像:拘束されたニコラス・マドゥーロ大統領 Sofya Sandurskaya, TASS CC BY 4.0

覇権への渇望と勢力圏の再編

米国がベネズエラへの直接介入を正当化し、西半球における他国の干渉を拒絶する姿勢を強めたことで、国際社会には「勢力圏による分割」という旧時代の論理が復活しつつある。

トランプ政権の論理は一貫している。それは「アメリカはまず自国の勢力圏を守る」という考え方だ。

西半球で敵対勢力の拠点を許さないという発想は、冷戦期のキューバ危機と同じ地政学的論理に基づいている。
ベネズエラはロシアや中国、イランの影響圏になりつつあり、トランプ政権にとっては「第二のキューバ」と映っていた。

中国はこの米国の動きを、自国の悲願達成に向けた千載一遇の好機として利用するだろう。

北京の論理は極めて明快である。

「米国が西半球において覇権を追求する権利があるならば、中国もまた同様に、自国の近隣地域において覇権を追求する権利がある」という主張だ。

中国はこの状況を、「勢力圏による国際秩序の復活」として利用する余地を得た。

今後、米国に対し「我々は西半球の情勢には関与しない。その代わり、米国も東半球、特に第一列島線の内側における中国の行動に干渉すべきではない」という、極めて冷徹な「棲み分け」を迫ることが予想される。

経済的ディールと米国の孤立化

中国の外交戦略は、単なる言葉の応酬にとどまらない。

巨大な市場と膨大な外貨準備、さらには重要資源のサプライチェーンを武器に、米国に対して「台湾問題からの撤退」を条件とした大規模な経済的ディールを持ちかけるだろう。

米国内で孤立主義的な機運が高まれば、「遠く離れた台湾のために、米軍の血と多額の国益を投じる必要があるのか」という世論が形成されかねない。

ベネズエラという「足元の火種」に注力せざるを得ない米国にとって、中国からの経済的な譲歩は、台湾への関与を弱めるための強力な誘引剤となる。

米国を台湾情勢から外交的にデカップリング(切り離し)させる工作は、すでに水面下で加速している。

画像 : 台湾有事を誘発するのか 台湾の金門(大胆島)に掲げられた「三民主義統一中国」のプロパガンダ Minsc Public domain

台湾侵攻の現実味と統治の影

米国の関与が「取引」の材料と化したとき、台湾侵攻はこれまでの「長期的な可能性」から、「戦略的に計算可能な選択肢」へと質的に変化する。

米国がモンロー主義に回帰し、自国の勢力圏防衛に閉じこもる姿勢を見せれば、中国にとっての軍事的ハードルは劇的に下がるからだ。

中国が「西半球への不干渉」を約束し、米国がそれを受け入れるという構図が完成したとき、台湾は国際社会の孤島と化す。

自由主義陣営がこれまで守ってきた「現状維持」という防波堤が、米中間の地政学的な取引によって決壊する日は、すぐそこにまで迫っている。

ベネズエラへの介入という米国の決断は、奇しくも東アジアにおける「自由への統制」を加速させる皮肉な呼び水となったのである。

文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部

  • Xをフォロー
  • Threadsをフォロー
好きなカテゴリーの記事の新着をメールでお届けします。下のボタンからフォローください。
アバター画像

エックスレバン

投稿者の記事一覧

国際社会の現在や歴史について研究し、現地に赴くなどして政治や経済、文化などを調査する。

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く
Audible で聴く

コメント

    • 名無しさん
    • 2026年 1月 12日 6:08pm

    不安を煽る報道はやめてください。

    0 0
    50%
    50%
  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. 「2026年は訪中ラッシュ?」欧州首脳が続々と中国へ 〜なぜ各国…
  2. なぜイランはイスラエルとの全面戦争を避け続けるのか?3つの理由
  3. トランプは「プーチンと石破」どちらと相性がいいのか?外交スタイル…
  4. 「世界の軍事力増強が止まらない」第3次世界大戦も現実味
  5. 防衛省が熊本に“射程1000km”ミサイル配備の計画 〜なぜ熊本…
  6. 台湾有事が起こっても米軍は動かない? その現実的な5つの理由
  7. 中国の『債務帝国主義』とは「低中所得国を巨額融資で支配する?」
  8. なぜ中国はウクライナ戦争で沈黙を続けるのか?裏にある計算とは

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

軍事評論家リデル・ハートの【大戦略・間接的アプローチ】

グデーリアンに影響を与えたリデル・ハート「大戦略」はイギリス人の軍事評論家としてその名を…

日本に「衛生」という言葉を定着させた医師~ 長与専斎

江戸時代の後期に、当時未知の病気だった天然痘(てんねんとう)に緒方洪庵(おがたこうあん)とい…

戊辰戦争で「賊軍」と呼ばれた男たちのその後 【前編】

戊辰戦争と賊軍今から約150年前の明治元年から明治2年まで、王政復古を経て新政府を樹立した薩摩・…

福沢諭吉【やせ我慢で武士の矜持を示した幕臣】瘠我慢の説

知名度と武士の矜持福澤諭吉(ふくざわゆきち)は、現在の一万円札にも肖像画が使われるなど、…

浄土宗の開祖・法然の意外な弟子たち 「熊谷直実、九条兼実、後鳥羽上皇の女官」

鎌倉時代には今も続く新たな仏教が多く誕生した。浄土宗・浄土真宗・日蓮宗・臨済宗・曹洞宗等がこ…

アーカイブ

人気記事(日間)

人気記事(月間)

人気記事(全期間)

PAGE TOP