東南アジアの「陸封国」から「陸結国」へ。
そんな華々しいスローガンのもと、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」の荒波に飲み込まれている国がある。
メコン川のほとりに位置する静かな国、ラオスだ。

画像 : ラオスの位置 TUBS CC BY-SA 3.0
近年、ラオスで進行しているのは、インフラ整備という名の「国家中枢インフラの担保化」である。
スリランカの港湾租借に続き、今度はラオスの電力が中国の手に落ちようとしている。
発展への渇望と膨張する債務の統制
ラオスが直面している最大の危機は、2021年に全線開通した「中国・ラオス鉄道」を筆頭とする巨額のインフラ負債である。
総事業費約60億ドルという、ラオスの国内総生産(GDP)の約3分の1に匹敵する巨費が投じられた。

画像 : 中国ラオス鉄道の開通式典 ラオス国家主席トーンルン・シースリットと中国国家主席習近平がオンラインで開通を宣言した Public Domain
内陸国ゆえの物流の不便さを解消し、経済発展を遂げたいという国民の「発展への渇望」は、皮肉にも中国からの際限ない融資を引き出す呼び水となった。
しかし、この鉄道建設費の多くは中国からの借款で賄われており、ラオス政府はその返済能力を大幅に超える債務を抱えることとなった。
一帯一路のプロジェクトは、建設を中国企業が請け負い、労働者も中国から送り込まれるケースが多い。
短期的には地元に落ちる経済効果が限定的なまま、借金だけが雪だるま式に膨らんでいった。
この不均衡な構造こそが、中国による「経済的統制」の第一歩なのである。
電力自給への渇望と送電網の統制

画像 : ラオスの首都圏 ヴィエンチャン Jakub Hałun CC BY-SA 4.0
ラオスは豊富な水資源を活かし「東南アジアのバッテリー」になることを目指してきた。
しかし、ここでも「債務の罠」が牙を剥く。
インフラ投資の失敗と外貨準備高の枯渇により、ラオス政府は国営電力会社(EDL)の経営権を事実上、中国企業に譲渡せざるを得ない状況に追い込まれた。
2020年、ラオス電力公社と中国南方電網は合弁会社を設立したが、その支配権は中国側が握っている。
国家の生命線である高圧送電網の運営を他国主導の合弁に委ねることは、国のエネルギー主権の一部を外部に依存することに等しい。
電力を輸出して外貨を稼ぎ、豊かさを手に入れるという「自由」な国家像は、いまや電力インフラの統制という形で、中国の戦略的権益の中に組み込まれてしまったのである。
真の自立への渇望と一党独裁による統制

画像 : ラオス国家主席トーンルン・シースリット President.az CC BY 4.0
なぜラオスは、結果として中国への依存を強める構造に置かれてしまったのか。
そこには、ラオス人民革命党による一党独裁体制という政治的背景がある。
欧米諸国や国際機関からの融資には、人権問題や民主化、透明性の確保といった厳しい条件が課されることが多い。
対して中国の融資は「内政不干渉」を掲げ、迅速かつ巨額だ。
権力を維持し、目に見える成果を急ぐ政権にとって、中国マネーは極めて魅力的な選択肢であった。
しかし、その対価として差し出したのは、国の将来を担う天然資源や重要インフラの主権である。
国民が真の経済的自立を渇望しても、政府が中国との密接な関係を通じて構築した「債務による統制」の鎖を断ち切ることは容易ではない。
ラオスの事例は、一帯一路が単なる道路や鉄道の整備ではなく、相手国の経済的自立に深く関与し、その選択肢を制約し得る高度な政治工作であることを物語っている。
メコンの小国が辿る道は、中国の覇権主義がもたらす「静かなる侵略」の恐ろしさを、世界に改めて突きつけている。
参考 : ラオス政府エネルギー鉱山省(MEM)『ラオス国電力系統マスタープラン策定プロジェクト ファイナルレポート』他
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部
























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