近年、北極圏を巡る国際情勢が激変している。
かつては氷に閉ざされた「辺境」であったこの地が、地球温暖化による海氷の減少に伴い、地政学的・経済的な戦略拠点へと変貌を遂げたからだ。
北極圏に領土を持たない「近北極国家」を自称する中国が、なぜこれほどまでにこの地域に執着するのか。その多角的な狙いを探る。
氷上のシルクロードと最短航路の確保

画像 : 氷上シルクロード (researchgate)CC BY-NC-ND 4.0
中国の最大の狙いの一つは、北極海航路(NSR)の活用による物流革命だ。
現在、中国から欧州への海上輸送は、マラッカ海峡やスエズ運河を経由する南回り航路が主流である。
しかし、北極海航路が安定的に利用可能になれば、従来の航路に比べて距離を約3割、日数を10日以上短縮できるとされる。
これは単なるコスト削減に留まらない。地政学的なリスク回避、すなわち「マラッカ・ジレンマ」の解消を意味する。
有事の際に既存の航路が封鎖されるリスクを考慮し、中国は「氷上のシルクロード」を提唱。
北極を第三の主要貿易ルートとして位置づけ、物流の主導権を握ろうとしているのだ。
未開発の資源とエネルギー安全保障

画像 : 北極海 イメージ
北極圏には、世界の未発見在来型天然ガスの約30%、石油の約13%が存在すると推定されている。
エネルギー消費大国である中国にとって、これらの資源は喉から手が出るほど欲しいものだ。
中国はすでにロシアの液化天然ガス(LNG)プロジェクト「ヤマルLNG」に巨額の出資を行っており、北極圏の資源開発においてロシアとの協調を強めている。
また、北極圏の周辺陸域を中心に、レアアースや金、ダイヤモンドなどの鉱物資源の存在も指摘されている。
ハイテク産業のサプライチェーンを維持するためにも、北極圏での発掘・採掘権の確保は、中国の国家戦略において極めて高い優先順位を占めている。
科学探査を隠れ蓑にした軍事的野心
北極の重視は経済的側面に限定されない。
中国は北極圏での科学調査や観測基地の建設を積極的に進めているが、これらは軍事転用が可能な「デュアルユース(軍民両用)」の側面を持つ。
例えば、北極海での音響観測や海底地形の調査は、潜水艦の運用能力を向上させるために不可欠なデータとなる。
北極海は水深が深く、氷に覆われているため、潜水艦が隠密に行動するのに適している。
仮に将来、中国が北極圏での軍事的プレゼンスを拡大させれば、米国や欧州にとって新たな安全保障上の課題となり、北半球の戦略環境に大きな影響を与える可能性がある。
中国にとって北極は、単なるフロンティアではなく、21世紀の覇権を握るための「鍵」である。
経済、エネルギー、そして軍事。これら全ての野心が氷の下で複雑に絡み合い、中国を北へと突き動かしている。
今後、北極圏を巡る競争は、既存の北極評議会加盟国との摩擦を生みながら、より一層激化していくことは避けられないだろう。
参考 : Circum-Arctic Resource Appraisal: Estimates of Undiscovered Oil and Gas North of the Arctic Circle 他
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部
























この記事へのコメントはありません。