国際情勢

「アラビア半島のアルカイダ」とは何か 〜米本土を標的に起こしたテロ事件

アサド政権の崩壊

シリアでアサド政権が崩壊し、シリア解放機構という反政府勢力が実権を掌握した。

※シリア解放機構については以下参照
『シリア・アサド政権が崩壊』 主導した「シリア解放機構」って何? 〜ヌスラ戦線とは
https://kusanomido.com/study/overseas/global/99329/

シリア解放機構は穏健路線を継承し、イスラム過激主義とは距離を置く姿勢を鮮明にしている。

しかし、シリア解放機構はもともと国際テロ組織アルカイダの関連組織を前身組織としており、シリアが再びテロの温床になることへの懸念は残っている。

アルカイダは9.11同時多発テロを実行し、その後にはアルカイダを支持する組織が各地に広がり、世界の安全保障にとっては深刻な脅威となった。

そして、オバマ政権の時を中心に、最も脅威となったのが「アラビア半島のアルカイダ」と呼ばれるテロ組織である。

アラビア半島のアルカイダとは

アラビア半島のアルカイダ ナセルウハイシ

画像 : Nasir al-Wuhayshi(ナシル・アル・ウハイシ) in 2012 アラビア半島のアルカイダ(AQAP)のリーダーを務めたイエメンのイスラム主義者 wiki

近年、アラビア半島のアルカイダの対外的攻撃性で目立った動きはないが、以前同組織は拠点とするイエメンから幾度も国際テロを計画、結果として未遂事件となったが行動に移した。

アラビア半島のアルカイダは、サウジアラビア当局による厳重なテロ対策から逃れたアルカイダメンバーたちがイエメンに活動拠点を移し、「イエメンのアルカイダ」(AQY)とメンバーたちと共同して、2009年1月に設立された組織である。

イエメンのアルカイダは、2000年10月のアデン湾に停泊していた米海軍駆逐艦コールを狙った爆破テロ、2002年10月のイエメン沖を航行する仏タンカーリンバーグを狙った爆破テロなどを実行し、欧米諸国への強い敵意を示してきたが、アラビア半島のアルカイダもこの傾向を継承した。

アラビア半島のアルカイダはイエメンの南部のアビヤン州やシャブワ州、中部マリブ州やアル・バイダ州、東部のハドラマウト州など各地で活動し、現地の軍や警察、親イランのシーア派武装勢力フーシ派などとの闘争を継続しているが、対外的攻撃性を顕著に示し、オサマ・ビンラディンが設立したアルカイダ本体同様、特に米国への敵意を強く示す。

アラビア半島のアルカイダによるテロ事件

アラビア半島のアルカイダが関与した、米本土を標的にしたテロ事件としては、

・イエメンで訓練を受けたナイジェリア人ウマル・ファルーク・アブドルムタラブによる、クリスマス米旅客機爆破未遂テロ事件(2009年12月)

・アラビア半島のアルカイダの広告塔である米国人アンワル・アウラキから影響を受け、過激主義に目覚めた精神科医ニダル・マリク・ハサンによる、アリゾナ州・フォートフッド陸軍基地銃乱射事件(2009年11月)

・アンワル・アウラキから影響を受けたパキスタン系米国人ファイサル・シャザドによる、ニューヨーク・タイムズスクエア爆破未遂テロ(2010年5月)

・イエメン発米国行の貨物輸送機に乗せたプリンターのカートリッジに爆薬を隠した、貨物機爆破未遂テロ(2010年10月)

などがある。

こういった事件が相次いだことで、オバマ政権はアラビア半島のアルカイダによる米国本土を標的とした攻撃意志と戦術に強い懸念を表すようになり、2010年1月に同組織を国際テロ組織に指定した。

画像 : アラビア半島のアルカイダの指導者となったアンワル・アウラキ(Imam Anwar al-Awlaki) in Yemen October 2008, wiki c

オバマ政権は、アラビア半島のアルカイダを最も深刻な脅威と位置付け、ドローンによるピンポイント攻撃をイエメンにおいて本格化させることになり、2011年9月にはアンワル・アウラキとサミール・カーン(オンライン 英語雑誌「インスパイア」の作成において重要な役割を果たす)を殺害した。

その後も米軍は当時のハディ政権の協力により、アラビア半島のアルカイダへの攻撃を強化し、同組織は多くの幹部やメンバーを失い、組織的に大きなダメージを受けた。

しかし、近年でも2021年6月にネット上で米国在住のイスラム教徒に対して聖戦を呼び掛け、2019年12月に米南部フロリダ州にあるペンサコラ海軍基地で発生した銃乱射事件において犯行声明を出すなど、依然として米国への敵意を放棄しておらず、今日に至っている。

参考 : 『国際テロリズム要覧』他
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部

アバター画像

エックスレバン

投稿者の記事一覧

国際社会の現在や歴史について研究し、現地に赴くなどして政治や経済、文化などを調査する。

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く
Audible で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. 哲学者ヒュームとルソーの友情はなぜ壊れたのか?共感の哲学が直面し…
  2. 旧ソ連・北朝鮮の巨大建造物について調べてみた 【スターリン様式、…
  3. アメリカ合衆国独立の歴史について調べてみた
  4. 【900円で買った胸像が4億6000万円に】 倉庫のドアストッ…
  5. 【光る君へ】刀伊の入寇で受けた被害はどれほど?藤原実資『小右記』…
  6. 『中国4大美人』楊貴妃には多くの人が耐えれなかった“生理的な欠点…
  7. ヨーロッパの百鬼夜行? 夜空を駆ける“死の軍団”ワイルドハントの…
  8. 奈良市内で囁かれる都市伝説「長屋王の祟り」 ~その歴史的背景とは…

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

ジンバブエの過酷な現在 【アフリカ食糧庫からの転落、ムガベ独裁後も再びインフレ】

ジンバブエのあらましジンバブエ はアフリカ南部にある国であり、かつては南ローデシアとも言…

1年間で4回も改元!?『三国志』の黎明期、混乱を極めた中平六年を振り返る

日本で最も短い元号は、鎌倉時代中期、暦仁(りゃくにん)の74日。命名の出典は中国二十四史の一つ『隋書…

京都五山の送り火、8月16日じゃないのに夜空に燃えた大文字

現在はお盆の送り火として、8月16日にだけ灯される京都五山の大文字や妙法・舟形。しかし過去に…

陸奥宗光 ~「カミソリ」の異名を取った外務大臣

坂本龍馬との絆陸奥宗光(むつむねみつ)は、第2次伊藤内閣の外務大臣を務め、幕末に日本が開…

「共謀罪」について分かりやすく解説

2017年6月15日未明、参議院本会議においてある法案が成立した。「テロ等準備罪」を新設する…

アーカイブ

人気記事(日間)

人気記事(週間)

人気記事(月間)

人気記事(全期間)

PAGE TOP