大阪の下町には、占いの原風景を今に伝える神社があるそうです。
「瓢簞山稲荷神社(ひょうたんやまいなりじんじゃ)」と呼ばれるその神社は、「日本三大稲荷」のひとつに数えられ、本殿は古墳の上に建てられているといいます。
さらに、「辻占い」と呼ばれる独特の風習が伝わっており、その起源や立地も非常に興味深いものです。
辻占いとはどのようなものか。そして、なぜ古墳の上に社殿が建てられているのか。
実際に現地を訪ねてみました。
瓢箪山稲荷神社の起源

画像:瓢箪山稲荷神社の由来看板 筆者撮影
瓢簞山稲荷神社の創建は、天正11年(1583年)。比較的新しい神社といえますが、その由緒には歴史的な背景があります。
きっかけとなったのは、豊臣秀吉による大坂城の築城でした。
大坂城の築城にあたり、城の巽(たつみ)すなわち東南の方角で、三里ほど離れたこの地に、伏見の稲荷神を鎮護神として勧請したのがはじまりとされています。
大阪の神社らしく、その創建には秀吉の名が深く関わっているのです。
この瓢簞山稲荷神社は、近鉄奈良線・瓢簞山駅から南へ向かって商店街を歩いた先にあります。
にぎやかな通りを進んでいくと、商店街の中ほど、左手に伸びる細い道の先に鳥居が見えてきます。
庶民的な下町の一角に、ひっそりと祀られているのが印象的です。
古墳の上に建つ瓢箪山稲荷神社

画像:拝殿や舞台の位置関係 筆者撮影
瓢簞山稲荷神社は、生駒山系のふもとに位置し、境内はゆるやかな上り坂の途中にあります。
さらに本殿の背後には、傾斜とは別に小高い丘が広がっており、この丘こそが6世紀末の古墳時代後期に築かれた双円墳です。
ふたつの円墳が連なる形状から、上空から見ると瓢箪(ひょうたん)のように見えることが名前の由来とされています。
秀吉の命により神社が建てられたとのことですが、その際に古墳であることを認識していたのかどうかは定かではありません。
この独特な立地のせいか、拝殿や本殿の横手前には、朱塗りの柵に囲まれた舞台が設けられており、ひときわ目を引きました。
さらに、元古墳の小高い丘の上には、いくつもの末社が祀られていて、境内全体がぎゅっと凝縮されたような印象を受けました。

画像:末社群の例 筆者撮影
神社の建つ北側の道に廻ると、石垣の断崖となっており、その立地を確認することができます。

画像:古墳北側の切通し 筆者撮影
三大稲荷神社の疑問
瓢簞山稲荷神社は、金運や商売繁盛、開運、五穀豊穣、縁結びの神として、地域の人々に親しまれています。
また、神社の公式ホームページには、「日本三稲荷」と明記されています。
とはいえ、これまでに各地の稲荷神社を訪れてきた筆者からすると、三大稲荷と呼ばれるには、やや控えめな佇まいの神社だと感じられました。
一般的に「日本三大稲荷」としてよく名前が挙がるのは、伏見稲荷大社(京都)を中心に、豊川稲荷(愛知)、笠間稲荷神社(茨城)、祐徳稲荷神社(佐賀)の中から2社を加えた組み合わせです。
また、候補とされる稲荷神社は全国に10社以上あり、その中のひとつとして瓢簞山稲荷神社の名前も見られます。
よく見かける「三大○○」といった呼び方には、実は公的な基準があるわけではなく、多くは地域の伝承や、自薦・他薦によって語られているのが実情です。
三大稲荷神社もそのひとつで、明確な定義はなく、いくつもの説が入り混じっています。
辻占いとは

画像 : 辻占煎餅を焼く様子。『藻汐草近世奇談. 3編下之巻 』 public domain
辻占(つじうら)とは、通りすがりの人の言葉や姿を手がかりに吉凶を読み取る、古くからの占いの形式です。
もともとは夕方に辻(交差点)に立ち、偶然通りかかった人の会話を神の託宣として受け取る「夕占(ゆうけ)」と呼ばれる習俗が起源とされ、『万葉集』などの古典にもその風習が詠まれています。
辻は神や異界と人間世界の境界とされ、神霊が通る場所と信じられてきました。
これとよく似たものに、橋のたもとで占う「橋占(はしうら)」もあります。
瓢簞山稲荷神社は、こうした古い信仰を今に伝える数少ない存在であり、「辻占の総本社」として、今も独自の形式による辻占いが受け継がれています。
今回、筆者も実際にその方法を体験してみたいと考え、神社を訪れました。しかし、あいにく当日は宮司が不在で、占っていただくことはできませんでした。
代わりに、社務所でお守りなどを授与していた女性の方に、占いの流れについてうかがうことができました。
まず、拝殿でおみくじを引いて番号を覚えたあと、本殿北側の道路沿いにある「占い場」と書かれた看板の前に立ちます。
そこで最初に通りかかった人の特徴――来た方角、性別、年齢、服装、持ち物、連れの有無など――を観察し、その内容を社務所で宮司に伝えると、宮司家に伝わる霊示に基づいて結果を教えてもらえるのだそうです。
通行人は歩いている人だけでなく、自転車やバイク、車に乗っている人でもかまわないとのことでした。
ただし、そうした情報からどのように判断が下されるのかについては、「私たちにもわかりません」とのことでした。
筆者は今回は体験できませんでしたが、興味を持たれた方は一度足を運んでみてはいかがでしょうか。
参考 : 『瓢簞山稲荷神社HP』他
文:撮影 / 草の実堂編集部
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