城,神社寺巡り

京都歴史散策・京都最古級の歴史を持つ2つの賀茂社。 上賀茂神社と下鴨神社をめぐる

上賀茂から下鴨をゆったりめぐる歴史散策

画像:上賀茂神社中門(撮影:高野晃彰)

画像:上賀茂神社中門(撮影:高野晃彰)

京都は、神社・仏閣が多い土地柄として知られている。

もちろん、全国には京都よりも神社・仏閣を多く有する県もある。しかし、千年の都の京都には、歴史的に貴重な由緒を持つ寺社が多いという強みがあり、それが国内はもとより、世界中から人々が集まる理由でもあるのだ。

ただ、コロナ明けの京都の観光事情は、正直、尋常でない気がする。京都は、観光都市としての側面も大きいので、インバウンド需要が重要なのは仕方がないかもしれない。

しかしながら、京都を訪れる際に多くの人が求めているのは京都ならではの「風情」ではないだろうか。突き詰めると、それが京都の旅の最大の魅力なのだ。

画像:コロナ禍明けの京都の混雑(撮影:高野晃彰)

画像:コロナ禍明けの京都の混雑(撮影:高野晃彰)

だが、そうは言ってもやはり京都へ行きたいという本音には逆らえない。そこで今回の歴史散策は、京都最古級の神社である上賀茂神社を起点に、名所・旧跡に立ち寄りながら深泥池を経て、下鴨神社まで歩いてみた。
このルートは、起点・終点の両社の混雑は避けられないが、その間は住宅地を中心に歩くので、比較的ゆったりと京都の風情を味わえる。

その行程は、上賀茂神社→社家の道→大田神社→深泥池→下鴨神社で、所要時間は参拝・見学時間を含めておおよそ3時間ほどだ。

ちなみに上賀茂神社と下鴨神社はともに通称で、それぞれに正式名がある。上賀茂神社は、賀茂別雷神社(かもわけいかづちじんじゃ)。そして、下鴨神社は、賀茂御祖神社(かもみおやじんじゃ)というが、本記事では、通称の上賀茂神社・下鴨神社の名称を用いることとする。

両社とも古代より、賀茂氏により祭祀が行われた歴史のある神社だ。賀茂氏は、代々賀茂神社に奉斎して古代の山城国葛野郡・愛宕郡を支配し、その子孫は上賀茂・下鴨の両神社の祠官家となったといわれる。

葛野郡・愛宕郡は大まかにいえば、現在の京都府にあたる地域だ。つまり、桓武天皇が794(延暦13)年に平安遷都を行う遥か昔から、賀茂氏は京都を拠点に活躍していた。そして、平安遷都後は、上賀茂神社・下鴨神社ともに王城鎮護の社として朝廷の崇敬を受けるとともに、山城の国・一之宮とされた。

画像:葵祭斎王代 wiki c

画像:葵祭斎王代 wiki c

ちなみに、上賀茂神社・下鴨神社では、毎年5月15日(かつては毎年陰暦4月の中の酉の日)に、京都御所を起点に下鴨神社を経て上賀茂神社までの約8kmの道のりを、着飾った行列が練り歩く「葵祭(正式には賀茂祭)」が有名だ。

この祭りは現在では、祇園祭・時代祭とともに、京都三大祭りの一つとして知られる。だが、もともと賀茂氏の祭りで、上賀茂神社と下鴨神社の例祭であったが、819(弘仁10)年に、朝廷の行う重要な国家的行事になった。

祭りの花である斎王の行列は平安時代から行われていたもので、『源氏物語』には光源氏と紫の上が、この祭りを見物する場面が登場するほど、日本歴史上有名な祭事とされている。

斎院が置かれた王城鎮護の上賀茂神社

画像:細殿前にある神山を象った立砂(撮影:高野晃彰)

画像:細殿前にある神山を象った立砂(撮影:高野晃彰)

今回の歴史散策の起点・上賀茂神社へは、JR京都駅から市バス4系統に乗車し、上賀茂神社前に下車すると神社はすぐ目の前だ。
しかし、昨今の京都の路線バス事情は決して快適とはいえない。乗客が集中して、一度では乗り切れなかったり、混雑の余りバス停での乗り降りが大変で、思いの他目的地まで時間を要してしまうことが多いからだ。

そうしたことを考慮すると、市営地下鉄烏丸線に乗車し、北山駅で降りれば徒歩約15分で上賀茂神社に到着できるので、こちらの方をおすすめしたい。

さて、同社の祭神は賀茂別雷神(かもわけいかづちのかみ)で、賀茂氏の氏神とされる。この神様は、下鴨神社の祭神・賀茂建角身神(かもたけつぬみのかみ)の孫で、境内の北北西に聳える神山に降臨し、上賀茂神社が営まれた。

社伝によれば、飛鳥時代の678(天武天皇7)年には、現在の社殿のもととなる社が造営されたという。

平安遷都後に王城鎮護の神社となってから、朝廷との関わりが深くなり、伊勢神宮の斎宮と同様の斎院が置かれ、賀茂祭(葵祭)が勅祭となった。

約79万平方mという広大な境内は、森厳な雰囲気に包まれている。そんな境内には、約60棟の社殿があり、このうち国宝が本殿・権殿、さらに41棟が重要文化財に指定されているというから、その歴史的価値が分かろうというものだ。

画像:ならの小川(撮影:高野晃彰)

画像:ならの小川(撮影:高野晃彰)

上賀茂神社をくまなく見ていたら、半日あっても足りないだろう。今回は、下鴨神社までの歴史散策が目的なので、本殿・権殿にお参りしてから、時代劇のロケ地としても知られる、ならの小川の畔で一休みしてから、府道103号線沿いの社家の道に向かった。ならの小川は賀茂川を源流とし、正しくは明神川という。夏の時期、水着で水遊びをする子供たちの歓声が聞こえてくる地元民にとって絶好の涼スポットだ。

ちなみに上賀茂神社の御利益は、雷の如く強いご神威により、厄除・開運・必勝・落雷除など幅広い御神徳で知られる。

明神川沿いに伝統的な町並みが続く社家の道

画像:社家の道(撮影:高野晃彰)

画像:社家の道(撮影:高野晃彰)

上賀茂神社の門前を流れる明神川沿いの一帯は社家の道といわれている。社家とは、上賀茂神社の神官たちで、彼らが住む屋敷が軒を連ねていたことからこの名が付いた。

かつては300軒の社家が立ち並ぶ社家町を形成していたが、現在は約30軒の屋敷が残る。それぞれの社家には、玄関に通じる明神川に架かる石橋がしつらえられて、独特の景観を作り出しており、国の重要伝統建造物群保存地区に指定されている。

その中で唯一、一般に公開され見学可能なのが「西村家住宅」だ。

同家は、上賀茂神社の神官を務めた錦部家の旧宅。明治20年代に西村家が所有して現在に至っているが、1181(養和元)年に作庭したと推定される1,300平方mの庭園が往時の面影をとどめたまま残っている。

画像:西村家住宅庭園(撮影:高野晃彰)

画像:西村家住宅庭園(撮影:高野晃彰)

庭内には曲水の宴のための小川、神山を形取った降臨石をはじめ、かつて神事の前に身を清めたみそぎの井戸も現存する。

西村家住宅と、道を挟んだ場所に料亭と見間違うような立派な造りの「御すぐき處 京都なり田 上賀茂本店」がある。この地で、京都三大漬物といわれるすぐき漬けを300年以上商う老舗だ。

乳酸発酵してじっくりと漬けられたすぐきは、植物性乳酸菌が豊富なため健康食品としても注目される。その味はというと、熟成されたコクのある酸味が特徴。

筆者は、やや細かめに刻んで、飲んだ後のお茶漬けの具として愛用している。

画像:すぐき漬け(提供:なり田)

画像:すぐき漬け(提供:なり田)

カキツバタの群落と芸能上達の大田神社

画像:大田神社(撮影:高野晃彰)

画像:大田神社(撮影:高野晃彰)

さて、次は上賀茂神社の摂社・大田神社へ。社家の道を東に600mほど、ゆっくり歩いても10分ほどで赤い鳥居が見えてくる。本殿はその奥、小さいながら鬱蒼とした鎮守の森の奥に鎮座する。

創建は不詳だが、賀茂の最古の神社と伝えられ、天細女命を祭神とする。この神は、天岩戸開きの際、岩戸の前で神楽をされた神で、そのため芸能上達を祈って参拝する人が多いという。また、上賀茂神社より長い歴史を持つことから、古くから長寿の信仰も集めている。

境内の大田の沢には、天然記念物のカキツバタの野生群落がある。花の見頃は、毎年5月中旬。平安時代から有名で、藤原定家の父・俊成も、このカキツバタを和歌に詠んでいる。

ここからは、府道103号をさらに東へ、住宅街の中を20分ほど進み深泥池(みぞろがいけ)へ向かう。

今も氷河期以来の動植物が棲息する深泥池

画像:深泥池(撮影:高野晃彰)

画像:深泥池(撮影:高野晃彰)

深泥池は、北区上賀茂深泥池町から狭間町にかけて広がる池で、中央に池全体の3分の1を占める浮島がある。夏には浮かび上り、冬は沈んで冠水するという不思議な島として知られている。

また、池には、氷河期以来の動植物が今も生き続け、多くの水生植物・昆虫・魚類・野鳥などが棲息する。深泥池は、少なくとも約1万年前までに形成され、今なおその原型を保つ生物学的に大変貴重な池なのだ。

ただ、この池を有名にしているのは、幽霊騒動であろう。

タクシーが女性を乗せて目的地に向かっている途中、深泥池に近づくと女性が消え、シートが濡れていたというよくある話しなのだが、何度も起きていることや、事件だと思って交番に駆けつける運転手さんがいるなど、信憑性の高い都市伝説として語り継がれている。

原生林糺の森の中に鎮座する下鴨神社

画像:下鴨神社楼門(撮影:高野晃彰)

画像:下鴨神社楼門(撮影:高野晃彰)

深泥池からは、下鴨本通りを南に一直線。おおよそ30分で、最後の目的地である下鴨神社に到着する。

同社は、上賀茂神社とともに賀茂氏が祭祀した神社で、祭神は賀茂氏が祖神とした賀茂建角身神と、その子の玉依姫命。なお、玉依姫命は上賀茂神社の祭神の賀茂別雷神の母とされる。

崇神天皇7年に神社の瑞垣の修造した記録があるので、弥生時代後期には既に祭祀が行われていた可能性が高いと考えられる日本最古級の神社だ。奈良時代には、大きな社殿が建ち、盛大に祭りが行われていたとされる。

平安遷都後は、上賀茂神社とともに王城の守護神として崇められ、中世には、両社ともに山城国一の宮となった。東西の両本殿は、1863(文久3)年に再建されたもので国宝に指定。この他、重要文化財に指定される31の殿舎がある。

画像:相生社(撮影:高野晃彰)

画像:相生社(撮影:高野晃彰)

また境内には、縁結びの相生社、お払いの社の井上社、美麗祈願の河合神社など、摂社・末社がたくさんあり、同社も本来なら上賀茂神社同様に、本腰を据えて参拝したいものだ。

本殿奥の右手には、みたらし池を伴う井上社(御手洗社)がある。土用の丑の日にこの池の清水に足をつけると病気にかからないとされ、無病息災を祈ってお祓いをうける足つけ神事(御手洗祭)が行われる。

画像:井上社(撮影:高野晃彰)

画像:井上社(撮影:高野晃彰)

葵祭に先立って、斎王代の禊の儀が行われるのも、このみたらし池。池から湧きあがる水泡の姿を団子にかたどり、みたらし団子が発祥したという。

神社近くに店を構える「亀屋粟義」は、同社からみたらしだんごを商うことを許された由緒正しい和菓子店で、門前菓子として人気だ。

画像:みたらし団子(提供:亀屋粟義)

画像:みたらし団子(提供:亀屋粟義)

また、河合神社は、鎌倉時代に『方丈記』を記した鴨長明ゆかりの社。長明は同社の禰宜の息子として生まれた。

境内には、長明が晩年過ごしたとされる建物を再現した方丈の庵が展示されている。

画像:鯖寿司(提供:花折)

画像:鯖寿司(提供:花折)

まだまだ下鴨神社に滞在したいのだが、今回はこのあたりで歴史散策を終了しよう。

河合神社の東側に広がる貴重な原生林・糺ノ森で暫し森林浴を楽しんだら、出町柳商店街の「花折」に立ち寄り、名物の鯖寿司とビールで、散策の疲れを癒そうか。

画像:糾ノ森(撮影:高野晃彰)

画像:糾ノ森(撮影:高野晃彰)

上賀茂神社(賀茂別雷神社)公式サイト:https://www.kamigamojinja.jp/
御すぐき處 京都なり田 公式サイト:https://www.suguki-narita.com/
大田神社 公式サイト:https://www.kamigamojinja.jp/shaden/oota/
下鴨神社(賀茂御祖神社)公式サイト:https://www.shimogamo-jinja.or.jp/
花折 公式サイト:https://www.hanaore.co.jp/

※参考文献
高野晃彰編 京あゆみ研究会著 『京都ぶらり歴史探訪ガイド』メイツユニバーサルコンテンツ 2022年2月

 

高野晃彰

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高野晃彰(たかのてるあき)
編集プロダクション「ベストフィールズ」とデザインワークス「デザインスタジオタカノ」の代表。歴史・文化・旅行・鉄道・グルメ・ペットからスポーツ・ファッション・経済まで幅広い分野での執筆・撮影などを行う。また関西の歴史を深堀する「京都歴史文化研究会」「大阪歴史文化研究会」を主宰する。

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