6月も中旬頃になると、あちらこちらの神社の入り口に大きな「輪っか」が設置されます。
通りすがりに「なんだろう?」と思った人もいるのではないでしょうか?
これは、6月の風物詩「夏越しの大祓(なごしのおおはらえ)」という日本古来からある行事で用いられる「茅の輪くぐり(ちのわくぐり)」というもので、1月〜6月までの半年間に溜まった「穢れ(けがれ)や罪」を清めてくれるのです。
一年の折り返し・6月末に行われる「夏越しの大祓」
夏越しの大祓とは、1年の折り返し地点になる6月30日に、全国各地の神社で行われる夏の季節行事です。
正月からの半年間、自分の身体や心に溜まった穢れ・何気なく犯してしまった罪・嘘などを祓い、残り半年を清々しく無病息災で過ごせるように祈願します。
(一年最後の日12月31日にも大祓が行われ、1年の後半に溜まった穢れや罪を祓い清めて新年を迎えるために行います)
「夏越しの大祓」の起源
大祓の行事は、伊弉諾尊(いざなぎのみこと)が黄泉の国で受けた穢れを払うために、水で禊祓(みそぎはらえ)をしたことに由来するという伝承があり、古代・中世を通じて行われていました。
一時、室町時代の応仁の乱によって中断されていましたが、明治4年に明治天皇の意向により宮中で復活、翌年からは全国の神社で再興されるようになったそうです。
昔の日本は、夏場においては猛暑・水不足・疫病の流行などに悩まされていました。そこで、人々にとって夏越しの大祓を行うことは「無事に秋を迎えられるように」という願いも込めた行事だったのではないか……といわれています。
また、寛弘2年(1005年)から寬弘4年の間の成立したとも伝わる『拾遺和歌集(しゅういわかしゅう)』には、
水無月の なごしの祓する人は ちとせの命のぶというふなり
(6月の夏越の祓をする人は命が千年伸びると言われている)
という和歌が残されています。
半年間の穢れを落とし心身ともに清められ、無事に夏を越して残りの半年も健康に過ごせるようにという思いは、1000年の昔から現代まで変わることのない人々の切なる願いなのでしょう。
「夏越しの大祓」で設置される「茅の輪」
夏越しの大祓では、神社によってサイズは異なりますが、直径数メートルもの大きな「茅の輪」が設置されます。
茅の輪は、「茅(ちがや)」という屋根を葺くための材料として使用する、イネ科の植物の総称です。
茅の輪の作り方や作り手は神社によっても異なりますが、一般的には丁寧に選別した茅を、大きな輪っか(割竹を重ねたもの・竹を炙って輪っか状にしたもの・塩ビのパイプなどいろいろあり)に重ねて縄で巻き付け、大きな輪っか状にしたものを立てて、竹の枠に固定して設置していきます。
「茅の輪」で疫病を逃れた蘇民将来
参拝者は、茅の輪をくぐることによって、穢れや厄災を茅の輪に移して清めます。
なぜ、茅の輪なのか?……にはこんな話が伝わっています。
かつて、武塔神(むとうしん・むとうのかみ)が旅先で、巨旦将来(こたんしょうらい)という人物に、一夜の宿を求めました。
ところが、巨旦将来は、裕福なのにもかかわらず断ります。そこで、武塔神は貧乏な弟の蘇民将来(そみんしょうらい)の家を訪れます。
客人用の布団など持たないほど貧乏だった蘇民将来ですが、敷物の代わりに栗殻を敷き詰めて座にし、栗飯を炊いて精一杯武塔神をもてなしました。
その数年後、武塔神がお礼のために蘇民将来の家を再訪し、「茅の茎で作った茅の輪を腰に付けなさい」と伝えます。
蘇民将来と妻と娘がその通りにしたところ、周辺の人々が流行病で死に絶えたのにも関わらず、彼らは無事に生き残ったのです。
説話によると、その時、武塔神は「吾は速須佐能神(すさのおのかみ)なり」(建速須佐之男命・須佐之男命とも)と称し、
「疫病が流行ったら、お前達は 『蘇民将来の子孫』といい、茅の輪を腰につけなさい。そうすれば疫病から免れるだろう」
と伝えたとか。
この故事から「茅の輪」は疫病・悪災疫除けの霊力のある神符とされているそうです。
茅の輪は正しいくぐり方で
神社に設置してある芽の輪の横には「くぐり方」の説明看板が立てられていることも多いので、その通りにくぐってみましょう。
神社によっては作法が違うので、よく読んでください。
一般的にはくぐる前に一礼をし、「左まわり → 右まわり → 左まわりと8の字を描くように3回」茅の輪をくぐって回り、終わったら本殿に参拝します。3回くぐったら清められたことになるので、参拝後はくぐらないようにしてください。
「お守りに」と芽の輪の芽を抜いて持って帰る人もいるそうなのですが、芽はくぐった人々の穢れ・罪・嘘などをすべて吸い取ったものなので縁起が悪いそうです。
芽の輪が設置される期間は、6月の初旬から〜7月初旬までと神社によって異なります。
人型(ひとがた)に厄を移すことも
「夏越しの大祓」の日は、人の形を模した紙の形代(かたしろ)「人形(ひとがた)」で厄払いをすることもあります。
人形に自分の名前・年齢を書いて、身体を撫でる・息を吹きかける・身体の悪い部分をこするなど人形に厄を移します。
人形は、袋に入れて神社に納める、葉っぱで作った舟に乗せて川に流す、かがり火で燃やすなど、地域や神社によって方法が異なるようです。
「夏越しの大祓」で食べるもの
夏越しの大祓の日に食べるものがあります。
氷をイメージした「水無月」
京都では、夏越しの大祓の日には、京都発祥の「水無月(みなづき)」という和菓子を食べる習慣があります。
白い三角の外郎(ういろう)の上に小豆を乗せたお菓子で、白い三角の土台は暑気払いをしてくれる「氷」を表し、小豆には「魔除け」の意味があるそうです。
旧暦の6月1日は「氷の節句」で、室町時代には幕府や宮中ではこの日になると京都の北山にある「氷室(ひむろ)」に保存している氷を取り寄せ暑気払いをしていたとか。
けれども、庶民には氷は貴重品で手に入れられるものではありません。
そこで宮中の氷を真似て、外郎で三角形にしたそうです。和菓子屋では、6月になると店頭に水無月が並びます。昔ながらの白のほかにも黒砂糖・まっ茶のバリエーションもあります。
最近では、東京の和菓子屋さんでも6月に入るとこの水無月を作るところも増えてきたようです。
「夏越ごはん」を食べることも
夏越しの大祓の日には、「夏越ごはん」を食べることもあります。
公益社団法人米穀安定供給確保支援機構(米穀機構)が、平成27年より毎年6月30日を「夏越ごはんの日」として制定。
暑い夏を乗り切る「夏越ごはん」を提唱しました。
蘇民将来(そみんしょうらい)が素盞嗚尊(すさのおのみこと)を粟飯でもてなしたという伝承にならい、粟と邪気を払う豆などが入った雑穀ごはんに、茅の輪をイメージした夏野菜とイカのかき揚げを乗せ、生姜の下ろしだれをかけたものです。
ちょうど一年の半分が終わる節目の6月末。今年は、神社で芽の輪くぐりをして溜まった邪気を祓い、水無月や夏越しごはんを食べてみてはいかがでしょうか。
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