神話、伝説

神話や伝承に登場する『ラクダの怪物』 ~ノアの方舟に乗れなかった巨獣

画像 : ラクダの群れ pixabay cc0

ラクダは、主に砂漠に生息する、背中のコブが特徴的な哺乳類である。

古来より人類はラクダを飼いならし、移動や運搬などに欠かせない「乗り物」として活用してきた。

ところが神話や幻想の世界においては、背中に乗せた人間をそのまま地獄まで運んでしまうような、恐るべきラクダの伝承が存在する。

今回は、そんな驚愕の「ラクダの怪物」について紹介したい。

1. キャメルレパード

画像 : キャメルレパード 草の実堂作成(AI)

キャメルレパード(Cameleopard)は、ラクダとヒョウの合成生物である。

その姿は一見ラクダのように見えるが、体にはヒョウのごとき斑点が大量についており、頭には二本の角が生えているという。

ヨーロッパの紋章にはさまざまな伝説の生き物が描かれているが、その中の一つに、このキャメルレパードが含まれることがあった。

古代のギリシャ人やアラブ人が、アフリカを訪れた際にこの生物と遭遇し、やがてその話がヨーロッパ中に広がったとされる。

その正体は、現在のキリンと考えられている。

2. ダイナ

画像 : ダイナ 草の実堂作成(AI)

ダイナ(Dajna)は、地中海に浮かぶ島・マルタ島に生息するとされた、ラクダのような怪物である。

作家・ステファン=D=ミフスドの著書『The Maltese Bestiary』にて、その存在が言及されている。

この怪物の見た目はラクダそのものだが、大きさはなんと象の10倍ほどもあり規格外である。
雌のダイナの母乳は薄毛によく効くとされたが、その入手は極めて困難であり、手にすることができたのは、ごく一部の英雄だったという。

旧約聖書で語られる「ノアの方舟」は、ノアという人物が巨大な舟に家族とさまざまな動物を乗せ、洪水に沈んだ世界を生き延びる物語として有名だ。

だがダイナはその巨躯ゆえ舟に乗ることができず、そのまま水に飲まれて絶滅してしまったという。

3. ハブシル

画像 : ハブシル 草の実堂作成(AI)

ハブシル(Khavshil)は、モンゴルの民族・オイラト族の伝承作品『ジャンガル』に登場する、フタコブラクダの怪物である。

ジャンガルには、以下のようなエピソードが記述されている。

(意訳・要約)

「天下の美男子」と呼ばれる英雄・ミンヤンが、砂漠を旅していた時の話である。

突如、歯ぎしりをしながら炎を吐く、巨大な白いラクダのハブシルが現れたかと思うと、凄まじい音を立てながらミンヤンに襲い掛かってきた。

だがミンヤンはハブシルを上回るスピードで翻弄し、頭を剣で叩き割って殺した。

ハブシルの死体は99の川をせき止めてしまったが、ミンヤンは暢気にハブシルのコブを切り取り、焼いて食べてしまった。

4. レッドゴースト

画像 : レッドゴースト 草の実堂作成(AI)

レッドゴースト(Red Ghost)は、19世紀のアメリカに出没したとされる亡霊である。

主に、次のようなエピソードが語られている。

(意訳・要約)

1883年、アリゾナ州のとある牧場での話だ。

牧夫の妻が小屋で留守番をしていたところ、突如番犬がけたたましく吠え始め、次の瞬間には人間の悲鳴が聞こえてきた。
何ごとかと思い、妻が窓の外を見てみると、そこには「赤毛の巨大な獣」を駆る「悪魔のような何か」がいたという。

騒ぎを聞きつけた牧夫と従業員が見回りから戻ってくると、小屋の戸に鍵をかけ、ガタガタ震える妻の姿があった。
そして外には、無惨にも踏みつぶされた女の死体が転がっていた。
(この女は、従業員の伴侶であったという)

翌日、牧夫たちが怪物の残した足跡をたどってみると、茂みの中に赤い動物の毛のようなものが散乱しているのを発見した。

その後も怪物による襲撃事件は各地で相次いだが、現場にはやはり赤い毛が残されていた。

時が経つにつれて荒唐無稽な噂話も増え始めたが、目撃者の誰もが「怪物は背中に骸骨を乗せていた」とこぞって答えた。

ある時、5人組の男衆が怪物を狙撃したところ、弾は背中に乗る骸骨の頭部を撃ち抜いた。
転がり落ちた頭蓋骨には、生皮と髪の毛がこびり付いていた。

そして怪物目撃から10年後の1893年。
ヘイスティングという農夫が、ついに怪物を射殺することに成功した。

怪物の正体は巨大なラクダであり、革紐が顔に食い込んで傷だらけであった。

ラクダは本来、アメリカには生息していないはずの生物である。なぜ、ラクダの怪物の逸話が生まれたのだろうか?

19世紀中頃、白人たちはメキシコとの戦争を経て、大陸南西部の広大な土地を奪いとった。
この広い範囲を移動する手段として検討されたのが、粗食に耐え持久力も抜群なラクダだった。

そしてアフリカなどから多数のラクダが集められ、1856年頃に「アメリカ陸軍ラクダ部隊」が編成された。
砂漠や荒野の移動において、ラクダたちは予想を上回る優れた能力を発揮した。

だが1861年に南北戦争が始まると、軍部は次第にラクダへの興味を失い始めた。
ほとんどのラクダが売却されたが、中には逃げ出して野生化する個体もいたという。

レッドゴーストの逸話は、この野生化したラクダの中から生まれたと考えられている。

野生化したラクダが、誰かの死体を背中に乗せたまま10年以上アリゾナを彷徨っていた可能性もある。
だとすればこれは、人間の身勝手によって生み出された悲劇といえるだろう。

参考 : 『神魔精妖名辞典』『ジャンガル』他
文 / 草の実堂編集部

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草の実学習塾、滝田吉一先生の弟子。
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