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「最近の蚊は素早くなった?」逃げ切る蚊の新習性~効果的な撃退方法とは

蚊が媒介する病気

画像 : ヒトに感染する種のライフサイクル public domain

感染症の原因には、ウイルスや細菌、寄生虫など多くのものがある。そのなかでも見過ごせないのが、こうした病原体を運ぶ「媒介生物」の存在である。

なかでも「」は、世界中で最も多くの人間に病気を運んでいる昆虫のひとつだ。
小さな体ながら、毎年多くの命を奪う感染症の原因となっている。

もっとも深刻な例がマラリアである。世界保健機関(WHO)の推計によれば、マラリアは年間およそ60万人の死者を出しており、いまなお世界的な脅威となっている。

そのほかにも、蚊を媒介とするウイルス性疾患は数多い。デング熱、ジカ熱、黄熱病などが知られ、とくにデング熱は熱帯地域を中心に頻発している。

筆者の住む台湾南部でも、毎年のようにデング熱の流行が警戒されている。
春先からすでに注意喚起が始まり、衛生局による巡回指導や、蚊の発生源を断つための監視活動も行われている。

筆者の近隣でも、デング熱の注意を呼びかけるポスターが掲示されているが、それでも感染者の数はなかなか減らない。流行のたびに多数の罹患者が発生し、深刻な公衆衛生問題となっている。

そして近年、蚊が「進化」しつつあり、人間にとってますます手ごわい存在になっているという。

蚊の何が進歩したのか?

画像 : 素早くなった蚊 イメージ 草の実堂作成(AI)

「最近の蚊は、なんだか叩きにくくなった?」そう感じたことがある方もいるのではないだろうか。

中興大学農業・自然資源学部の副学部長であり、昆虫学を専門とする黄紹毅(こう・しょうい)教授は、「確かに以前よりも叩きにくくなっている」と明言する。

ただし、蚊の身体構造や飛行速度そのものに大きな変化があったわけではない。
黄教授によれば、変化が見られるのは人間の脅威に対する反応の鋭さと、回避行動の高度化だという。

つまり、蚊は生き残るために、より敏感に人間の動きを察知し、素早く逃げる行動パターンを身につけてきた。
その結果として「退治しにくくなった」と感じられているのだという。

黄教授によれば、蚊が人間の攻撃を回避する際の特性は、次の3つである。

1・蚊の羽ばたきは非常に高速で、1秒あたり400〜600回に達する。この羽ばたきにより飛行は軽やかになり、人間の手の動きを正確に察知しやすくなる。

2・空気の流れや振動を敏感に感知する能力が備わっており、人間が近づいただけで風圧などから危険を察知し、瞬時に逃げることが可能になっている。

3・一部の蚊、特にエジプトヤブカ(Aedes aegypti)などは、飛行パターンが直線的ではなく、不規則で急旋回を繰り返す。この飛び方は、捕捉や叩打を極めて難しくしている。

こうした一連の特性は、いずれも人間の攻撃から身を守る能力の向上と結びついており、蚊が環境に適応するなかで、進化的に獲得してきたと考えられている。

また、蚊の飛行可能な距離や高さについては、以前から誤解がある。
一般的な蚊は、数メートルから十数メートルの範囲しか自力で飛ばないとされており、例えば日本脳炎を媒介するコガタアカイエカも、せいぜい5メートル程度が飛行可能な高さとされている。

しかし実際には、都市部の高層住宅でも蚊の姿は珍しくない。
これは、蚊が人や物とともにエレベーターに乗って上がってくるなど、飛行能力以外の手段で移動しているためだと考えられている。

建物の高さによって蚊の活動が制限されるとは限らず、人間の生活空間に付随してどこへでも現れるのが現代の蚊なのである。

何か対策はないのか?

蚊を効果的に退治するには、その習性を正しく理解することが重要である。
黄教授は、蚊の行動パターンに即した対策を取ることで、撃退の成功率を高めることができると述べている。

蚊の退治には、以下のような工夫が有効だという。

1・蚊は上下に飛ぶ習性がある。そのため、左右から叩くよりも、上下から手のひらで挟むようにすると命中率が高くなる。

2・蚊は、人が動かずに静止しているときに血を吸いにくる。皮膚に止まったタイミングを見計らい、静かに接近してから一気に叩くのがよい。飛び回っているときに無闇に追い回すよりも、壁や衣服などに止まった瞬間を狙う方が効果的である。

3・懐中電灯や電撃ラケットに付属したライトを使い、蚊を光に引き寄せてから狙う方法もある。特に夜間に有効。

さらに、蚊を家に侵入させないための環境整備も欠かせない。蚊の発生源を断つことが防除の基本だという。

まず、家の周囲に水たまりを作らないことが重要だ。
植木鉢の受け皿や排水溝など、水が溜まりやすい場所は定期的に確認し、清掃する必要がある。どうしても水を溜める場合は、ボウフラ(蚊の幼虫)を捕食する魚を飼うことで繁殖を抑えられる。

窓には網戸を設置し、レモンユーカリやミントなど蚊が嫌うハーブを植えることも効果がある。
加えて、UVライトを使った捕虫機や、電撃ラケットの活用も推奨されている。

筆者が住む台湾でも、まもなく本格的な夏が始まる。
例年であれば4月を迎えるころにはエアコンが必要になるほどの暑さだが、今年は比較的涼しい日が続いている。しかし猛暑は遅かれ早かれやってくる。

デング熱の発生が最小限に抑えられることを願うとともに、読者の皆さんにも蚊への備えを今のうちから整えていただけたら幸いである。

参考 :『獨家/昆蟲系教授證實 3大原因蚊子變得越來越難打』台灣媒體報導
文 / 草の実堂編集部

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草の実学習塾、滝田吉一先生の弟子。
編集、校正、ライティングでは古代中国史専門。『史記』『戦国策』『正史三国志』『漢書』『資治通鑑』など古代中国の史料をもとに史実に沿った記事を執筆。

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