大阪市平野区には、融通念仏宗の総本山として知られる大念仏寺があります。
この寺院では毎年5月の連休に「万部お練り供養」と呼ばれる盛大な行事が行われ、多くの参詣者で賑わいます。
筆者も今年、この行事を見学し、その華やかさと厳かさに強く心を惹かれました。
見学を通して三つの疑問が浮かびました。
① 融通念仏宗とはどのような宗派なのか
② 「万部お練り供養」にはどのような意味があるのか
③ 行列に地蔵菩薩が加わるのはなぜか
今回は、この三つの視点から大念仏寺と融通念仏宗の歴史や信仰をたどっていきます。
融通念仏宗と大念仏寺
融通念仏宗は、あまり耳にしない宗派かもしれません。
筆者も当初は、比較的新しい仏教系の一派ではないかと思っていました。
ところが実際には、平安時代末期の1117年に良忍上人によって開かれた歴史ある宗派で、現在では日本仏教十三宗の一つに数えられています。
鎌倉時代に浄土宗・浄土真宗・日蓮宗などが相次いで成立するよりも前に誕生しており、日本独自の仏教の先駆けといえる存在です。
この融通念仏宗の総本山が、大阪市平野区にある大念仏寺です。

画像:大念仏寺山門 筆者撮影
本堂は度重なる焼失を経て、昭和13年に現在の姿に再建されました。
総ケヤキ造り、棟行39.1メートル・梁行49.1メートルを誇る建築で、大阪府下最大の木造建築物として知られています。
堂内の正面宮殿には本尊である十一尊天得阿弥陀如来画像が安置され、その両脇には岡倉天心の高弟である仏師・新納忠之介による多聞天王と八幡大士の極彩色木像が立っています。
さらに左右の宮殿には、宗祖・聖應大師(良忍上人)と、中祖・法明上人の木像が祀られています。
「万部お練り」とはどんな行事なのか
大念仏寺の「万部お練り」は、融通念仏宗で行われる万部会と、二十五菩薩が行列を組んで極楽浄土への来迎を再現する「お練り供養」が結びついた行事です。
一般的には、きらびやかな菩薩行列が繰り広げられるお練り供養として広く知られています。

画像:二十五菩薩 筆者撮影
お練り供養とは、西方極楽浄土から観音菩薩・勢至菩薩をはじめとする二十五の菩薩が来迎し、衆生を導く浄土思想を表現した儀式です。
その二十五菩薩の名は宗派や寺院によって異なりますが、大念仏寺では次のように伝えられています。
観世音・勢至・薬王・薬上・普賢・法自在・獅子吼・陀羅尼・虚空蔵・徳蔵・宝蔵・金蔵・金剛・山海慧・光明王・華厳王・衆宝王・月光王・日照王・三昧王・自在王・大自在王・白象王・大威徳王・無辺身
菩薩の顔や装束、楽器を整えて行列を組む姿は荘厳そのもので、11世紀頃から始まったと伝えられます。
奈良県では當麻寺、京都では泉涌寺即成院のお練り供養が有名です。
大念仏寺では、第七世法明上人が當麻寺の行事を手本に、14世紀前半に導入したのが始まりとされます。
以後、毎年の恒例行事として受け継がれ、今日に至っています。
その見どころは、やはり菩薩たちが金色に輝く面を付け、華やかな衣裳をまとい、楽器を奏でながら練り歩く姿です。
仏像とは異なる、生き生きとした法会の迫力に触れることで、独特のありがたさを感じることができます。
大念仏寺のお練り供養もまた、その華やかさと厳かさを兼ね備えた行事でした。
地蔵菩薩と地蔵信仰
先に述べた二十五菩薩には、地蔵菩薩の名は見られません。
しかし、日本では地蔵信仰が盛んで、人々を現世で救う存在とみなされてきました。
そのため、京都・泉涌寺即成院のお練り供養では、地蔵菩薩が行列の先頭に立ち、現世に見立てた地蔵堂から極楽に見立てた本堂へと橋を渡って進みます。
今回見学した大念仏寺でも、二十五菩薩とは別に、最後に地蔵菩薩が登場していました。

画像:街角の地蔵菩薩 筆者撮影
この地蔵菩薩とは、どのような存在なのでしょうか。
仏教では、釈迦が入滅した後、56億7000万年後に弥勒菩薩が出現するまでの長い間、地蔵菩薩が衆生を救済すると説かれています。
特に地獄に堕ちた者を救う誓願を立てた菩薩として信仰されてきました。
「地蔵」という名は、大地が万物を育むように衆生を包み、救済の力を蔵することに由来するといわれます。
地蔵菩薩は寺院だけでなく、街角や村の辻、田畑のそばなど身近な場所に祀られており、人々が日常的に手を合わせる仏様なのです。
人々は子どもの健やかな成長を願う子安地蔵、長寿を祈る延命地蔵、出世地蔵や交通安全の地蔵など、さまざまな願いを託してきました。
こうした背景から、地蔵菩薩はお練り供養でも特別に加えられ、現世と来世をつなぐ象徴的な役割を担っているのです。
おわりに
今回は、融通念仏宗の総本山・大念仏寺で行われる「万部おねり」を見学し、そのきらびやかで厳かな雰囲気に心を動かされました。
もし機会があれば、皆さまも近隣の寺院で行われるお練り供養に足を運び、その荘厳な世界に触れてみてはいかがでしょうか。
参考 : 『大念仏寺公式サイト』他
文:撮影 / 草の実堂編集部
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