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「祇園祭」真っ只中!京都の夏を彩る“鱧の味覚”と“送り火”の絶景

今年の夏も祇園祭が始まった

画像:祇園祭山鉾巡行(撮影:高野晃彰)

今年も7月1日から1ヵ月にわたる、「祇園祭(ぎおんまつり)」が始まった。

江戸の「神田祭」、浪花の「天神祭」と並ぶ、日本三大祭りの一つである。

「ヨーイ、ヨーイ、エンヤラ、ヤー」。

これは、蒸し暑い、炎天下の下、山鉾が町を練り歩く巡行(前祭:17日、後祭:24日)の際に、鉾の車頭に陣取った音頭取りが発する掛け声だ。

画像:祇園祭山鉾巡行音頭取り(撮影:高野晃彰)

巨大な山鉾は、大勢の引き手たちが力を合わせて前へと進めていく。

扇をかざして引き手を励ます掛け声は、お囃子の「コンコンチキチン、コンチキチン」というリズムとともに、祇園祭の雰囲気を彩る重要な音曲である。

鱧を夏の味覚に仕立てた骨切り

画像:鱧(pixta)

「祇園祭」は、俗に「鱧(はも)祭り」とも呼ばれることがある。

鱧とは主に関西でお馴染みの、あの胴の長い魚である。

地図を見れば一目瞭然だが、京都の中心地は海に面していない。
ただ、京都府の北端には若狭の海(日本海)があるので、昔はそこで揚がった鯖(さば)、甘鯛(あまだい・別名:若狭ぐじ)などに塩をした“一塩もの” が一晩かけて運ばれ「若狭もの」として重宝された。

そのような中で、生命力の強い鱧は、生きたまま京都に運ぶことができる貴重な魚として親しまれてきた。

しかしこの魚、硬い小骨がやたら多く、そのままではとても口に入らない。そのため京阪神以外では、多くがかまぼこの材料とされてきた。

ところが京都では、鱧を夏の味覚の王者に仕立てた。

それが職人による“骨切り”である。

画像:骨切りした鱧 wiki.c

鱧の骨切りは、「一寸を二十四に包丁する」という。

その名も“鱧切り包丁”という専用の重い包丁で、身を皮一枚残して、「シャッ、シャッ、シャッ」と小気味よく刻んでいく。

その切れ目の理想の間隔は1.2ミリといわれ、これでさしもの小骨も微塵になり、口に入れても当たらなくなるのだ。

京の夏に欠かせない鱧料理

画像:鱧の落とし(写真ac)

鱧は「梅雨の水を飲んで美味しくなる」といわれるように、6月頃から食べ頃を迎える。

7月には身が引き締まり、さっぱりとした味わいに。秋を迎える頃には脂がのって、濃厚な旨味へと変化する。

「照り焼き」にしてもよし、「椀だね」にしてもよし。
しかし、鱧本来の淡泊な味わいをダイレクトに楽しみたいのであれば、「落とし」が一番だろう。

骨切りを施した鱧の身を一口大に切り分け、熱湯にさっとくぐらせる。すると皮が縮み、細かく入れた切れ目が開いて、真っ白な花が咲いたような姿になる。

これを氷水にとって、涼しげな器に盛りつける。わさび醤油、梅肉、酢味噌などいずれで食べても美味しい。

今は、関西以外の地域でも食べられるようになった「鱧の落とし」だが、京の職人の手による鱧の味は格別だ。

画像:鱧すし(写真ac)

また、「照り焼き」は「鱧寿司」に仕立てられることが多い。

かつては祇園祭が始まると、京都洛中の商家ではお中元として鱧寿司を贈り合う習慣があったという。

このように、祇園祭を中心とした京都の夏において、鱧は欠かせない存在なのである。

京の秋の入り口、五山の送り火

画像:五山の送り火大文字 wiki.c

その鱧に名残を惜しむのが、「大文字」の頃だ。

この“送り火”がいつの時代から始められたのかは定かではないが、今では京都の夏になくてはならない行事になっている。

8月16日の夜、銀閣寺の奥の如意ヶ嶽に「大」の文字の中心がチカっと光る。
見る間に火は、縦横に走り、煙が鎮まるにつれ鮮やかな大文字がくっきりと浮かび上がる。

やがて、北の松ヶ崎に「妙」「法」の二字、続いて西賀茂に「船型」、金閣寺の奥の大北山に「左大文字」、最後に上嵯峨水尾山に「鳥居形」が灯る。

これが、五山の送り火である。

画像:五山の送り火船形 wiki.c

この送り火、赤々と燃え盛る姿より、消えかける風情がよい。

火勢がおさまり、衰えながら、それぞれの文字が点々と欠けていく。

その情景に「ああ、今年も夏が行く」と都人はしみじみ思うそうだ。
火の消えかけた五山から、京の秋はゆっくりと降りてくる。

名残の鱧と松茸の出会い

画像:鱧と松茸の土瓶蒸し(写真AC)

五山の送り火が終わり、9月に入ると、“秋の味覚の王様”と称される「松茸」が登場する。

中でも、京都郊外・丹波で採れるものは香り高く、上質な高級品として珍重されている。

初秋のわずかなひととき、京の夏を彩った「鱧」と、秋の訪れを告げる「松茸」が出合う。
この時期、京都の料理店では、しゃぶしゃぶや土瓶蒸しなどで、「鱧」と「松茸」の絶妙なハーモニーが楽しめる。

やがて、京の町から名残の鱧が姿を消し、松茸の香りが漂う頃、足早に秋が深まっていく。
京の季節の移ろいは、遅いようで、早い。

※参考文献
京都歴史文化研究会著 『京都歴史探訪ガイド』 メイツユニバーサルコンテンツ刊
文:写真/高野晃彰 校正/草の実堂編集部

高野晃彰

高野晃彰

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編集プロダクション「ベストフィールズ」とデザインワークス「デザインスタジオタカノ」の代表。歴史・文化・旅行・鉄道・グルメ・ペットからスポーツ・ファッション・経済まで幅広い分野での執筆・撮影などを行う。また関西の歴史を深堀する「京都歴史文化研究会」「大阪歴史文化研究会」を主宰する。

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