
画像 : 肝臓は人間の体の部位で最も再生能力が高いとされる pixabay cc0
「再生能力」とは、ほとんどすべての生物が生まれながらに備えている基本的な性質である。
例えば人間であれば、皮膚がある程度傷ついたとしても、時間の経過とともに自然とふさがっていく。
これはまさに、再生能力の働きといえるだろう。
とはいえ、怪我が完全に治るまでには相応の期間が必要であり、跡が残ることも珍しくない。
ところが世の中には、体をいくつに切り分けられても短時間で元通りになってしまうという、驚異的な再生力を備えた生物が存在する。
今回は、そうした驚くべき再生能力を持つ生物たちを紹介していきたい。
プラナリア

画像 : プラナリア illstAC cc0
再生する生物の代表格といえば、プラナリア(Planarian)である。
動物番組などでもよく特集されるため、ご存知の方も多いだろう。
プラナリアは体長2~4cmほどの、世界中の川に生息する比較的ポピュラーな生物である。
その形は平べったく、先端にはつぶらな瞳が2つ付いており、可愛さと気持ち悪さを同時に有した、何とも言えない姿をしている。
その再生能力は、まさしく人知を超えた驚嘆すべきものである。
切った箇所が治癒するどころか、そこから新しい頭がニョキニョキと生え、さらには分離した破片が新しいプラナリアの個体へと変化したりするので、もはやワケがわからない。
アメリカの遺伝子学者トーマス・ハント・モーガン(1866~1945年)はかつて、プラナリアを279分割するという実験を行った。
するとその279の破片全てが、それぞれプラナリアへと再生したという。
プラナリアがこれほどの再生力を持つ理由として、体の約30%がネオブラストなる幹細胞で占められているということが挙げられる。
幹細胞とは、いくらでも分裂できる細胞のことであり、特にこのネオブラストは内臓・眼球・脳など、あらゆる部位に変化することができる万能細胞だと考えられている。
しかし、もし河原でプラナリアを見つけたとしても、面白半分で切り刻んだりしてはいけない。
というのも、プラナリアは餌を食べた直後などは胃液の分泌が活発で、切断するとその胃液によって自分の組織まで溶かしてしまい、再生する前に死んでしまう危険があるためだ。
このため、研究などでは絶食している個体の方が再生が安定しやすいとされている。
さらに、仮に切り分けた破片がすべて再生に成功したとしても、自然環境では別の問題が生じる。
不用意に個体数を増やせば、生態系のバランスが崩れてしまう可能性がある。
自然界は実験室とは異なり、多くの生物が複雑に関わり合いながら成り立っている。
軽い気持ちで手を加える行為が、思いがけない悪影響につながることを忘れてはならない。
ヒドラ

画像 : 分裂するヒドラ wiki c A.houghton19
ギリシャ神話には、「ヒュドラ」という怪物の伝承が残されている。
ヒュドラは9本ないし100本の首を持つ大蛇であり、たとえ首を刎ねられても、その付け根から即座に2本の首が生えてくるという、恐るべき生命力を持った怪物として語られている。
そのヒュドラの名にちなんだ生物が、ヒドラ(Hydra)である。
無数の蛇のごとき触手を持ち、切ったそばから再生するその生態から、この名が付けられた。
その再生能力はプラナリアよりもさらに強力であると考えられており、なんと体を粉々にされても、遠心分離機などで破片を集めれば、新たにヒドラが発生すると言われている。
ただしヒドラは、脳や内臓を持たない非常に単純な身体構造をしており、一方のプラナリアは脳も胃腸も肛門も有した、それなりに複雑な構造をしている。
どちらが上とかそういうワケではなく、どちらも生物としての強みは甲乙つけがたいということだ。
ヒトデ

画像 : ヒトデ pixabay cc0
身近な生物でいえば、ヒトデ(starfish)もまた、かなりの再生力を有する生物である。
ヒトデは中央の盤から5本の腕が生えた、星型の特徴的なフォルムをしている。
だが飛び出た部位というのは、得てして捕食者に食べられやすい。
しかしヒトデは、腕を自ら切断することで、天敵から逃げおおせることができる。
そしてこの腕はいくらでも再生が可能なので、千切り放題というワケだ。
さらには、ヒトデを真っ二つにしてみたところ、絶命するどころか2匹に増えたという報告例もある。
ヒトデは中央の盤が本体であり、そこさえ無事であれば、いくらでも再生が可能なのである。
種によっては盤を切断されても、はたまた腕一本からでも全体を復元することができるというから驚きである。
アホロートル

画像 : ウーパールーパーはアホロートルの白変種である illstAC cc0
1980年代、日本のテレビコマーシャル上に、奇妙な生物が映し出された。
透き通るような白い体に、赤くグロテスクな6枚のエラが飛び出たそのフォルムは、瞬く間にお茶の間で話題となった。
ご存知「ウーパールーパー」である。
このウーパールーパーの正式名称は「メキシコサンショウウオ」またの名をアホロートル (Axolotl) といい、その名はアステカの言葉で「水の犬」などを意味する。
アホロートルもまた極めて高い再生能力を有することで知られており、尻尾や手足が千切れても、しばらくすれば元通りに生えてくる。
それどころか、脳・脊髄・心臓といった損傷が致命的になる部位さえも、ある程度の復元が可能だとされている。
脊椎動物の中では、群を抜いた再生力を有するといえよう。
しかし不死身というワケではなく、車に轢かれペチャンコに潰れたりすれば、当然即死する。
日本においてアホロートルは養殖されており、ペットとしてかなりの数が流通している。
仮にアホロートルを飼っていたとしても、再生能力見たさに、むやみやたらと傷付ける行為はもちろん推奨されない。
これら生物の再生能力は医療の世界でも注目されており、もし人体に応用できるようになれば、あらゆる傷や病気の治療が可能となるだろう。
我々が生きているうちに、実現してほしいものである。
参考 : 『プラナリアの生物学 基礎と応用と実験』『魚貝の図鑑』他
文 / 草の実堂編集部
























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