かつて「JAPOW(ジャパン・パウダー)」を求めて世界中のスキーヤーが熱狂した長野県・白馬村。
その景色がいま、劇的な変貌を遂げている。
麓の村を歩けば、目に飛び込んでくるのは中国語の看板や、数億円規模で取引される高級コンドミニアムだ。
その背後に透けて見えるのは、圧倒的な資金力を背景とした中国系資本による土地買収の波である。

画像 : 長野県北安曇郡白馬村を流れる松川と白馬連峰 MaedaAkihiko CC BY-SA 4.0
雪山への渇望と資本の論理
白馬の土地が中国資本に狙われる理由は明快だ。
北京冬季五輪を経て中国国内でウィンタースポーツ人口が爆発的に増加したこと、そして地政学的なリスクを回避するための「資産逃避」の先として、日本の不動産が極めて安価で安全だと見なされているからである。
かつて地元住民が経営していた民宿や老舗ホテルは、後継者不足とコロナ禍の打撃により、次々と手放された。
そこへ救世主のような顔をして現れたのが、中国系の投資グループや個人投資家たちだ。
彼らは市場価格を大きく上回るキャッシュを提示し、スピード感をもって広大な土地や建物を次々に買い進めていく。
現在、白馬の一部エリアでは、所有者や運営主体に中国系資本が目立つようになり、地元から見て誰が所有しているのか分かりにくい状態となっている。
静かなる浸食と地域コミュニティの分断
この現象を単なる「インバウンド需要の回復」と楽観視することはできない。
中国資本による買収が進むにつれ、地域社会には深刻な歪みが生じている。
第一に、地価の高騰だ。
外資による投機的な売買が繰り返されることで、地元の若者が家を建てるための土地すら、手が出ない価格に跳ね上がっている。
2024年の公示地価では、白馬村の住宅地上昇率が全国トップ級に達した。
また、一部の現地報道では、過去5年の実勢価格が約3.8倍という著しい上昇を示す地点もある。
家賃相場も1LDKで4万円ほど上昇するなど、投機的買収が地元住民の生活を直接圧迫し始めている。
第二に、運営の実態が見えない「ゴーストオーナー」の問題である。
買収されたものの、一年の大半は空き家状態となり、管理も行き届かない物件が増加。景観の悪化だけでなく、防犯上の懸念も拭えない。
さらに、中国系資本が運営する施設では、スタッフから食材の調達までが自国コミュニティ内で完結する「クローズド・エコノミー」が形成され「地元への経済波及効果が限定的である」という指摘も根強い。

画像 : 押し寄せるチャイナマネー イメージ
主権への危機感と法規制の壁
白馬で起きている事態は、日本の安全保障の縮図である。
水資源や森林、そして戦略的な拠点となり得る土地が、他国の資本によって合法的に支配されていく。
現状の日本の法律では、外国資本による不動産の取得そのものを止める仕組みがほとんど存在しないのが実情だ。
「自由な経済活動」という美名のもとに、村のアイデンティティと国土が切り売りされている。
一度失われた土地を取り戻すことは容易ではない。
白馬が「日本のリゾート」としての矜持を保ち続けられるのか、あるいは特定の国の巨大な資本に飲み込まれた「租界」へと成り下がるのか。
この静かなる侵略に対して、明確なノーを突きつけるべき段階に来ていると言えるだろう。
参考 : Koya Kuhara. (2024, July 10). Nagano’s Hakuba Sees Biggest Land Value Rise: Will It Become the Next Niseko? JAPAN Forward.他
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部
























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