国際情勢

知らないうちにスマホから攻撃されている?第6の戦場「認知戦」とは何か

近年、安全保障の世界において「陸・海・空・宇宙・サイバー」という従来の5つの領域に続く「第6の戦場」が注目を集めている。

それが「認知戦(Cognitive Warfare)」だ。

かつての戦争が物理的な破壊や領土の占拠を目的としていたのに対し、認知戦は人々の「思考」や「信念」そのものを標的とする。

今回は、最新のテクノロジーと心理学が融合したこの新たな戦争概念について、その実態を紐解いていきたい。

知られざる脳の戦場

画像 : 認知戦イメージ 草の実堂作成

認知戦とは、標的とする国の国民や意思決定者の「情報の受け取り方」を操作し、社会の分断や不信感を煽ることで、自らに有利な状況を作り出す戦術である。

NATOなどの軍事研究でも、人間の認知そのものを作戦対象とする概念として整理されている。

その最大の特徴は、武器を使わずに相手を内部から崩壊させる点にある。

人間は情報を処理する際、自身の経験や先入観に基づいた「バイアス」を持つ。認知戦はこの心理的隙間を突き、偽情報(ディスインフォメーション)や偏った情報を巧妙に流布させる。

現代社会において、スマートフォンやSNSは情報のライフラインであるが、同時に攻撃者にとっては、個人の注意や感情に常時接続できる「入口」ともなり得る。

スマートフォンは、私たちの認知に日常的に影響を与える接点だからだ。

SNSが武器になる仕組み

画像:SNSイメージ(unsplash camilo jimenez)

認知戦の主戦場は、私たちが日常的に利用しているデジタル空間である。

AIを活用したボットや、本物と見分けがつかない「ディープフェイク」動画は、情報の真偽を判別することを困難にさせる。

特にSNS上のアルゴリズムは、ユーザーが興味を持つ情報を優先的に表示する「フィルターバブル」を生み出す傾向がある。

攻撃者はこの仕組みを悪用し、特定の政治的見解や極端な思想を強化させる情報を集中的に送り込む。

これにより、社会の中に「敵」と「味方」の境界線が強く引かれ、建設的な議論が不可能なほどの分断が引き起こされる。

物理的な軍事侵攻を行わずとも、国家の結束力を奪い、機能を麻痺させることが可能になるのである。

ハイブリッド戦の一部としての役割

認知戦は単独で行われるだけでなく、軍事力や経済的圧力を組み合わせた「ハイブリッド戦」の中核として機能する。

例えば、軍事演習で物理的な圧力を示しつつ、同時にSNS空間で相手政府の統治能力に疑念を抱かせる情報を拡散すれば、国民の間に恐怖と不信感が同時に広がり得る。

こうした複合的手法は「ハイブリッド戦」の典型例とされる。

また、認知戦には明確な「宣戦布告」という区切りが存在しにくい。

平時から有事にかけてシームレス(途切れなく)に行われるため、被害を受けている側が「今、攻撃されている」と気づくことすら難しい。

目に見えない弾丸が、個々人のスマートフォンを通じて四六時中放たれているのが、現代の安全保障のリアルとも言えるだろう。

画像 : 認知戦 イメージ

私たちに求められるリテラシー

この「思考の乗っ取り」に抗うためには、国家レベルの対策だけでなく、個人レベルの防衛策が不可欠となる。

まず必要なのは、自分が目にしている情報が「誰によって、どのような意図で作られたか」を常に疑う姿勢である。

感情を激しく揺さぶるようなニュースに出会ったときこそ、一呼吸置いて情報のソースを確認する習慣が重要だ。

認知戦の究極の目的は、私たちが互いに信じ合えなくなることにある。

テクノロジーが進歩し、生成AIがより精緻な偽情報を生み出すこれからの時代、真の防衛線はシステムの中ではなく、私たち一人ひとりの「批判的思考」の中に築かれなければならないだろう。

参考 : NATO Allied Command Transformation, “Cognitive Warfare” 他
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部

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