
画像 : 春節時期の広州南駅の待合ホール 2020年 CC BY 2.5
2026年の旧正月(春節)休暇、東アジアの観光地図に異変が起きている。
例年であれば日本へのインバウンド需要がピークを迎える時期だが、台湾有事を巡る発言や、安全保障問題を契機に日中関係が急速に冷え込みにより中国政府が訪日団体旅行を事実上制限。
その受け皿となったのが韓国だった。
ソウルの繁華街や済州島には中国人観光客が殺到しているが、現地では歓迎の声ばかりではない。
むしろ、急速な流入に伴う摩擦から反中感情が再燃する事態となっている。
日中関係の冷え込みと観光客の目的地変更
2025年末から続く日中間の外交摩擦は、2026年の春節を前に決定的な局面を迎えた。
中国当局による日本旅行の自粛勧告は、航空各社が一部路線で減便やチケット変更対応を行うなど、旅行計画の見直しが相次いだ。
これにより、地理的に近くかつてのような「限韓令(サード事態による韓国文化制限)が緩和傾向にあった韓国が、消去法的な選択肢として急浮上したのである。
韓国側の推計では、春節9日間で最大19万人規模の中国人観光客が訪れる見込みで、前年春節の日平均比では約44%増となる。
ソウル市内の百貨店や免税店は「赤い看板」で埋め尽くされ、パンデミック以前の熱狂を彷彿とさせる光景が広がっている。
しかし、この特需がもたらすのは経済的利益だけではなかった

画像 : 中国人観光客が押し寄せる明洞 SKTakek CC0
韓国国内で再燃する反中情緒の実態
中国人観光客の急増に伴い、韓国のSNSやオンラインコミュニティでは、彼らのマナーや振る舞いに対する不満が噴出している。
特に、公共の場での騒音、行列への割り込み、さらには歴史的建造物周辺でのゴミのポイ捨てといったオーバーツーリズムによる弊害が表面化した。
また、単なるマナーの問題に留まらず、近年韓国社会で根強い文化守護の意識が火に油を注いでいる。
キムチや韓服(ハンボク)の起源を巡る「文化工程」論争が記憶に新しい中、大挙して押し寄せる中国人観光客の姿は、一部の若年層にとって「文化的な侵食」と映っているのだ。
ソウル市内の大学街では、中国人お断りを掲げる小規模な飲食店が散見されるなど、事態は深刻化している。
経済依存と国民感情のジレンマ
韓国政府および観光業界は、この複雑な状況に苦慮している。
内需停滞が続く韓国経済にとって、中国人による莫大な消費は無視できない「恵みの雨」だ。しかし、政府が観光客誘致に舵を切れば切るほど、世論との乖離は広がる一方である。
特に20代から30代の若者の間では、中国に対する拒否感が最高水準に達しており、これが次期選挙を見据えた政治的な火種になる可能性も否定できない。
日中関係の悪化という外部要因によって、図らずも「中国依存」を強めざるを得ない韓国の構造的弱点が、春節の喧騒の中で浮き彫りになっている。

画像 : ソウル市街地 徳寿宮 CC BY-SA 4.0
東アジアの観光動向と今後の展望
日中関係が改善の兆しを見せない限り、この韓国一極集中の流れは当面続くと見られる。
しかし、受け入れ側である韓国社会の許容範囲は限界に近い。観光客による経済効果が、一般市民の生活の質を脅かし、国民感情を逆なでするようであれば、それは持続可能な観光とは言えないだろう。
2026年の旧正月は、東アジアにおける地政学的なリスクがいかに容易に人々の流れを歪め、隣国間の感情を悪化させるかを証明する形となった。
日中韓三カ国の複雑な関係性は、観光という窓を通じても、出口の見えない混迷を続けている。
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部























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