城,神社寺巡り

「奈良通が知る静かな名所」高畑エリアの新薬師寺と白毫寺を歩く

奈良公園の南に広がる高畑エリアは、市内循環バスで東大寺大仏殿前を過ぎ、破石町から高畑町にかけての東側一帯に広がる地域です。

町家が建ち並ぶ、いわゆる「ならまち」とは雰囲気が変わり、この辺りには広い庭を持つ屋敷風の住宅が多く、観光客も比較的少ないため、静かな散策が楽しめる落ち着いた街並みが広がっています。

そんな高畑の中心にあるのが、国宝の十二神将像で知られる新薬師寺です。

さらに、高畑住宅バス停から東へ15分から20分ほど歩き、高円山の山麓へ向かうと、萩の寺として知られる白毫寺(びゃくごうじ)があります。

今回は、この高畑の新薬師寺と白毫寺の二つの寺院を訪れ、その魅力を紹介したいと思います。

大人の散策エリアの高畑

画像 : 奈良市高畑町の山辺道と石垣の町並み photoac

高畑は先に述べたように、屋敷風の住宅が立ち並ぶ、落ち着いた街並みが広がる地域です。

静かな環境の中でゆっくり散策を楽しめる、大人向けのエリアと言えるでしょう。

近年は、こうした邸宅を改修した食事処なども点在し、散策の途中で立ち寄れる店も増えています。

春日大社の若宮十五社めぐりをして南へ抜けると、この高畑エリアに至ります。

このエリアには新薬師寺のほか、文豪・志賀直哉が晩年を過ごした「志賀直哉旧居」や、その隣にある庭園カフェ「高畑茶論」もあります。

かつて文化人が集った場所として知られ、今も文化の香りを感じさせるスポットです。

さらに、新薬師寺のすぐ西側には「入江泰吉記念 奈良市写真美術館」があります。

画像:入江泰吉記念奈良写真美術館 筆者撮影

入江泰吉は奈良大和路の風景や仏像を生涯にわたって撮り続け、その魅力を広く伝えた写真家です。

美術館の建物は建築家・黒川紀章の設計によるもので、新薬師寺に隣接する立地を考慮し、歴史的景観との調和を意識したデザインとなっています。

建築そのものも見どころの一つと言えるでしょう。

十二神将で有名な新薬師寺

高畑の中心に建つのが、新薬師寺です。

この寺は天平19年(747)、光明皇后が聖武天皇の病気平癒を祈願して、僧・行基に建立させたと伝えられています。

創建当初は七仏薬師如来を安置する寺院として造営され、当時は七堂伽藍を備えた大寺院でした。

しかし、その後の長い歴史の中で多くの堂宇が失われ、現在、奈良時代の建物として残るのは、国宝に指定されている本堂のみです。

一方、境内にある東門・南門・鐘楼・地蔵堂は鎌倉時代の建築で、いずれも重要文化財に指定されています。

画像:新薬師寺の本堂 筆者撮影

新薬師寺は観光客がそれほど多くなく、境内には高畑らしい静かな空気が流れています。

本堂に入ると堂内は薄暗く、そこに国宝の本尊・木造薬師如来坐像と、それを取り囲む等身大の塑造による国宝・十二神将立像が安置されており、荘厳な雰囲気に包まれています。

十二神将像の迫力と表情の豊かさは、仏像に詳しくない人でも思わず見入ってしまうほどの見事さです。

多くの参拝者は十二神将の中から自分の干支の守り神を探し、手を合わせています。
なお、堂内は撮影禁止のため、その姿を写真で紹介できないのが残念なところです。

ちなみに、西ノ京にある世界遺産の薬師寺と新薬師寺は別の寺院で、宗派や歴史的系譜も異なります。

また寺名の「新」は新旧を意味するものではなく、「霊験あらたかな薬師」を祀るという意味の「あらたか(新たか)」に由来するとされています。

眺望が抜群の白毫寺

白毫寺(びゃくごうじ)は、市内循環バスの「高畑」または次の「高畑住宅」バス停から東へ向かい、のどかな住宅地を15分から20分ほど歩いた、高円山の山麓にあります。

町並みを抜けると、白毫寺の山門へと続く石段が現れます。
山門をくぐり、さらに石段を登っていくと境内にたどり着きます。

この石段の両側には萩が植えられており、秋になると紫や白の愛らしい花を咲かせます。

白毫寺は、奈良でも「萩の寺」としてよく知られている寺院です。

画像:白毫寺の山門と萩の花 筆者撮影

白毫寺の創建については諸説ありますが、天智天皇の皇子・志貴皇子の山荘跡に建てられたという伝承がよく知られています。

その後、鎌倉時代になって叡尊(えいそん)上人によって再興され、現在の白毫寺の基礎が築かれました。

叡尊の弟子が中国から持ち帰った宋版一切経を安置したことから、かつては「一切経寺」とも呼ばれていました。

境内には国指定の建造物文化財はありませんが、本尊の阿弥陀如来坐像をはじめ、重要文化財に指定された八体の仏像が宝物殿に安置されています。

画像:白毫寺のお堂と萩の花 筆者撮影

境内には展望スポットがあり、寺の西側には北から南まで奈良市街を見渡す広い眺望が開けています。

遠くには、奈良の象徴の一つである興福寺の五重塔を望むこともできます。

筆者が200mmの望遠レンズで撮影した写真にも、五重塔の姿がはっきりと写っています。

(なお、この写真は五重塔が保存修理に入る前に撮影したもので、現在は工事用の覆屋に囲われているため、残念ながら塔の姿を見ることはできません。)

画像:白毫寺からの眺望 筆者撮影

白毫寺へは、高畑の散策や新薬師寺の拝観とあわせて、少し足を延ばして訪れるのがおすすめです。

奈良を何度も訪れている人にとっても、新薬師寺とともに一度は立ち寄ってほしい寺院と言えるでしょう。

おわりに

今回紹介した二つの寺院は、奈良公園周辺の大寺院とは違った落ち着いた雰囲気を持ち、観光客も少ない静かな場所にあります。

歴史が好きな方や古寺巡りを好む方には、ぜひ訪れてほしい場所です。

奈良時代はおよそ70年余りと決して長い時代ではありませんが、奈良が宗教都市として栄えたその奥深さを、これらの寺院から感じ取ることができるでしょう。

参考 : 『続日本紀』『新薬師寺公式サイト』他
文・撮影 / 草の実堂編集部

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草の実堂編集部

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草の実学習塾、滝田吉一先生の弟子。
編集、校正、ライティングでは古代中国史専門。『史記』『戦国策』『正史三国志』『漢書』『資治通鑑』など古代中国の史料をもとに史実に沿った記事を執筆。

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