ミリタリー

ウィンチェスター・ライフルの歴史【西部劇の名脇役】

『駅馬車』『シェーン』『OK牧場の決斗』『拳銃無宿』『荒野の用心棒』

これらのタイトルを懐かしく感じる世代のなかには、小遣いやお年玉を貯めてモデルガンを買った記憶のある方もいるだろう。

そして、若い世代には「勧善懲悪」という分かりやすいストーリー、アメリカの白人の理想像、大人の男の渋さといった要素が憧れを抱かせる。

そんな西部開拓時代、ネイティブ・アメリカンとの戦いに使われたライフル・シリーズがあった。

西部を征したライフル」とも呼ばれ、西部劇にも多く登場する。

そのライフルこそ『ウィンチェスター・ライフル』である。

ヘンリー・ライフルからの始まり

ウィンチェスター・ライフルといっても、ウィンチェスター社が製造・販売してきたライフルにはボルトアクション式の傑作『M70』なども含まれてしまうが、一般的には西部開拓時代において活躍したレバー・アクション・ライフルのシリーズのことを指す。

ウィンチェスター・ライフル
※左からM73が2丁、M94、M92、M92Trapper(トラッパー/罠を使う猟師の意味)

この時代、アメリカで最も有名な銃器メーカーは、サミュエル・コルトにより設立された「コルト社」であった。なかでもヒット作は米陸軍に制式採用された「ピースメーカー」こと『コルト・シングルアクション・アーミー(Colt Single Action Army)』、略称S.A.Aである。これは軍隊だけではなく民間用も発売され、いわゆる「ガンマン」に愛用された拳銃として有名だ。


※SAA

その一方で、中遠距離用にライフルを製造していたのが、ウィンチェスター社であった。最初は、ニューヘイヴンアームズ社の名で銃器メーカーを買収し、『ヘンリー・ライフル』というレバー・アクション式ライフルの製造権を取得したことに始まる。

自社モデル第一号の発売へ


※ヘンリー・ライフル

南北戦争中に多く北軍兵士によって使用された『M1860 ヘンリー・ライフル』は、銃口から一発ずつ込める単発式のライフルと違い、引き金の下にあるレバーを下方に引き、それを戻すことで空薬莢の排出、次弾の装填が行えるという画期的なライフルであった。さらに銃身の下に延びたチューブは弾倉になっており、装填の際にはそこからスプリングの力で薬室に次弾が送られるため、最大で16連発の射撃が可能となっている。

これを改良し、ウィンチェスター社として名を変えたニューヘイヴンアームズ社は、1866年に「M1866」を発売した。これが、『ウィンチェスター社』の第一号製品である。

M1866はボディが金色の真鍮製であることから「イエローボーイ」とも呼ばれ、たちまち評判を博した。ちなみにこの時期のウィンチェスターのライフル名に付く数字はすべて発売年となっている。

M1894の完成


※ウィンチェスター M1894

さらに1973年には、M1866を改良した『M1873』が発売された。
M1873の革新的なポイントは、コルト・ピースメーカーのバリエーションモデルで使用していた弾を採用したことである。これにより、拳銃とライフルで弾を共用できるようになり、その人気に火が付いた。

余談だが、拳銃にもライフルにも同じ名称でありながら、使用する弾の口径が異なるバリエーションモデルが多数存在する。このM1873も「.44-40弾」という弾と「.45ロング・コルト」という2種類の弾が使用できるモデルがそれぞれ販売されていた。

その後は、M1892、M1894などレバー・アクション式のスタイルは変えずに、機関部の改良や強度の向上が行われ、ウィンチェスター・ライフルにおけるひとつの到達点として『M1894』が完成したのである。

軍用と民間用の温度差

『M1894』は、多種の弾に対応するバリエーションを持ち合わせており、通常よりもパワーのあるライフル弾も使用することができた。銃器史家によっては「究極のレバーアクションデザイン」とも呼ばれている。

当然、ウィンチェスター社は、自社ライフルの完成形である『M1894』を陸軍に売り込んだが、構造の複雑さなどの理由により制式採用には至らなかった。構造が複雑ということは、メンテナンスも複雑ということであり、故障のリスクも高くなる。さらに可動時に機関部の一部が露出するため、泥や埃が入りやすいという欠点(あくまで軍用としてだが)もあったためだ。

しかし、民間用ライフルとしては抜群の売り上げを記録しており、テディ・ベアで有名なセオドア・ルーズベルト大統領やネイティブ・アメリカンのアパッチ族の戦士・ジェロニモも愛用するなど、最終的には民間用ライフルとして、700万丁以上を販売した最初のライフルとなった。


※1886年、アパッチ戦士とともに立つジェロニモ(右端)。当時のジェロニモは前装式の単発銃を手にしているが、左端の戦士はウィンチェスター・ライフルを持っているのが分かる。

スクリーンでの復活

M1894により一応の完成を見たウィンチェスター・ライフルだったが、アメリカ陸軍での採用は見送られたものの、ロシア帝国からの注文を受けることになった。そこで、M1894をベースにロシア軍の制式採用弾である7.62×54mmR弾を使用できるように改修、さらに弾倉を垂直式に変えた『M1895 Russian』を完成させた。ロシアに納入された同モデルは第一次世界大戦でもロシア軍で使用され、これが最初で最後の軍用レバー・アクション・ライフルとなったのである。


※『M1895 Russian』

やがて、ボルトアクションライフルが主流となり、コストの高いレバー・アクション式は時代のなかで消えていったが、1920年代から起きたハリウッドにおける『西部劇ブーム』でピースメーカーとともに『西部開拓時代の象徴』としてスクリーンで甦った。

ゲイリー・クーパージョン・ウェインスティーブ・マックイーンなど、映画史に残るハリウッドスターとの競演を果たしたのだ。特にスティーブ・マックイーン主演の『拳銃無宿』では主人公ランダルが持つM1892のショートモデル『Mare’s Leg(メアーズレッグ)』が日本でも大きな注目を浴びることとなった。


※メアーズレッグ

最後に

第二次世界大戦後は、需要の減少からウィンチェスター・ライフルは製造を終了した。しかし、その後は他社のクローンモデルの発売(パテントが切れているために可能である)などもあり、2006年からは製造を再開した。

ピースメーカーと並び、100年以上も昔のライフルは今でも世界で愛されている。ウィンチェスター・ライフルは紛れもなく男の憧れなのだ。

関連記事:第一次世界大戦
第一次世界大戦とは何かについて調べてみた

 

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