北朝鮮の話題というと剣呑なものばかりだが、文化的な側面から見てみると実に興味深い。
特に首都の平壌(ピョンヤン)は、国の威信をかけて建造された建物や施設が多く、興味をそそられる。
独裁国家だからこそ、このような街づくりができたというのは旧ソ連を構成した東側諸国と同じだが、北朝鮮の場合は「国威発揚」、「個人崇拝」を前面に押し出している点が面白い。
科学都市を目指す平壌
朝鮮民主主義人民共和国の首都、平壌。
人口約250万人のこの都市は、まさに「海外に見せるための街」として整備され、この国の悲惨な経済情勢が外国人に伝わることはない。
市内のインフラが老朽化したことを受け、2000年ころから再開発が行われたため、平壌の中心部を流れる大同江(テンドンガン)沿いには、新たなメインストリートが整備された。科学者や教育者、国や党の幹部らが入居する53階建ての超高層マンションを始め、商業施設や多くの高層マンションが立ち並ぶ「未来科学者通り」が完成するなど、海外メディア向けに「科学技術重視」の政策をアピールすることになった。
未来科学者通りには「蒼光(チャンガン)商店」というデパートもオープンし、エスカレーターを備えるなど、今までよりも海外のデパートを意識したデザインとなっている。
【※未来科学者通りを紹介するニュース動画(日本語)】
こうした高層ビルの建築ラッシュは、工期の短さから耐震性や手抜き工事の懸念も指摘されているが、2017年には黎明(リョミョン / れいめい)通りが外国人記者たちに披露され、平壌の近代化を世界に見せた。
日本からも北朝鮮へ旅行に行ける!
今でも日本から北朝鮮への旅行が出来ることを知る人は少ない。
当然のように、日本と北朝鮮は国交がないために、直接北朝鮮に渡航することは出来ない。まして、このご時勢に何を好き好んでと思うだろうが、日本からの北朝鮮ツアーに一定の需要があるのは確かである。
需要はあるが、やはり世論的にネットなどで公開するにはためらいがあるのだろう。
【※平壌市内のパノラマ写真】
何しろ、日本国内にも北朝鮮ツアーを専門に扱う旅行代理店があり、中国経由で入国することが出来る。北京にある北朝鮮大使館で、ビザを発給してもらうところから始めるのだが、この段階から旅行代理店に頼むケースも多いという。
また、中国にはより格安な旅行代理店があるため、旅なれた観光客はそちらに申し込むことが多いようだ。
時期や日数などでも異なるが、一般的な4~6日間のツアーで一人平均30万円ほど。格安グアム旅行の約10倍近いが、これには現地で監視員を兼ねるツアーガイドの料金なども含まれており、日本語の対応なども完璧なので、安心感を買うと思えばいいのかもしれない。
比較的安全なツアー
「外務省 海外安全ホームページ」では、北朝鮮を危険スポットとして「渡航を自粛してください」と発している。
こうしたこともあり、拉致や監禁などの国家的な犯罪行為も含めて懸念を抱く人もいるだろうが、常にツアーガイドが同伴するために、その指示に従う限りは犯罪に巻き込まれることはないという。北朝鮮の数少ない外貨獲得の手段ということもあり、日本人に限らず、ヨーロッパからの旅行者などもその安全は確保されているようだ。
そうしたツアー客が案内される場所は大体決まっており、北朝鮮が「見せたい施設」ばかりだが、これが意外とバカに出来ない。
【※復興駅ホーム】
平壌地下鉄の復興(プフン)駅は、改札から一直線に伸びるエスカレーターで地下110mにあるホームに下りる。
ホームには、大理石が用いられ、故・金日成主席の壁画などと相まって荘厳な雰囲気をかもし出している。観光客が乗車できる区間は、全8駅中、隣の栄光(ヨングァン)駅までの一区間だけだが、有事には核シェルターとして利用できるように作られた世界最大深度を走る地下鉄は、人気の定番スポットだ。
国際級の2大ホテル
旅行の楽しみのひとつがホテルである。
とはいえ、北朝鮮ではホテルのレベルには期待できない、と思いきや、外国人観光客専用ともいえる高級ホテルがある。
北朝鮮で「特級」とされるホテルは2つあり、平壌駅に近い平壌高麗ホテル(ピョンヤンコリョホテル)と、市内を流れる大同江(テドンガン)の中州にある羊角島国際ホテル(ヤンガクトこくさいホテル)だ。
羊角島国際ホテルのほうが新しいが、川の中州ということもあり、外国人旅行客には平壌高麗ホテルのほうが人気がある。
平壌高麗ホテルは、高さ143mのツインタワー様式で、45階建て、客室は500以上あり、レストランには日本料理店も含まれるなど、北朝鮮にあって国際的にも通用する立派なホテルとして有名になった。
【※平壌高麗ホテル】
さらに最上階は、両タワーとも回転レストランになっていて、平壌市内を一望できるようになっている。羊角島国際ホテルも最上階は回転レストランになっており、外国人観光客向けのホテルであることを強く意識させる。また、ユーロ、人民元、米ドルのほか、日本円も使えることから日本人の観光客が多いことも分かる。
その他、高さ330m、105階建ての柳京ホテル(リュギョンホテル)が北朝鮮最高級ホテルとして計画、途中まで建設されたが、予算不足のために度々工事が中断され、起工から30年を経た現在では完成は不可能となった。
高さでは負けない建築物!
観光コースは平壌市内だけではない。
平壌から西へ約12kmほど離れた万景台(マンギョンデ)は、景勝地としても有名な丘陵地帯だが、何よりもその中心にある「金日成(キム・イルソン)の生家」が聖地として保存されているのだ。
貧しい農民生活から抗日活動に身を投じて、建国の英雄となった金日成だが、独立の指導者として名前だけが知られ、その容姿が知られていなかった建国当時、国民の前に姿を現した金日成はあまりにも若かった(当時33歳)。
それにより偽者説が流れたため、金日成は万景台に帰郷する様子をラジオ中継して、その噂を否定したこともあった。
【※金日成の生家】
といっても、そのようなことを観光中に口にするのはご法度だ。北朝鮮では英雄の聖地なのだから。
その他にも、高さ170mを誇る世界最高の石塔「主体思想塔(チュチェしそうとう)」では、エレベーターで150mの高さにある展望台に昇り、ガイドの説明を受けながら平壌市内を眺めたり、パリのエトワール凱旋門よりも10m高い60mという世界一の高さの凱旋門を観光するのが一般的なコースとなっている。
ちなみに、この凱旋門は金日成生誕70年を記念して「日本から祖国を解放した記念」を意味して建てられたのだが、実際には金日成がそのような働きをした事実は確認できず、プロバガンダの一部として建設されたものと考えたほうがいい。
【※主体思想塔】
【※凱旋門】
このように北朝鮮の観光といっても、ほぼ平壌市内か近郊だけで、郊外を見ることはまず出来ない。貧富の差があまりに激しいからだ。
だが、それだけに平壌には「外国人観光客に見せたいもの」が多くあり、国交のある国だけでなく、日本のように国交のない国の観光客も多い。
北朝鮮公式の外国人向けの観光サイト
「金日成の生家」を除き、巨大で圧倒的な規模の建築物を多く建てるのは旧ソ連と同じで、国威発揚とプロバガンダの意味がある。
独裁国家だからこそ予算を回せるわけであり、採算の取れない資本主義国家ではまずお目にかかれない。そして、ネット社会においても普段は知ることのできない(ツアー中はガイドにより撮影場所が限定されるため)北朝鮮の生活を肌で感じられることこそが、旅行客が絶えない理由なのだ。
最近では北朝鮮の観光当局が外国人観光者向けに、その手順や日程などを紹介したサイトを開設している。日本語でも閲覧可能だ。
※この記事は、北朝鮮の観光地や旅行事情を調べたものであり、北朝鮮への渡航を勧めたり、同国の軍事的挑発を肯定するものではありません。
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