私が小さい頃はまだまだ広い庭のある家も多く、夏から秋にかけて向日葵・朝顔・ダリア・カンナなどがよく咲いていました。
最近はこのような大きく育って場所を取る花は敬遠されていたのですが、ここへ来てダリアが人気を取り戻しているとか。そんな晩夏の花ダリアについて調べてみました。
何か野暮ったい
実は子供の頃はあまり好きな花ではありませんでした。花は奇麗なのですが、茎や葉っぱが野暮ったいと言うか丈夫過ぎ感があると言うか、全体の姿が洗練されていないのですね。うちの母親はそんな様子を「ブキブキしている」と言っていましたが。でも最近はソコは無視できるようになりました。
天竺牡丹
「天竺牡丹」ダリアの別名です。松平定朝が著した『百花培養考』によると、今から170年余り前、天保12年(1841年)にオランダ船が運んで来た当時の呼び名です。江戸時代には日本に来ていたのですね。百花の王牡丹の名前を付けるぐらいに、当時の上流階級の人々に愛され栽培されました。
その後明治・大正・昭和と一般家庭にも広まって行きましたが、様々な品種が伝わったのは明治中期以降です。明治42年(1909年)に東京は赤坂で第一回品評会が開かれ、モダンな花として歓迎されました。
1960年代日本が高度成長期に入り、住宅事情が厳しくなってきました。都会では広い庭は少なくなり、またその頃世界中から目新しい花々が紹介され、ダリアは次第に忘れられて行きました。
そんな中でも熱心な愛好家によって栽培は続けられ、新しい品種も開発されました。そしてここへ来て存在感のある大輪種の豪華さや、花型の豊富さが見直され始めたのです。
ふるさとはアメリカ大陸
ダリアの原産地は中米メキシコやグアテマラの高原地帯で、日本人に愛されるコスモスと同じ故郷を持ちます。
ヨーロッパ人が始めてダリアに接したのは、1521年エルナン・コルテスに率いられたスペイン軍がアステカ帝国を征服した時と考えられます。
アステカ帝国ではダリアは神聖な花とされ、住民の家々で大切に育てられました。花茎が空洞なので“アコクトリ(Acoctoli)水笛”と呼ばれていました。
最初にヨーロッパに紹介されたのは、1651年刊行の『新スペイン動植鉱物誌』によってですが、実物の花がヨーロッパに渡ったのは、それから138年も経ってから1789年のことでした。
ダリア ヨーロッパへ渡る
当時メキシコシティ植物園長だったセルバンテスが、本国スペインのマドリード王立植物園長のカバニレスに、ダリアの種を送りました。彼は翌年開いた美しい花を、スウェーデンの植物学者であったアンドレアス・ダール(Andreas Dahl)にちなんで、ダーリア(Dahlia)と名付けました。今日の学名ダーリア・ピナータ(Dahlia pinnata)としても、残っています。
その後ダリアはヨーロッパ各地に広まり、品種改良されて行きます。
ナポレオン一世の皇后ジョセフィーヌはたいそうダリアを愛しました。みずからマルメゾン宮殿の庭にダリアを植え、大臣や皇族・貴族を招き花の披露パーティーを開きましたが、どんなにねだられても、花や種・球根の持ち出しは決して許しませんでした。
自慢されるばかりが面白くないのは当然で、ある貴族が宮殿の庭師に金を握らせ球根を盗み出させました。そして各々自宅の庭で美しいダリアを咲かせ始めます。面白くないジョセフィーヌ、庭師を追い出し貴族は宮廷から追放しました。そしてダリアへの関心もパッタリ失くしてしまいました。
日本のダリア
ダリアの球根は近年花壇などで年間400万球利用されています。主な産地は兵庫県と奈良県で昭和初期から栽培が始まりました。
特に兵庫県宝塚市上佐曽利(かみさそり)地区は全国トップクラスの生産量を誇り、昭和10年には花の栽培者で構成された園芸組合が結成され、関西の花卉園芸の先駆けとなりました。
市街地に比べ2~4度気温が低く、冷涼な気候がダリアの栽培に適しているのです。
昭和45年(1970年)ごろの最盛期には年間300万球が生産され、その多くがアメリカやカナダなど海外へ輸出されました。現在は年間80万球と生産数は減っていますが、それでも全国の4分の1の出荷量を誇っています。
太平洋戦争中には製薬会社が、球根に含まれる“イヌリン”と言う物質に興奮作用があると発表したため、兵士特に特攻隊員の士気を高めるために利用しようと、軍部から栽培命令を受けた歴史があります。
この利用法はいただけませんし、お蔭と言うとおかしいのですが、戦時中も食糧増産で芋を作れなどと強制されることも無く花の栽培が続けられ、戦後の素早い立ち直りにつながりました。
現在ではイヌリンは炭水化物の一種で水溶性食物繊維を多く含み、砂糖や他の炭水化物と比較して3分の1から4分の1程度のエネルギーしかないため、健康食品として扱われています。
ダリア様々
数年前からテレビでも紹介される“ノッポのダリア”は、皇帝ダリア(ダリア・インペリアリスDahlia imperialis)と言います。ダリアの原種の一つで草丈は4mにもなり、まさしく木です。別名「木立ダリア」とも言います。
茎が木質化するダリアは3種が知られておりツリーダリアと呼ばれますが、その中でも皇帝ダリアは特に草丈が高く茎が太くなります。花はピンクの一重咲きが普通ですが、原産地では白や八重咲きも見られます。
開花は11月中旬以降になるので、霜が早く降りる地域では花を見る前に枯れてしまう事があります。
一輪で充分な存在感を発揮するデコラティブ咲きの「浅間高原」や「クリープコウワー」、昔から馴染の有る小花のポンポンダリアが群がって咲く「ネリーザ」や「サルサ」、フリルのようなチリチリした花びらが珍しい、「桜前線」や「乱れ髪」。
他にも魅力的な花がいっぱいのダリアを今一度見直してみませんか。
この記事へのコメントはありません。