焼酎伝来
日本に初めて焼酎が伝来された経路には4つの説があります。
インドシナ半島→琉球(最有力説)
15世紀中ごろ琉球ではシャム(現在のタイ)からラオロンという蒸留酒を輸入しており、その製法が伝わって琉球王朝の宮廷酒となった説
中国→朝鮮半島→津島
15世紀に朝鮮で造られた蒸留酒(高麗酒)が対馬にもたらされたという記録があり、蒸留酒の飲用と共に製造が始まったという説
中国南部→東シナ海→日本本土
14~15世紀ごろ、倭寇(わこう)と称する武装商船団(海賊)が東シナ海に進出し、海上取引の一つとして蒸留酒を日本に運んだという説
中国雲南省→福建→琉球
15世紀の雲南の蒸留機が日本の古式蒸留機(カブト式)や薩摩特有の古式蒸留機(ツブロ式)と酷似しており、製造もバラ麹の泡盛と酷似しているためこの経路で伝来されたという説
日本における蒸留酒造りの始まり
沖縄で泡盛造りが誕生
朝鮮の李朝実録によると、1477年ごろに琉球に蒸留酒があったと記されており、その頃に泡盛が誕生したと考えられています。
泡盛の歴史
1420年ごろに始まったシャム(現在のタイ)との交易により南蛮甕入りのラオロン(南蛮酒)が琉球に伝わり、琉球王家は接待用に取り入れたと言われています。
15世紀後半になるとシャムとの交易が減少したために1470年ごろから琉球で独自に造り始めていた蒸留酒の本格的製造がはじまりました。
常夏の琉球では腐敗を防ぐために清酒造りの技法で使われる黄麹菌は使われず、クエン酸の生成力の強い黒麹菌を使用しました。
泡盛の名前の由来は様々ありますが、アルコール度数が高いため注ぐと泡立つためとか、製造原料にかつて粟をしようしたためとか、梵語で酒のことを「アワムリ」と呼んでいたのが変化したためなどがつたえられています。
泡盛古酒
泡盛で満たした南蛮甕(なんばんがめ)を一定期間に一本ずつ貯蔵し、古いものから親酒、二番手、三番手と呼びます。
年数が経った親酒は慶事などで飲用したり、蒸発などで減った分を親酒には二番手を、二番手には三番手と順次新しいものを古いものに補充します。この方法を仕次ぎ(しつぎ)といいます。古くなるとアルコール分が減って腐敗する場合もあるので仕次ぎは品質保持の上で重要な作業です。
このようにして3年以上寝かされたものを古酒(クース)と称して珍重されています。一般的には10年程度までは貯蔵機関が長いほど、こくや独特の香気が出て美味しくなるのですが、仕次ぎを行い長期間品質を劣化させることなく熟成を行われたために、かつて琉球王朝時代に仕込みがされた200年物や300年物が存在したと言われていました。が、残念なことに沖縄戦によりほとんどが失われました。現存する一番古い古酒は首里の識名酒造に貯蔵された150年物です。
慶事の際に仕次ぎされ、新しい甕をまた保存する伝統を100年後の子孫に平和を伝えるべくして残そうと「百年古酒」という運動も行われています。
本州における蒸留酒造りの始まり
1546年、薩摩に上陸したジョルジェ・アルバレスがフランシスコ・ザビエルに書き送った「日本の諸事に関する報告」に「米から造るオラーカ(oraqua)」
という記述があります。Oraquaはアラビア語の「araq(蒸散)」がルーツで蒸留酒を意味し、1546年に米焼酎が飲まれていた記録となります。おそらくその50年ほど前の16世紀初頭には米焼酎は存在していたのだろうと思われています。
現在の鹿児島の焼酎は芋焼酎が主流ですが、最初は米・稗・粟・キビなどを原料にして作られていました。1705年に薩摩藩の前田利右衛門が沖縄からサツマイモを持ち帰ったことにより芋焼酎造りが始まったとされています。当時高価だった米に比べ痩せたシラス台地でも栽培に適したサツマイモは生産が容易だったため、積極的に栽培され焼酎造りに利用されました。
1559年に鹿児島県の郡山八幡神社の補修に従事した大工の二人が
「一度も焼酎を飲ませてくれないケチな施主」
と神社正面のしめ縄をくくりつける木華と呼ばれる部分の内側に、日付と署名入りで落書きされたものが400年以上経った現在に発見されたことは、焼酎通の間では話題になりました。
この落書きこそが日本国内の焼酎に関する最も古い記録と言えます。
焼酎の種類
焼酎の区分
焼酎にはたくさんの種類がありますが大きく分けて、乙類と甲類の2種類に分けられます。
焼酎乙類
焼酎は当初、単式蒸留器を用いて造られました。コストと手間はかかりますが、原料の特徴や香りを生かして造られます。以下に焼酎乙類の色々な焼酎を紹介します。
1 芋焼酎
さつまいもと米麹、またはさつまいも麹から造られます。さつまいも自体の香りや甘みが強く、甘い舌ざわりが特徴です。
第一次焼酎ブームの頃は「臭い」「くどい」とされて嫌煙された芋焼酎ですが、その甘みが愛され2009酒造年度では麦焼酎の出荷量を上回りました。
2 麦焼酎
大麦と大麦麹、または米麹で造られます。長崎県壱岐が麦焼酎の元祖です。麦焼酎は、同じ麦を原料とするウイスキーに近い味わいがあります。
最近30年ぐらいは大分の「二階堂」「いいちこ」のブームで麦焼酎と言えば大分の名産とされています。大分では減圧蒸留・イオン交換樹脂という手法で造られ、すっきりとした飲み口が特徴です。壱岐では伝統的な製法の常圧蒸留を守る7軒の蔵が残り個性を競っています。壱岐焼酎の代表商品は「壱岐の島」「無一文」です。
3 米焼酎
精米した米と米麹から造られます。主な生産地は熊本県人吉市を中心とする球磨盆地です。
最近では清酒製造の閑散期に米焼酎を蒸留する清酒蔵も増えてきており全国各地で造られています。香りや味わいは、吟醸酒に近く焼酎初心者でも飲みやすい焼酎と言えます。
主な銘柄は、高橋酒造「白岳しろ」や繊月酒造「繊月」です。
4 黒糖焼酎
黒糖と主に米麹で仕込まれる焼酎です。黒糖を利用した酒類は通常リキュールとして分類されますが、奄美諸島で生産され、麹を使用して仕込んだもののみ焼酎として分類され酒税区分も焼酎と同率となります。
黒糖独特の香りと甘い味わいが女性に人気の焼酎です。
5 そば焼酎
1973年に雲海酒造で開発されました。長野や北海道などのそばどころを中心に全国で造られています。ほのかなそばの香りと蕎麦独特の甘さを感じる焼酎です。ロックで飲むのに向いていますが、そばの産地などではそばのゆで汁で割って飲むのも好まれています。
6 栗焼酎
1975年に宮崎県延岡市の佐藤焼酎製造場が地場産の栗を使って開発した「三代の松」が発祥です。1982年に兵庫県丹波市の西山酒造場も丹波栗を用いた栗焼酎を販売。1985年高知県高岡郡四万十町の無手無冠の北幡栗を使った「ダバダ火振」を販売しました。
7 粕取り焼酎
日本で多く販売されている焼酎はもろみを作りそこからアルコール分を蒸留する「もろみ取り焼酎」です。
それとはことなり清酒の搾り粕を使用して作る「粕取り焼酎」と呼ばれる焼酎もあります。九州北部では古くから田植え後の早苗饗(さなぶり)のお祭りで愛飲されてきたため、「早苗饗焼酎」という別名もあります。
・正調粕取り焼酎・・・清酒の搾り粕にもみ殻を混ぜて熱風を送りアルコール分を抽出します。もみ殻の焦げたにおいが個性的な癖のある焼酎となります。
・吟醸粕取り焼酎・・・吟醸酒を造る清酒蔵が清酒粕をもとにもろみを造り、もみ殻を混ぜることなく蒸留して作る日本酒と間違えるほどの香り高い焼酎です。
8 その他の焼酎
清酒をそのまま蒸留した清酒取り焼酎、じゃがいもを原料にしたじゃがいも焼酎、牛乳を原料とした牛乳焼酎など新しい焼酎が販売されています。
また単式蒸留焼酎でありませんが、焼酎甲類乙類混和に分類されるしそ焼酎の「鍛高譚」も有名です。
焼酎甲類
1895年イギリスから輸入された連続式蒸留器により高純度アルコールを安価に生産できるようになり、この新式焼酎を焼酎甲類と分類しました。無味無臭の焼酎です。
スーパーなどで手に入りやすい、大五郎、鏡月、ジンロなどがこれにあたります。
本格焼酎
1949年に酒税法で焼酎甲類、乙類の区分がされますが、これが焼酎の優劣をつける区分と誤解されやすいと当時の霧島酒造社長の江夏順吉によって本格焼酎という呼び名が提唱されます。その後法改正と2002年の一部法改正により本格焼酎の条件が決められました。
焼酎の飲み方
ストレート
水などで割らず、氷も入れずに常温のまま焼酎の特徴をそのまま味わう飲み方です。冷蔵庫で冷やしてとろみを楽しむのもおすすめです。
ロック
できるだけ大きな氷を使用して徐々に氷が解けて焼酎の味わいが変化することを楽しみます。
水割り
ストレートやロックに比べソフトで爽やかな味わいになります。焼酎対水の割合は一般的には6:4や5:5や4:6が基本です。硬水の方が合うという人も多いのでミネラルウオーターなど好みのものを選びましょう。
お湯割り
水割りに比べて焼酎の原料の香りをしっかりと楽しむことができます。
器に沸騰直前のお湯を先に入れ、ゆっくりと焼酎をその上から注ぐことで香りを壊すことなく引き出すことができます。
燗
あらかじめ割り水をしておいた焼酎を40度程度に湯煎して飲む方法で、芋焼酎などは一般的な飲み方です。焼酎の甘みを引き立たせる飲み方です。
焼酎のカクテル
ロックや水割りでは癖が強くて飲みにくいと思われる方に、最後に焼酎をつかったカクテルを紹介します。材料の配合比率で混ぜるだけなので簡単です。ぜひお試しください。
焼酎コーク
芋焼酎を使うとまろやかで洋酒を使ったような風味です
材料 : 焼酎 2/5 コーラ3/5 カットライム
ジンジャーエール焼酎
モスコミュール風のカクテルです
材料 : 焼酎1/3 ウイルキンソンジンジャーエール2/3 カットライム
焼酎ドック
ソルティドックの焼酎版です
材料 : 焼酎2/5 グレープフルーツ2/3
モヒート焼酎
ガムシロップが入った少し甘めのカクテルです
材料 : 焼酎40ml ガムシロップ10ml ライムジュース5ml ソーダ水120ml ミントの葉 数枚
###コーヒー焼酎
コーヒーの苦みと焼酎の香りで甘くない大人のカクテルです
材料 : 焼酎2/5 コーヒー3/5
##柚子茶焼酎
和風な柚子の甘いカクテルです、氷を入れてもほっとカクテルでも楽しめます
材料 : 柚子茶1/3 焼酎2/3
最後に
焼酎については漠然としたイメージしかありませんでしたが、こうして調べてみると思っていたより深い歴史と、様々な種類、飲み方などがあることがわかりました。
今後、より味わい深く楽しめそうです。
関連記事:
日本酒と日本神話について調べてみた【ヤマタノオロチを酔わせた八塩折の酒とは?】
【聖人】身体が世界中に散らばっていたフランシスコ・ザビエル
この記事へのコメントはありません。