毎年、冬になると信州のニュースを騒がせる「御神渡り(おみわたり)」。諏訪湖(すわこ。長野県諏訪市など)が全面結氷し、それが昼間に一部とけてから夜に再度凍ることで氷がせり上がる現象を言います。
広大な諏訪湖が全面結氷するほどですから、冬が寒くなければ見られないのですが、令和3年(2021年)は3年ぶりの御神渡りが拝めるのでしょうか。ニュースを見る限りかなり厳しい状況のようですが、是非とも出現して欲しいところです。
ところで、どうしてこの現象を「御神渡り」と呼ぶのかと言いますと、諏訪湖を南北にはさんで鎮座する諏訪大社(すわたいしゃ)の上社(かみしゃ。本宮・前宮)と下社(しもしゃ。春宮・秋宮)に由来します。
上社に祀られている建御名方神(たけみなかたのかみ)が、下社に祀られている妃・八坂刀売神(やさかとめのかみ)に会うために諏訪湖を渡った足跡だと言うのです。ロマンチックですね。
なるほど、諏訪湖を神様が御渡りになられるから「御神渡り」……実に神秘的ですが、諏訪大社には他にも不思議な現象が伝わっており、これらは「諏訪の七不思議(諏訪大社七不思議)」と呼ばれます。いったい、どんな現象なのでしょうか。
諏訪にまつわる11の不思議
諏訪の七不思議と言っても、厳密には上社と下社でそれぞれ異なり、重複するものを統合すると、11の不思議が存在します。
【上社の七不思議】
一、御神渡り
一、元旦の蛙狩(がんたんのかわずがり)
一、高野の耳裂鹿(こうやのみみさけじか)
一、葛井の清池(くずいのせいち)
一、宝殿の天滴(ほうでんのてんてき)
一、御作田の早稲(みさくだのわせ)
一、穂屋野の三光(ほやののさんこう)【下社の七不思議】
一、根入杉(ねいりすぎ)
一、湯口の清濁(ゆぐちのせいだく)
一、五穀の筒粥(ごこくのつつがゆ)
一、砥川の浮島(とがわのうきしま)
一、御神渡り(上社と重複)
一、御作田の早稲(上社と重複)
一、穂屋野の三光(上社と重複)
元旦の蛙狩(上社)
毎年の元旦(1月1日の朝)に御手洗(みたらし)川で赤蛙を捕って生贄とする蛙狩神事において、どんな年でも赤蛙が必ず2~3匹は捕れたそうです。
高野の耳裂鹿(上社)
御頭祭(おんとうさい)において、75頭の鹿を狩って神前に供えますが、その中に必ず1頭は耳の裂けた鹿がいたと言われています。
葛井の清池(上社)
大晦日、この池に上社で用いた幣帛(へいはく。供え物)を沈めると、翌朝(元旦)に遠江国(現:静岡県西部)の佐奈岐(さなぎ)池から浮かび上がったそうですが、その佐奈岐池がどこなのかは残念ながら不明のようです。
宝殿の天滴(上社)
どんなに日照り続きでも、宝物殿の屋根から1日3粒の水滴がしたたり落ち、これを青竹に入れて雨乞いをすれば、必ず雨が降ったと伝えられます。
御作田の早稲(上社・下社共通)
その田んぼ(御作田)で6月30日に田植えをすると、7月下旬には収穫できてしまったと言われています(通常は5月ごろに田植え、9月ごろに収穫)。
穂屋野の三光(上社・下社共通)
御射山御狩祭(みさやまみかりさい)の当日は、太陽と月と星が同時に見えると言われていますが、もし機会があったら確かめてみたいですね。
根入杉(下社)
秋宮の境内にある大杉は、丑三刻(うしみつどき。午前2:00~2:30ごろ)になると枝を下ろして高いびきで眠ったと言われます。確かめるのはちょっと怖いですね。
湯口の清濁(下社)
八坂刀売神が化粧水(湯)を含ませた綿(湯玉)を置いたところ、そこから温泉が湧き出したそうで、それが現在の下諏訪温泉との事です。ちなみに、この温泉に邪悪な心を持って浸かると、湯口が濁ったと言います。
五穀の筒粥(下社)
小豆粥を煮込んでその中に細い筒(竹や葦など)を入れ、中に入り込んだ米粒の数で1年の吉凶を占うと、必ず当たるそうです。
砥川の浮島(下社)
この川はたびたび氾濫しましたが、どんなに川が荒れてもこの島だけはなくならなかったため、きっと浮いているからに違いないとそう呼ばれるようになりました。
以上紹介して来ましたが、これらの中から特に
一、御神渡り(共通)
一、元旦の蛙狩(上社)
一、高野の耳裂鹿(上社)
一、葛井の清池(上社)
一、宝殿の天滴(上社)
一、御作田の早稲(共通)
一、五穀の筒粥(下社)
が代表的な「諏訪の七不思議」として知られています。
終わりに
以上、御神渡りをはじめ諏訪大社を中心とした「諏訪の七不思議」について紹介してきましたが、最後に
「建御名方神が八坂刀売神に会いに行くというのは分かったけど、そもそも何で一緒に暮らしていないのだろう?」
という疑問について、地元のこんな伝承を紹介します。
……と言っても大した話ではなく、二柱(柱は神様を数える単位)はただ夫婦喧嘩をして、絶賛別居中?なのだとも言われています(※諸説あり)。
もしかしたら、建御名方神が足しげく八坂刀売神の元を訪ねるのは「まだ怒っているのか?この通りだから、もう機嫌を直しておくれ……」と謝りに行っているのかも知れません。
かつて「甲斐の虎」と天下に恐れられた戦国大名・武田信玄(たけだ しんげん)をはじめ、古来多くの武人たちに崇敬された日本最高クラスの軍神も、奥さんには敵わない……そんな情景を思い浮かべると、何だか微笑ましく思えますね。
※参考:
皆神山すさ『諏訪神社 七つの謎 古代史の扉を開く』彩流社、2015年8月
戸矢学『諏訪の神 封印された縄文の血祭り』河出書房新社、2014年12月
信濃國一之宮 諏訪大社(公式サイト)
信州諏訪 御柱祭
諏訪市博物館
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