キラキラネームとは、一般的に名前に独自の当て字を付けた個性的な名前、または人名にはあまり見られない名付けのことなどをいう。
命名について
名前に関しては、そもそも民法には命名行為に規定は無く、また戸籍法では「常用平易な文字」を用いなければならないとされている。
そのため命名の際には、ひらがな、カタカナ、漢字については常用漢字表と人名用漢字表に記載されている漢字であれば、自由に組み合わせることが可能となっている。
そして名前の読み方だが、戸籍の名の欄には漢字の読み方が記載されず、出生届に「よみかた」があるだけで、自由に読み方が決められる。法律的には問題無いため、難解な読み方で個性的な名前を付けることが出来るのだ。
いわゆるキラキラネームである。
どのような読み方がキラキラネームにあたるかは、個人の感覚によって大きく異なるため確かな定義は無い。
そして一般的な常識も変化していくため、今は珍しい名前でも時間が経つにつれ当たり前になる名前もある。また親が外国人や帰化した人の場合では、あまり馴染みのない名前も多くあり、これらはキラキラネームとは言われない。
昨今のキラキラネームの背景
変わった名前は1980年代頃から話題に上がるようになってきた。国際社会でも通用するようにと、外国人にも発音しやすい音を重視した名前が流行したのである。
1990年代半ば頃には、現在でも有名なマタニティー雑誌が創刊された。その頃は少子化という影響もあり、子供に個性的な名前を付けようとする風潮が高まり、雑誌で個性的な名前が紹介されると大きな注目を集めた。
他にもテレビや有名人、アニメの影響、さらにインターネットで簡単に名前や漢字が検索できるようになると、あまり人名には使われない単語や独自の読み方をする名前が多く現れ始めた。
これらはDQNネーム(ドキュンネーム)と呼ばれた。
DQNとはインターネット用語で非常識や不良を意味する。2000年代前半〜2010年頃まではこのDQNネームが見られたが、マイナスなイメージが強いため、代わりにポジティブな意味合いが強いキラキラネームが誕生した。
インターネットの姓名判断サイトでは、苗字を入れるとそれに合った名前が多く候補にあがるが、その中にもキラキラネームが入っていた。
しかし、2010年代後半からはキラキラネームのブームも衰退してきている。
万葉仮名とキラキラネーム
キラキラネームは、元をたどると日本語の成り立ちと関係があるようだ。
弥生〜古墳時代に中国から漢字が伝わった時、当時の日本人は自分達の発音と漢字の発音を突き合わせて「万葉仮名」を生み出した。
これは波奈(はな=花)、比登(ひと=人)のような漢字の意味ではなく音だけを合わせた、いわば当て字のようなものである。これは後のキラキラネームの発想の元祖といえる。
平安時代に清少納言が執筆した「枕草子」には、漢字で書くと大袈裟(仰々しい)なものリストが書かれており、蜘蛛や胡桃など現代でも使われているものや、覆盆子(いちご)のように使われなくなったものもある。
キラキラネームの批判は実は昔からあり、鎌倉時代では兼好法師が「徒然草」の中で「いたずらに珍しい名前を付けることは、教養の無い浅知恵の証」と記している。江戸時代でも難読な漢字での名付けが流行したが、国学者の本居宣長は「玉勝間」の中で「最近非常に読みづらい名前を多く見かける、名前は読みやすい字の方が良い」と嘆いている。
意外なのは「和子(かずこ)」という名前である。「和」の訓読みは「なご(む)」「やわ(らぐ)」であるため、「かず」は人名だけで使用される読み方なのである。このような人名においての読み方を「名乗り」という。
名乗りを使った名前は今は馴染みが薄くても、将来は世間に浸透し、当たり前のものになっている可能性が高い。
変わった名前を命名した歴史人物
・織田信長
織田信長の子供達の幼名は、ユニークな名前揃いである。
例えば長男・信忠の幼名は「奇妙丸」、八男・信吉は「酌」、九男・信貞は「人」であった。
当時は子供が生まれても早逝することが多かった。そしてその原因は「悪霊がさらっていく」「神が子を冥界へ召し返す」などと考えられていた。
そのため、あえて変わった名前や周りから敬遠されるような名前を付けることにより、自分の子には価値が無いとして、あちらの世界へ連れて行かせないようにするための信長の親心だったのかも知れない。
・森鴎外
森鴎外は、自身の長男に「於菟(おと)」と名付けた。
鴎外はドイツへ留学していたが、自身の本名である「林太郎」が、外国人が発音するには難しかったという。そのため子供達には海外でも通用する名前にしようと、「於菟=Otto(オットー)」と名付けたのである。
また子供が寅年だったので、中国古書「左伝」から虎を意味する語の「於菟」をあてたといわれる。
他の子供達も、長女の茉莉「まり=Marry(マリー)」、次女の杏奴「あんぬ=Anne(アンヌ)」のように海外の名前に通づるように名付けた。
話題になった名前騒動
・悪魔(あくま)
悪魔ちゃん命名騒動とは、1993年に東京都で生まれた男児に、親が「悪魔」と名付けて市役所に届出た騒動である。
この命名理由は、「1度聞いたら決して忘れない名前で人から注目され刺激を受ける、これをバネに向上が図られる」というものであった。
悪魔という字も常用漢字であったため、市役所は1度は受理したが法務局が許可しなかった。父親がこれを裁判にかけたことで大きなニュースとなったのである。
裁判所は、1度は受理された名前のため戸籍を復活させる判断をした。しかし悪魔という命名は命名権の濫用に当たり、戸籍法に違反するという判断もしている。
最終的には父親が別の名前を命名したことで、この騒動は終了した。
・王子様(おうじさま)
「王子様」と名付けられた男性は、母親が命名し、誰にも相談せずに役所に届出たものであった。
命名理由は「唯一無二の存在。私にとっての王子様」という意味が込められていた。
男性は成長するにつれて苦労や恥ずかしさを感じる事が増え、名前の確認が必要な場で本名かどうか疑われたり、笑われたり、地元では顔写真が出回ったりしたという。
2019年、男性は18歳で改名を申請し、大学進学と共に無事に申請が認められて改名をした。改名は15歳以上で正当な理由があれば自身で申請が出来る。
男性は申請の理由として「この名前が原因でみじめな思いをした経験があり、今後このようなことが起きないために改名したい」と述べている。
今後のキラキラネームの行方
2021年9月、全国民の戸籍に氏名の読み仮名を登録するため、戸籍法などの改正を検討することが発表された。行政デジタル化の一環として読み仮名登録を行い、個人データの管理をしやすくするためである。
難解な読み方をするキラキラネームをどこまで容認するかが問題となった。その容認範囲には3つの案があり、
1 公序良俗に反しない限り認める案
2 氏名に使う漢字が慣用で読めるか、また漢字の意味と関連があれば認める案
3 漢字との関連に加えて、すでに他方で使用している読み仮名は認める案
などがある。
個人の感覚で大きく違うキラキラネームに基準を決めるということで意見が分かれるが、2023年の通常国会で改正案を提出する方針としている。
様々な名前が存在する中で、キラキラネームは今後どう変わっていくのだろうか。
参考文献 : キラキラネームの大研究(新潮新書)
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