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人はなぜ、必ず死ぬのに怖がるのか?
私たち人間には、老若男女問わず平等に決まっていることが、ひとつだけある。
誰もがいつか必ず「死ぬ」ということだ。
にも関わらず、私たち人間の多くは自分や親しい人の死を怖れ、なるべくなら考えたくない関わりたくないと思いがちだ。
最近は「終活」の考え方や活動が普及し、自分が死んだ後に遺される人たちのことを考えて断捨離をしたりエンディングノートを書いたり、公的な手続きをとって遺言を残したりする人も増えつつある。
それでも、「終活」を積極的にしているのは高齢者や不治の病にかかった人、社会的地位があり遺産相続について具体的に考えなければならない人など、死を身近に感じている人であり、40代50代くらいまでの若い年齢層で終活に積極的な人はあまり見かけない。
なぜ私たちは、いずれ必ず死ぬとわかっているのに、死を遠ざけようとしてしまうのだろうか。
それはおそらく、死をリアルに考えることで「死にゆく過程の体験」を実感するのが怖かったり、死んだ後にどうなるのか分からないからではないだろうか。
死の直前の心の変化を研究した精神科医、エリザベス・キューブラー・ロス博士
「死の間際における複雑な変化を体験している患者たちの心は、もっと尊重されるべきだ」
死に瀕する人々の心のケアの必要性に気づいたアメリカの精神科医であり医学博士のエリザベス・キューブラー・ロス博士は、1960年代に病気で余命宣告された200人の患者たちにインタビューを行い、「死のプロセス」についての臨床研究を始めた。
終末期の患者たちに「私たちの教師になってほしい」と頼み、死の直前のプロセスについて、主に感情面でどのような体験をするのか、理解しようと試みたのである。
エリザベス博士は、終末期患者へのインタビューと研究を通して、自分に死が近づいていることを知った場合、大きくわけて5つの段階を通過することが多いという共通点に気づく。
死ぬ直前に体験する5段階の感情
すべての患者がすべてを体験するわけではないが、多くの場合、病気で余命宣告を受けると、5つの段階を行ったり来たりしながら体験するのだという。
それは、「否認」「怒り」「取引」「抑うつ」「受容」。
これらの感情や心の変化を体験しながら、死について、自分自身について、人生について、人間関係について深く考えてゆくのだという。
「否認」
余命宣告を受けることでショックを受け、「まさか、自分が死ぬなんてあり得ない」と現実を拒絶する。
マインドで理解しても感情が追いつかないため、混乱したり、家族や看病人、医療関係者と対立し孤立することもある。
「怒り」
死が現実に迫っていることが腑に落ちると、怒りが湧いてくる。
「どうして自分がこんな目に遭わなければならないのか」と、他者に怒りが向くことが多い。
「自分が何か悪いことをしたから、こんなことになったのだ」と過去の行いや生活習慣を振り返って悔やんだり、自分を責めたりする。
元気に生きている人への羨望やイラだちも感じ、八つ当たりすることもある。
怒りのエネルギーが強いので、周囲の人間との軋轢が生じる。
「取引」
自分の悪いところを改めることで、生き延びようとする意欲が湧く。
「自分の過ちを全力で認め、生きるためならなんでもするので、どうにか命だけは助けてほしい」と医師や神や仏などに奇跡を願い、取引をする。
感情の対象が人間から、神や仏、運命や宿命など、目に見えないものに変化し、すがろうとする。
それまで無宗教の人生を送っていた人でも、突然、信仰心が芽生えることがある。
「抑うつ」
死は避けられないことを理解して生きる気力を失い、憂鬱な気分に陥る。
自分の無力さに絶望して何もできなくなる。
神や仏など絶対的なものに対する信仰を失うこともある。
人生や親しい人との別れへの喪失感や悲しみに暮れるケースもある。
「受容」
自分の人生が終わりつつあることを受け入れ、静かに見つめる。
肉体が失われることは自然なことだという境地になる。
大部分では自分の死を受け入れつつも、一縷の望みや後悔が残っているケースもある。
自分なりの死生観がうまれ、周囲や世間への関心が薄れる。
最終的には完全に死を受け入れ、感情が乏しくなり、現実的に肉体の死のプロセスに移る。
患者と周囲の人たちで「微量の希望を分け持つこと」の大切さ
すべての患者が「否認」「怒り」「取引」「抑うつ」「受容」を順番に体験するわけではなく、人によっては段階を飛び越えたり、同時に複数の心の状態を体験したり、いくつかの段階を行ったり来たりしたり、ひとつの段階のまま亡くなる場合もあるという。
あくまでも、余命宣告を受けた終末期患者たちが経験する最大公約数の共通項が、5つの段階に分けられるということのようだ。
若い世代や、未知の世界である「死にゆく過程の体験」が怖い人にとっては、「死の直前にはこのような心のプロセスを踏む可能性がある」ということを知っておくだけでも、少しずつ死に対して向き合おうという気持ちが芽生えたり、得体の知れない怖れが緩和されたりするかもしれない。
さらに、エリザベス博士は著書『死ぬ瞬間-死とその過程について』の中で、
終末期患者と周囲の人たちで
「ともに微量の希望を分け持つことの大切さ」
も説いている。
エリザベス博士の終末期「今はただ現実を直視している」
死を実感することが非日常になっている現代において、エリザベス博士は終末期研究の先駆者として、ホスピスケアに携わる家族や医療従事者たちに大きな貢献と功績を残したと言っても過言ではない。
40年間にわたって「死」に対して真摯に向き合い、死の直前の心の研究を長年続け、脳卒中による約10年間の闘病生活の末に2004年自宅で亡くなったエリザベス・キューブラー・ロス博士。
彼女は終末期の病床で自身がしてきた研究について、
「私が学ぶべきとされていること」
「今はただ現実を直視している」
と語っている。
【参考図書:『死ぬ瞬間-死とその過程について』エリザベス・キューブラー・ロス著】
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