日曜劇場『VIVANT』の第6話が放送されました。
ドラマのラストシーンでは、風力発電事業の入札会場(経済産業省)に、乃木(堺雅人)と黒須(松坂桃李)を含めて、新しい4人の「別班」メンバーが集まりました。そこに櫻井里美(キムラ緑子)が現れ、ある作戦が伝えられるところで第6話は終了しました。
ドラマの中では「別班」メンバーがついに勢揃いしたのですが、そもそも「別班」に入るためにはどんな試験があるのでしょうか。
アメリカのミリタリースクールを「オールA」で卒業した乃木が入るくらいですから、かなり厳しい試験であることが予想されます。
今回の記事では、前回参考にした『自衛隊の闇組織 秘密情報部隊「別班」の正体』を再び頼りながら「別班」に入るための、具体的な試験内容について紹介したいと思います。
著者は共同通信の記者である石井暁氏です。
別班員になるための試験問題
実際に試験を受けた元別班員Aの証言をまとめます。
ある日突然、当時所属していた部隊の上官から指示を受け、陸上自衛隊小平学校の「心理戦防護課程」の入校試験を受けることになった。
面接試験では、教官が「先ほどの休憩時間にトイレに行ったな。そのトイレのタイルの色を言え」と意表を突く出題をしてきた。
軍事や情報に関連する分野の経験があり、見た風景の全体を記憶する訓練を受けたことがあったため、この出題はなんとかクリアすることができた。
また別の教官は、大陸の形だけが描かれた地域別の世界地図を数枚示してくる。そして「X国がある部分を示せ」と質問した。X国は目立たない小国だったため難しかった。「このあたりです」と答えると「X国はこの地図には含まれていない。別の地域だ」と、無茶苦茶な出題もあった。
入校するための適性試験は長時間かけて行われ、複数の教官からありとあらゆることを聞かれ、終了時には心身ともに疲労困憊だった。
厳しすぎる試験に「たとえ合格できても、やっていけるのか。結局のところ、元の配属に帰されてしまうのではないか」と強く不安を感じた。
陸軍中野学校を引き継ぐ
上記で説明した試験内容は、決して自衛隊のオリジナルではありません。
旧日本軍・陸軍中野学校の入校試験にかなり類似している点を、著者である石井氏は指摘しています。
陸軍中野学校とは、まさに「別班」の起源となる組織です。
陸軍中野学校については、前回の記事「【自衛隊の闇組織】 諜報組織「別班」は本当に存在していた ~日曜劇場『VIVANT』」を参照していただけると幸いです。
「トイレのタイルの色」と「エレベーターで感じたこと」、「X国」と「グアム島」。 私が小平学校心理戦防護課程の入校試験についてAに取材したのが2010年6月で、『秘録陸軍中野学校』を読んだのがその約2年後。現代の小平学校と戦時中の中野学校の入校試験の類似性に気付いた瞬間、驚いた私は思わず声を上げてしまった。
そのほかの面接試験としては、試験を受けていると「電気系統の故障はこの部屋か」と電気工事業者がいきなり入室してきます。教官が「違う。別の部屋だ」と答え、業者は退出しました。そのあと教官が「今入ってきた男の眼鏡のフレームは何色だったか」「右手には何を持っていたか」と、質問するテストもあったそうです。
同期は数人から十数人ほど。基本的に入校者は陸上自衛隊員ですが、証言によると海上自衛隊員、航空自衛隊員もごく稀に入ることがあったようです。
教育課程では情報に関する座学のほか、追跡、張り込み、尾行、そして尾行をまく訓練もありました。警察のやり方ではなく、陸軍中野学校を引き継いだもので、両者の方法は全く違うのだそうです。
基礎教育の修了後には「朝鮮総聯の幹部と親しくなり内部情報を取ってくる訓練」「地方の町に突然出張させられ町民にバレないように、その町の権力構造を調査する訓練」などがありました。
もし相手側に知られれば大問題になりかねない、とても危険な訓練です。
教育課程を受けた首席だけが「別班」に
陸上自衛隊小平学校の心理戦防護課程での訓練を修了する直前、同課程を担当する教官に「ある人が君に会いたがっている」と告げられます。
教官から指示された都内の公園へ行くと、見知らぬ男が近づいてきて「君はこれから何がやりたいんだ」といきなり話しかけてきました。
相手の名前を問うと、男は「君はこちらの質問に答えればいい。私に質問することは許されない」と突き放します。
いくつかの質問に答えると、男は何も言わずに立ち去ったそうです。
翌日、教官室に呼び出されます。そして教官から「君は今後、別班に配属されると決定した」と告げられました。
別班員になると、母校の同期会や同窓会への出席は禁止です。外部との接触を完全に断つことを要求されます。 親しい友人と飲みにも行けません。年賀状さえも出してはいけないそうで、近所付き合いもダメだと指導されます。
「別班」在籍時には、陛上自衛官としての身分証明書は受け取っていましたが、上官から「自宅に保管しておけ。絶対に持ち歩いてはいけない」と厳しく指示されます。
しかし、自衛隊情報保全隊や陸上自衛隊中央情報隊、陸上幕僚監部運用支援・情報部(旧調査部)など、情報を扱う部署に在籍している親しい人間には「アイツは別班に入ったようだ」と、バレていたようでした。
外部との接触を完全に断つことによって、むしろ注目が集まるからだそうです。
次の記事では「別班」に入ったあとの具体的な活動内容について、見ていきたいと思います。
参考文献:石井暁(2018)『自衛隊の闇組織 秘密情報部隊「別班」の正体』講談社
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