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【自衛隊の闇組織】 諜報組織「別班」は本当に存在していた ~日曜劇場『VIVANT』

日曜劇場『VIVANT』が面白い

日曜劇場『VIVANT』が話題です。

半沢直樹を彷彿させるスリリングなシーンが連続しつつ、社会的なメッセージを感じさせるワールドワイドなストーリーに、多くの方が魅了されているのではないでしょうか。

来年TBSを定年退職する福澤克雄監督による、集大成とも言える作品になっています。

ドラマは第4話まで放送されており、最新話では堺雅人さん演じる乃木憂助が「別班」であることが判明。物語は衝撃的な展開を迎えています。

ドラマでたびたび話題になる「別班」ですが、ドラマでは自衛隊の特殊部隊という説明がされています。

少し調べてみると「別班」は、実際に存在する諜報組織のようです。

諜報(スパイ)」という言葉を聞くと、アメリカの中央情報局(CIA)やイギリスの秘密情報部(MI6)、イスラエルの諜報特務庁(モサド)など、海外の諜報機関を思い浮かべるかもしれません。しかし日本にも同じような組織が存在し、それが「別班」と呼ばれているようです。

そこで今回の記事では、2018年に発売された書籍『自衛隊の闇組織 秘密情報部隊「別班」の正体』を参考にしながら「別班」について迫っていきたいと思います。

著者である石井暁氏は共同通信の記者になります。

「別班」の歴史的背景

戦後の冷戦時代から「別班」は存在しており、ロシア、中国、韓国、東欧などに拠点を持つ秘密諜報部隊として知られています。「別班」は戦前の陸軍中野学校の後継とされ、戦後の自衛隊内部で極秘裏に活動していると言われています。

諜報組織「別班」は本当に存在していた

画像 : 陸軍中野学校二俣分校 ※俣一戦史

中野学校は日中戦争や太平洋戦争中に、スパイや工作員を育成した日本陸軍の施設でした。

諜報や防諜、宣伝など情報戦に関する教育や訓練を目的とした軍隊学校になり、日本軍のなかで唯一とされる秘密戦要員の養成機関でした 。

中野学校の伝統や技術を「別班」は受け継いでいるとされています。

冷戦時代の国際的な緊張を背景として「別班」は、ソビエト連邦や中国などの共産圏とのあいだで、情報戦を展開していたと言われています。

「別班」の活動は、日本の安全保障や外交政策に重要な影響を与えてきました。さらに「別班」は日米同盟に基づく高度な秘密機関としての役割も持っており、アメリカとの情報共有や協力のもとで、アジア太平洋地域の安定を目指して活動していたとの指摘もあります。

諜報組織「別班」は本当に存在していた

画像:映画『陸軍中野学校(1966)』のワンカット。中野学校は映画のモデルにもなった。 public domain

「別班」の主な活動内容

「別班」は、ロシア、中国、韓国などにダミーの民間会社を設立し、情報収集活動を行っているそうです。人的情報収集(ヒューミント)のために、民間人を「別班員」として送り込む活動も含まれます。

日本国内では、在日朝鮮人を利用して北朝鮮に情報を送らせたり、在日本朝鮮人総聯合会(朝鮮総聯)にも協力者を持ち、工作活動を行っているとの報告もあります。

共同通信の取材によると、陸上幕僚長や情報本部長などの高位の経験者の証言から、現在も別班の活動が確認されています。

最近では朝鮮半島の情勢悪化を受け、北朝鮮に関する情報収集は、日本の安全保障上の重要な課題として位置づけられているようです。

文民統制からの逸脱

「別班」の活動は文民統制を逸脱しているとの指摘もあり、国家の外交や安全保障に影響を及ぼす可能性が考えられます。

文民統制とは、軍隊が国民の代表である政治家によって管理されることを意味します。軍隊が国民の意志に従って行動することを保証するためのものです。

たとえば日本の場合、国会議員は選挙で選ばれ、国会議員のなかから総理大臣が任命されます。

総理大臣は自衛隊のトップであり、自衛隊の活動について最終的な決定権を持っています。このように文民統制は、軍隊が独自の意志で行動することを防ぎ、国民の意志に基づいて行動する仕組みです。

そのため文民統制の逸脱は、軍隊が政府や国民の意向に反して行動するリスクを孕んでいます。間違った行動や決定がなされ、国家の安全保障に重大な危機をもたらす可能性があるのです。

たしかにアメリカのCIA(中央情報局)のように、海外にも人的情報収集を行う諜報機関は存在します。

しかし海外の組織は文民統制、つまり政治的なコントロールがしっかりと機能しています。日本の総理大臣や防衛相が存在すら知らない「別班」は、海外の諜報機関とは明らかに異なります。

日中戦争や太平洋戦争における敗北は、文民統制を失った旧関東軍の暴走によるものです。

張作霖爆殺事件柳条湖事件を独断で行った旧関東軍のように、政治のコントロールを受けず組織の指揮命令系統から外れた「別班」の存在は、国家の外交や安全保障に悪影響を及ぼす可能性があります。

諜報組織「別班」は本当に存在していた

画像:爆発直後の事故現場(張作霖爆殺事件) public domain

帝国陸軍の“遺伝子”を受け継いでいる「別班」は非常に危険な組織である、と著者である石井氏は警告しています。

ドラマで「別班」はどのように描かれる?

あくまでも個人的な意見ですが、昨今における海外情勢の悪化を受けて「別班」のような、諜報組織はこれから重要な役割を果たすと考えられます。

あえてこうしたタイミングで、今まで秘密とされていた「別班」の名前が公になることに、とても大きな社会的メッセージがあるのではないかと感じています。

ドラマ第4話のなかで、別班の存在は明らかになりましたが、詳細はまだ明らかにされていません。今後どのように「別班」が描かれるのか、楽しみにしたいと思います。

参考文献:石井暁(2018)『自衛隊の闇組織 秘密情報部隊「別班」の正体』講談社

 

村上俊樹

村上俊樹

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“進撃”の元教員 大学院のときは、哲学を少し。その後、高校の社会科教員を10年ほど。生徒からのあだ名は“巨人”。身長が高いので。今はライターとして色々と。
フリーランスでライターもしていますので、DMなどいただけると幸いです。
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