コロナ禍以降、在宅勤務などで、パソコンやスマホなどを長時間見続けることによって、体調不良を訴える人が増加しているようだ。
モノがぼやけて見えたり、ドライアイや睡眠不足を訴える人々が増えてきている。
それら体調不良の原因として、「ブルーライト」が注目されており、ご存知の方も多いはずだ。
そのブルーライトをカット、または低減するという眼鏡が増えている中、液晶画面から発せられるブルーライトについての議論が盛んになってきた。
今回の記事では、さまざまな眼科医療分野の専門家らが発表している情報を元に、ブルーライトが我々にどのような影響を与えるのか、ブルーライトカット製品が本当に必要なのかを考察していく。
なお、特に断りがない限り、太陽光などの自然界に含まれるブルーライトではなく、パソコンやスマホなどの電子機器から発せられるブルーライト(青色光)を対象にしている。
目次
ブルーライトとは
ブルーライト(青色光)は、高エネルギー可視光線(HEV light)の一部(波長 380~495nm 前後の青色成分)であり、紫外線の次に波長の短い光で、目の奥まで届く、エネルギーの強い光とされている。
ブルーライトは、太陽光はもちろんのこと、LEDを使用したパソコンやテレビ、スマートフォンなどの液晶画面から出る光に含まれている。
可視光線とは、私たちの目に見える光のことで、太陽光や電球の光は、すべて可視光線だ。つまり私たちが普段見ている光は、すべて可視光線である。
ちなみに、可視光線より波長が短くなっても長くなっても、ヒトの目には見ることができなくなる。可視光線より波長の短いものを紫外線、長いものを赤外線と呼ぶ。
なお、光に含まれるブルーライトの量は、分光放射輝度計やスマートフォンアプリを使用して、光に含まれるブルーライトの量を測定することもできる。ただし、スマートフォンでの測定は、分光放射輝度計ほど正確ではない。
近年は光源として、白色LEDが使用されることが多い。たとえば、各種照明、ディスプレイ(液晶テレビ、スマートフォン、パソコンなど)、インジケーター、イルミネーションなど、非常に広範囲で使用されている。
白色LEDの色温度が高いほど、光の色は白っぽく、ブルーライトの量が多くなる。色温度については後述する。
一般的な白色LEDの光のブルーライトの量は、約20~30%で、太陽光のブルーライトの量とほぼ同じだといわれている。しかし、一方でLEDが発するブルーライトの光の量は、太陽光の100分の1という見解もある。
ブルーライトが人体に与える影響
ブルーライトが人体に与えるといわれている影響は、以下のようなものがある。
ただし、まだ十分に研究されておらず、ブルーライトが原因ではないケースも考えられる。
目の疲れ
ブルーライトは、目の奥まで届きやすく、目の筋肉を緊張させる。そのため、目の疲れやかすみなどの症状を引き起こす可能性があるとされている。
目の網膜へのダメージ(青色光網膜傷害)
ブルーライトは、目の網膜にある色素性視細胞にダメージを与える可能性があり、目の網膜の病気である加齢黄斑変性症のリスクを高めると考えられている。
睡眠の質の低下
ブルーライトはメラトニンの分泌を抑制するため、睡眠の質を下げる可能性が指摘されている。メラトニンというホルモンは、脈拍・体温・血圧などを低下させることで、睡眠に向かわせる作用がある。
また、ブルーライトは、副交感神経を活発化させ、脳を覚醒させる働きがある。そのため、夜間にブルーライトを浴び続けると、体内時計が乱れ、不眠症を引き起こす可能性があるという。
コンピュータの長時間使用による目の疲れの原因
以下の内容は、ブルーライトの影響に関係なく、考えられる体への影響だ。
コンピュータを長時間使用すると、灼熱感、痛み、視力低下などの目の疲れの症状が現れる。
これは、画面に集中しているときに、通常よりも瞬きが少なくなり、目が乾いてしまうためだといわれている。
また、ノートPCの画面を見ることに集中し、顔の近くに焦点を合わせると、目の筋肉が緊張して水晶体を湾曲させ、網膜に光を当てるようになるという。
これらの目の疲れが長期間続くと、近視などの目の病気の原因になる可能性があるといわれている。
ブルーライトカット眼鏡の効果
近年、いわゆる「ブルーライト」を軽減するスクリーンや、レンズを用いた眼鏡・老眼鏡などが多数販売されており、以下のような効果を謳っている。
1. 目の疲れの軽減
2. 睡眠の質の向上
3. ドライアイの予防
4. 眼精疲労の予防
ただし、ブルーライトカット眼鏡の効果や、睡眠の質に影響を与えるかどうかについては、まだ研究途上であり、科学的根拠が十分に確立されているわけではなく、個人差や他の要因が影響している可能性があることが示唆されている。
ブルーライトカット眼鏡の効果への疑問と実験報告
以下は、日本の眼科医療界の複数団体が共同で公開している情報をもとに書き出してみた。
体内時計とブルーライトの関係についてはいくつかの論文があり、夜遅くまでデジタル端末の強い光を浴びると、睡眠障害をきたす恐れが指摘されている。
従って、夕方以降にブルーライトをカットすることに関しては、一定の効果が見込まれる可能性はあるとしている。
しかしながら、以下のような疑問や問題点もあるという。
・デジタル機器の液晶画面から発せられるブルーライトは、曇天や窓越しの自然光よりも少なく、網膜に障害を生じることはないレベルであり、いたずらにブルーライトを恐れる必要はないと報告されている。
・小児にとって太陽光は、心身の発育に好影響を与えるものであり、十分な太陽光を浴びない場合、小児の近視進行のリスクが高まる。ブルーライトカット眼鏡の装用は、ブルーライトを長時間見続けること自体よりも有害である可能性が否定できない。
・最新の米国一流科学誌に掲載された(無作為化比較試験)ランダム化比較試験17件では、ブルーライトカット眼鏡には眼精疲労を軽減する効果が全くないと報告されている。
・体内時計を考慮した場合、就寝前ならともかく、日中にブルーライトカット眼鏡をあえて装用する有用性は根拠に欠ける。
・最近のサングラスでは、紫外線だけではなく ブルーライトもカットするものが増えてきている。しかし、ブルーライトが黄斑の構造や機能に及ぼす影響を調査したり、目の疲れの症状の改善を示した研究はない。
また、ごく最近では次のような活動や報告もある。
2021年、日本眼科学会を始めとする団体は、子供に推奨する根拠が無く発達への悪影響を与える恐れがある。液晶画面からのブルーライトは室内や曇り空の屋外よりも少なく、網膜に障害を生じるレベルではないという意見書をまとめた。
2023年、オーストラリアの研究グループは、6カ国で約620人を対象に、ブルーライトカットメガネのランダム化比較試験17件を評価した結果、ブルーライトフィルター機能がついた眼鏡の使用は、非使用者に対して、眼精疲労や視神経炎の発症率に有意のある効果が見いだせないと報告した。
また、通常の視力矯正眼鏡とほとんど同じ効果しかないということが報告された。
長時間PCやスマホを使用する際の注意点など
ここまで、ご紹介してきたように、PCやスマホを長時間使用することによって引き起こされる体調不良の原因は、ブルーライトにあるのかどうか、はっきりしていない。
いずれにしても、目の疲れを予防するためには、以下の点に留意するとよいだろう。
・20分に1回は、20秒以上離れたところを見る。
・画面の明るさを調整する(コントラストを上げすぎない)。
・目薬を使用する。
・目の疲れを感じたら、すぐに休憩をとるようにする。
・定期的に眼科を受診する。
夕方以降は、
・ナイトシフトやナイトモード(夜間モード)に切り替わるようにPCやスマホを設定する。
・画面をダークモードにしてみる(効果は個人差があるようだ)。
・就寝前の1~2時間はPCやスマホを使用しない。
ブルーライトの必要性
産業衛生分野では、日中の仕事は、窓ぎわの明るい環境下で行うことが奨められている。
太陽光などのブルーライトは、注意力、反射神経、精神の安定、睡眠の改善など脳の様々な機能の向上に有効とされているため、朝に浴びることが良いとされている。
小児にブルーライトカット眼鏡の装用を推奨する根拠はなく、むしろブルーライトカット眼鏡装用は発育に悪影響を与えかねない。
さいごに
ブルーライトカット眼鏡の効果については、まだ十分に研究されておらず、専門家の中でも見解が分かれており、懐疑的な見方をしている医療関係者も多くいる。
また、文中でも触れているが、子供にはブルーライトカット眼鏡を装用させないほうが良いと思われる。
こういったことから、健康な成人が、ブルーライト眼鏡の購入を検討する場合は、まず眼科医に相談するのが賢明だろう。
そうでない場合は、ブルーライトカット眼鏡を勧められても、単に眼鏡の値段が高くなるだけなので、断るのが良いのではないだろうか。
ちなみに、筆者は「仕事用」としての眼鏡では、試してみたいと思っている。
参考 : Do blue light-blocking glasses reduce eyestrain? Review suggests no | Live Science
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