第一次世界大戦の発端
1914年6月28日、ボスニアのサライェヴォにおいて、オーストリア=ハンガリー帝国のフランツ・フェルディナント皇太子夫妻が、セルビア国民主義者の青年によって暗殺されます。
この事件が「第一次世界大戦」の発端となりました。
このサライェヴォ事件をきっかけに、オーストリア=ハンガリーはセルビアに宣戦布告。これを受けてロシア、ドイツ、フランス、イギリスなど欧州の主要国が相次いで参戦することになります。
第一次世界大戦は「航空機や潜水艦、毒ガス」など新兵器が登場し、ヨーロッパ全土に戦場が広がる未曾有の被害を生み出した戦争となりました。
産業力を背景に国民全体を戦争に動員する「総力戦」の様相を見せます。戦争が長期化する中で、膨大な人的・物的損害を生み出しました。
この人類初の「総力戦」は、今までのヨーロッパの体制を根底から揺るがすことになるのです。
予想外の長期戦争
第一次世界大戦が始まった当初、多くの人々は戦争が長期化するとは考えていませんでした。
19世紀までの戦争常識からすれば「数ヶ月程度で終結するだろう」と誰もが予想していたのです。ドイツ皇帝ヴィルヘルム2世も「クリスマスまでには戦争は終わる」と兵士を鼓舞していました。
ところが産業力を背景とした、初の「総力戦」となった第一次世界大戦は予想外に長期化し、事態は膠着状態と陥ります。
1914年8月から4年以上に及ぶ、史上例を見ない長期間の戦争に発展したため、当時の人々が期待した予想は大きく裏切られる結果となったのです。
「国王の戦争」と「国民の戦争」
18世紀までの戦争は、王や貴族の利益のために行われる「国王の戦争」が主流でした。戦争の主体は王族や貴族、職業軍人(傭兵)であり、一般の庶民はほとんど戦争に関与していません。
戦争による損害も王族や貴族層に限定されており、庶民の生活に直接的な影響はありませんでした。戦時中の軍需物資も限られた備蓄に依存し、終戦の時期も王族間の合意(妥協)で自然に訪れるのが通例でした。
18世紀までは、一般国民の生活と直結しない「国王の戦争」が主流だったのです。
しかし、フランス革命(1789年)以降、それまでの「国王の戦争」から「国民の戦争」へと変化します。
絶対王政が打倒されて国民自らが戦争を遂行する必要が生じたため、国民皆兵制が敷かれ、一般市民が武器を取って戦うようになります。
国民の生活や権利を守るための戦争と位置づけられ、産業力を背景に国民生活全体を戦争へ動員する「総力戦」の様相を呈するようになりました。
民主主義に有利な総力戦
長期戦を戦い抜くために、総力戦では強大な経済力が最も重要となります。大量の兵器を持続的に生産する産業力を背景としなければならないため、国民の協力が不可欠です。
そのため総力戦では、国民の権利を尊重する民主主義が戦争を進める上で、とても有利な国家体制となります。
「国民の戦争」は「国民の生活、財産、家族」などを護るための戦争であるとともに、民主主義や正義といった理念をかけた戦争でもありました。そのため戦争に負ければ、国民の生活基盤や権利、大切な理念までもが奪われることになります。
妥協をしたら正義は貫徹されなかったと判断され、敵に従属する形になってしまうため、最後まで戦い抜かなければ国民の支持を失うことになります。
国民の最も重要なものを賭けた戦争に発展した結果、戦争の落とし所が見つからず、どちらかが降伏するまで続けざるを得ないのです。
一方の専制的な君主制では、国民の権利が制限されて自由が保障されていないため、国民の戦意や士気を自発的に高めることが困難になります。君主の命令で強制的に戦争に動員することが多く、国民のモチベーションを引き出すことが難しいためです。
君主制では国民を戦争に向けて動員することが難しいため、総力戦という戦争形態においては、国民の動機付けにおいて不利な状況に置かれているのです。
このように総力戦は経済力の裏付けと国民感情の動員において、民主主義の方が有利に働くのです。
20世紀初頭、君主制の国家(ロシア帝国やドイツ帝国、オスマン帝国など)が相次いで崩壊したのは、上記のような理由になります。
20世紀の戦争を見抜いたチャーチル
民主主義が人類全体を巻き込む「総力戦」をもたらすことを、いち早く見抜いた人物がいます。
ウィンストン・チャーチルです。彼はイギリス首相として、あのヒトラーとも対峙した人物です。
第一次世界大戦が始まる前の1896年、軍制改革を訴える演説で、産業革命によって戦争の様相が変化し、新しい総力戦の時代が到来することを予見していました。
また民主主義の発展により国民の総動員が可能になり、戦争の影響が拡大することも指摘していたのです。第一次世界大戦の到来より前に、新しい戦争の時代(総力戦)を見通した驚くべき先見の明でした。
チャーチルは政治家としての鋭い洞察力をもち、新時代における戦争のあり方を早い段階で看破していたのです。
参考文献:神野正史(2020)『「覇権」で読み解けば世界史がわかる』祥伝社
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