「三平方の定理」と呼ばれる「ピタゴラスの定理」、「ピタゴラス数」や「ピタゴラス音階」…これらはすべて古代ギリシャの哲学者ピタゴラスが発見したものです。
いろいろな分野で功績を残したピタゴラスですが、実は宗教団体の教祖様であったことをご存じでしょうか。
今回の記事では、数多くの偉業を成し遂げて宗教団体まで立ち上げた伝説的な人物、ピタゴラスの人生を追っていきます。
ピタゴラスの生い立ち
ピタゴラスは、紀元前6世紀に活躍した古代ギリシアの哲学者です。
当時、古代ギリシアでは数多くの都市国家(ポリス)が栄えており、彼が生まれたサモスもこうした都市国家の一つでした。
宝飾職人の息子に生まれたピタゴラスですが、若き日の記録は少なく詳細は分かっていません。
唯一わかっているのは並外れた知識欲を持ち、それを満たすために20数年にわたり世界各地を訪れたこと。
彼が訪れたのはエジプト、フェニキア、オリエントなど広大な地域に及んだと言われています。
ピタゴラスといえば教科書にも記載されている「三平方の定理」が有名すぎるため、数学者と思われがちですがもともとは哲学者。
「この世界は数から出来ていて、数の支配下にある」という考えの基、数学を極めたのであって本人からしたら数学はあくまで手段だったようです。
謎に包まれた宗教結社「ピタゴラス教団」を設立
紀元前530年頃、ピタゴラスは南イタリアへ移住して哲学の延長として「ピタゴラス教団」という宗教結社を設立しています。
このころには、彼は数学に関するあらゆる知識を身に着けていたといわれています。
この教団の教えは、魂の輪廻転生と浄化をベースにしていました。
輪廻転生とは「魂は生まれ変わりを繰り返す」という考え方のことです。
仏教にも同じ考え方がありますが、ピタゴラスにはかつて「仏教発祥の地であるインドに来訪したことがある」という伝承があります。しかし確証はなく、伝聞で知ったか、ピタゴラス自身の考えだった可能性もあるとされています。
ピタゴラスは輪廻という考えをもとに「禁欲をすれば魂は浄化される」と説き、入団を希望した者にはなかなか厳しい試練を課したようです。
「暗闇の中でひたすら無言でピタゴラスの説教を聞き続ける」「肉食と日中の飲酒の禁止」など、かなり禁欲的な生活を強いる厳しいテストを実施。
そして入団テストに合格した者だけに自分の姿を見ることを許し、全財産を提供することを義務付けました。
全財産を教団へ寄付、となるとかなり覚悟を決める必要があります。
これは「人はみな平等」という理念に基づくもので、集められた財産は全信者共有のものとされたようです。
今でこそキリスト教の教えである「神の前では人はみんな平等」という考えは浸透していますが、当時の西洋社会ではこういった考え方はまだありませんでした。
もしかしたら「人はみな平等」という思想は、ピタゴラスが一番手だったのかもしれませんね。
こういった厳しい入団テストを突破した後も、信者たちは厳しい戒律を守り続ける必要がありました。
それでも知識を求めて入団を希望する者は後を絶たず、信者たちは戒律を守りながら数学や哲学、音楽などの研究を行ったのです。
自ら禁止したそら豆のせいで死んだピタゴラス
ピタゴラス教団には、なにかと禁忌が多くあったようです。
閂(かんぬき)を跨がないこと、枡(ます)の上に腰掛けないこと、といった当時の迷信や礼儀を踏襲したものもあれば、白い雄鶏(おんどり)に触らないこと、そら豆を食べてはいけないことなど「根拠は?」と聞きたくなるようなものも少なくありませんでした。
そら豆は、当時の南イタリアにおいては日常食でした。
そんな一番身近な食材を禁止した理由はさまざまです。
食べると胃の具合が悪くなって安眠できなくなるから、宇宙の形をしているから、息の形をしているから、死の象徴だから…など諸説あるようですが、ピタゴラス自身もそら豆を嫌ったため、信者にも食べないように禁じていました。
「そら豆を食べてはいけない」
そんな戒律を掲げていたピタゴラス教団には、入団テストで不合格になったため恨む者も多かったと言われています。
そしてあるとき、不合格になった者たちが徒党を組んで屋敷を焼き討ちにしたのです。
ピタゴラスは驚いて外へ逃げ出しましたが、目の間には戒律で禁止していた「そら豆畑」が立ちふさがっていました。
自ら禁止しているそら豆に近づくことを躊躇している間に、ピタゴラスはその場で捕えられて、喉を掻き切られて殺されてしまったのです。
ピタゴラスの最期については謎が多く、他にも多くの信者と共に燃えさかる建物の中で死亡、断食をした後に死亡、メタポンティオンまで逃げた後、その地で老死…などいくつか説があるようです。
天才には謎が多く付きまとうもの。
いずれにせよ、歴史を変えた伝説的な人物であったことには間違いありません。
おわりに
ピタゴラスの死や教団には数々の謎が残されていますが、彼の業績が後世に与えた影響は計り知れません。
ピタゴラス教団では「魂は何度も生まれ変わり生き続ける」と説いていたため、もしかしたら今この世界のどこかで「ピタゴラスの生まれ変わり」となった人が生きているかもしれません。
参考 :
宗教と哲学 著:島崎晋
ピタゴラス的生き方 著:イアンブリコス 翻訳:水地 宗明
ピタゴラス – ピタゴラスと豆 – わかりやすく解説 Weblio辞書
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