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【24年間地下室監禁】父の子を7人産まされたエリザベートの悲劇 「フリッツル事件」

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2008年4月26日、オーストリア・アムシュテッテンの民家の地下室からエリザベート・フリッツルとその子どもたちが警察によって保護された。

エリザベートは18歳から42歳までの24年間、父ヨーゼフ・フリッツルによって自宅の地下室に監禁され、3000回以上もの性的虐待を受け続け、彼の子どもを7人出産させられていたのである。

父親から失踪を偽装され地下室に監禁される

1984年8月29日、18歳の娘エリザベートが失踪したとして、母ロゼマリー・フリッツルは警察に捜索願を出した。

父ヨーゼフは、地下室に監禁したエリザベートに

「家族関係に疲れたので友人と一緒にいる。もし私を探したら出国する」

という偽りの手紙を書かせて警察に提出し、彼女がカルト教団に入信したと説明した。

ヨーゼフは娘の家出を装い、警察の捜査を混乱させたのだった。

ヨーゼフは「ドアを運ぶのを手伝うように」とエリザベートを地下室に誘い、エタノールを染み込ませたタオルで気絶させ、地下室に閉じ込めたのである。

24年間の地下室監禁生活で流産、6回の出産

ヨーゼフは、エリザベートに虐待をし始めた頃から、自宅の地下室を5年かけて増築し、複数の鍵つきドアや暗証番号つきの電子錠を設置した。

彼は当初からエリザベートを監禁し虐待するつもりだったのだ。

監禁されたエリザベートは、壁に体当たりし天井を叩いて助けを求めたが、その声は誰にも届かなかった。
手錠をかけられてベッドに縛りつけられ、トイレに行ける程度の長さのチェーンで繋がれる生活が6ヶ月続いた。

監禁から2年後、彼女は子どもを妊娠したが10週目で流産した。

1988年8月30日、監禁から4年、22歳になったエリザベートはとうとうヨーゼフの子どもを出産する。

彼女はその後も24歳、26歳、28歳、30歳、36歳の時に出産し、30歳の時に産み落とされたのは双子であった。
監禁生活24年間で父の子どもを7人、出産させられていたのである。

双子のうちのひとりは生後3日で肺呼吸疾患になり死亡、ヨーゼフに火葬され庭に埋葬された。

2008年に解放された後に行われたDNA鑑定では、6人の子どもたち全員が生物学的な父親がヨーゼフであることが証明されている。

地下室の存在に誰も気づかない不気味さ

「フリッツル事件」

イメージ

エリザベートが3人目の子どもを出産したとき、ヨーゼフは赤子の泣き声が外に漏れることを懸念し、赤子を自宅の1階に連れて行った。

彼は、エリザベートが子どもを玄関前に置き去りにしたかのように偽装し、またもや彼女に偽の手紙を書かせたのだ。

「カルト教団が子どもの存在を許さない。子どもを両親に育ててほしい」

母ロゼマリーは、眼の前の光景と手紙の内容を信じ、子どもを養子として受け入れ、ヨーゼフとともに生活することになる。
4人目、5人目の子どもたちも同様に、生後1歳前後で地下室から連れ出され、ロゼマリーに育てられた。

一方、地下室ではエリザベートと1人目、2人目、6人目に誕生した子どもたちが4人で息を潜めて暮らしていた。

ヨーゼフは手狭になった約20畳の地下室を更に拡張することを決め、エリザベートと子どもたちに土を素手で掘るよう強要した。

約30畳になった地下室は5部屋に分けられ、テレビ、ビデオ、ラジオや本、おもちゃや冷蔵庫、ベッドがヨーゼフから与えられ、エリザベートは子どもたちに読み書きを教えようと努めた。

ソーシャルワーカーが、養子になった子どもたちの様子を確認するために定期的に自宅を訪れていたが、ヨーゼフの隠蔽工作により不審点は見つけられなかった。

ロゼマリーも、夫は地下で仕事をしているか出張中だと思い込み、地下室の存在はおろか、エリザベートと子どもたちが地下室にいることにまったく気づかなかったのである。

解放のきっかけ

2008年4月21日、1人目に出産された19歳の長女ケルスティンが病気になり、意識不明の状態に陥った。

エリザベートはヨーゼフに「病院に連れて行って」と懇願し、彼はやむなく救急車を呼び、ケルスティンは病院に搬送された。

診断の結果、重篤な腎不全を起こしていることが判明。

ヨーゼフは医師に対し、このように説明した。

「私はケルスティンの祖父だ。

彼女の母で自分の娘であるエリザベートは、家出してカルト宗教団体に入っているため、一緒に暮らしていない。」

さらにヨーゼフは、エリザベートからのメッセージとして、再び偽の手紙を医師に手渡した。

「娘を助けてください。

彼女は人見知りが激しく、これまで一度も病院を訪れたことがありません。

怯えていると思うので優しく治療してください。」

もちろん、この手紙もヨーゼフがエリザベートに強制的に書かせたものであった。

しかし、病院スタッフと医師は、ケルスティンに歯が一本もなかったことや、ヨーゼフの行動と手紙に不審を抱いて警察に通報。

警察は、ケルスティンの母に関する情報提供をメディアで呼びかけ、エリザベートの失踪事件の捜査を再開した。

5日後、地下室のテレビで報道を知ったエリザベートは、ケイルスティンに会うため「病院に行かせてほしい」とヨーゼフに懇願した。

ここでヨーゼフはついに観念し、24年ぶりにエリザベートと残り2人の子どもを地下室から解放したのだった。

病院に着いたエリザベートとヨーゼフは、児童虐待とネグレクトの疑いで警察に連行された。

市長とオーストリア首相も声明を出す

警察はヨーゼフの家を捜索し、地下室を発見する。

窓はなく、天井までの高さは170m、ベッドやテーブル、冷蔵庫、浴室やトイレなど、必要最低限の狭い生活空間が備えられていたが、湿気が多くカビの臭いが充満していたという。

空気の引き込み口が1ヶ所しかなかったため、捜査した警察官は、「地下室は慢性的な酸素不足で、捜査員が4人入ると息苦しくなった」と報告している。

エリザベートは警察に対し、父と二度と会わないようにしてもらうことを条件に、24年間の地獄の監禁生活の詳細を告白した。

18歳で監禁されたエリザベートは、42歳になっていた。

そして彼女の証言に基づき、ヨーゼフは73歳で逮捕された。

この事件の報道を受け、アムシュテッテン市長は公式サイトに声明を発表した。

「アムシュテッテンはショック状態にある。私たちは被害者とともにある。」

オーストリアのアルフレート・グーゼンバウアー首相も国外に対し、オーストリアのイメージを回復するためのキャンペーンを開始することを発表。

この事件は、オーストリア国内外での家庭内暴力防止対策の強化を促す契機となった。

「フリッツル事件」

画像 : 地下室監禁事件がおきたフリッツル家の自宅前でリポートするイタリア人記者 wiki cc wisdom

解放後に発覚した子どもたちのトラウマと障害

エリザベートと子どもたちが保護されてから1ヶ月半後、重体だったケルスティンが意識を回復し、家族と再会した。

しかし、子どもたちは想像以上に深刻なトラウマを抱えていた。

生まれた時から地下室に監禁されていた3人の子どもたちは、日光不足で極度のビタミンD欠乏症と貧血があり、視覚と聴覚に障害を患い、ライトの点滅やドアの閉鎖に強い不安感を抱いていた。

18歳になっていた長男ステファンは身長が高く、170センチの地下室でずっとかがんで生活していたため、正常に歩けない障害を抱えていた。

24年間監禁され、心身ともに衰弱していた42歳のエリザベートは、当時68歳だった母ロゼマリーと変わらないほど老けていたという。

そして、父と娘のあいだに生まれた6人の子どもたちは、それに起因する遺伝的な障害も抱えていた。

終身刑を宣告された父ヨーゼフの現在

「フリッツル事件」

画像 : ヨーゼフの裁判を報道するジャーナリスト public domain

裁判中、ヨーゼフは弁護士との接見でこのように述べている。

「私の行動が正しくないことは理解していたが、日常になり麻痺していた。

私の病的な行為は生まれつきで、計画的にエリザベートを監禁した。

しかし、エリザベートが思春期に入り規則を守らなくなった、という理由もあった。

ナチ時代の親の厳格なしつけが、自分の価値観に影響を与えた可能性もある。」

メディアは彼の残忍な犯行を「モンスター」と報じたが、ヨーゼフは娘と子どもたちを生かしていたこと、クリスマスには地下室にツリーを飾っていたこと、ケルスティンの病気をきっかけに全員を解放したことなどから、自分はモンスターではないと主張した。

ヨーゼフを精神鑑定した医師は、境界性人格障害、統合失調質人格障害、分裂病質人格障害、性的障害があると診断し、生涯にわたる精神科治療の必要性を訴えた。

彼は最終的に裁判ですべての罪を認め、2009年3月19日、オーストリアの最高刑である仮釈放を認めない終身刑を宣告され、収監された。

ヨーゼフは厳戒態勢の特別施設で服役していたが、2024年1月、一般的な刑務所への移送が裁判所で承認された。

89歳となった彼は認知症を患っているとも報じられ、2024年現在は刑務所の精神病棟に収監されている。

エリザベートと6人の子どもたちの現在

事件発覚後、保護されたエリザベートと6人の子どもたちは地元の病院に収容され、医療および心理的なケアを受けた。

地下室に監禁されていたエリザベートと3人の子どもたちは、長年暗闇の環境に適応していたため、日光やライトに慣れるための治療や、広い空間での生活に適応するための治療が必要であった。

上階でヨーゼフとロゼマリーとともに育った3人の子どもたちは、「捨て子」と伝えられていたが嘘だったこと、乳幼児の頃にヨーゼフから虐待を受けていたこと、エリザベートたちが地下室に監禁されていたことなどを初めて聞かされたという。

エリザベートは母ロゼマリーに対し、「ヨーゼフの虐待は監禁される前の11歳から始まっていたが、それに気づきながら止めなかった」と非難し、裁判後は一度も会っていない。

2009年6月、エリザベートは彼女を守り続けてくれた警備員と親密になって愛を育み、2019年に結婚した。

現在、エリザベートと6人の子どもたちには新しい名前と身元、警備員が配置された砦のような家を与えられ、心理的サポートを受けながら静かに暮らしているという。

最後に

この事件は、オーストリア国内および世界各国に大きな衝撃を与えた。

事件発覚後、家庭内暴力や性的虐待に対する関心が高まり、オーストリア政府は法改正と被害者支援の強化に着手した。

国際的にも家庭内暴力防止の取り組みが強化され、多くの国で同様の問題に対する警戒と対策が進められている。

この事件は、家庭内の閉鎖的な環境での虐待の深刻さを再認識させる契機となったのである。

参考 :
『The Crimes of Josef Fritzl: Uncovering the Truth』ステファニー・マーシュ、ボヤン・パンチェフスキー共著
REAL STORIES』| YouTube

 

藤城奈々 (編集者)

藤城奈々 (編集者)

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ライター・構成作家・編集者。心理、人間関係のメカニズム、日本脚本家連盟会員。

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