調べてみた

【骨の恐怖がやってくる】 選りすぐりの「骨の怪物」5選

骨。それは人体の構造において、基礎的なものの一つである。
とはいえ、骨だけでは人間は生きられない。

しかし、これはあくまで人間側の視点であり、妖怪や魔物の中には、骨だけの姿で自在に動き回る者たちが数多く存在する。

今回は、そんな骨の怪物たちの中から、選りすぐりの5体を取り上げてみたい。

1.トゥラング・マワス

画像 : トゥラング・マワス(Tulang Mawas) 草の実堂作成

トゥラング・マワス(Tulang Mawas)は、マレーシアに伝わる精霊の一種である。
マレー語やインドネシア語では霊的な存在を「ハントゥ」と言い、正式にはHantu Tulang Mawasと呼ぶ。

死んだオランウータンが埋葬され10年ほど月日が流れると、その白骨死体がトゥラング・マワスに変じると信じられていた。

トゥラング・マワスは極めて凶暴な性格で、ジャングルを徘徊しては見かけた人間を鋭利な骨で惨殺する、恐ろしい妖怪である。

唯一、この妖怪に対処する方法は、雨のような音を鳴らすことだという。

トゥラング・マワスは雨を極端に嫌うため、瞬く間に退散するとされている。

2.カワンチャ

画像 : カワンチャ(Kawancha) 草の実堂作成

カワンチャ(Kawancha)は、ネパールに伝わる骸骨の病魔、もしくは神である。
十字路に出現し、人々に腹痛を与える存在だとされている。

しかし供物を捧げ、マントラ(真言・呪文のようなもの)を唱えることで、他の悪鬼病魔の類から人間を守護する、いわば「守り神」になるという。

余談だが、ギリシャでは古来より十字路は神や精霊が集まる場所だと考えられており、日本にも辻神という辻(十字路)に棲みつく魔物の伝承がある。

十字路は古今東西、魔物が湧きやすい場所と考えられているのだ。

現在でもネパールの十字路では、熱心に祈りを捧げる人々の姿が見られるという。

3.馬骨

画像 : 馬骨 草の実堂作成

土佐国(今でいう高知県)には、「土佐お化け草紙」という、妖怪の伝承をまとめた絵巻物が伝わっている。

そんな「土佐お化け草紙」に記される妖怪の一つが、馬骨(ばこつ)である。
火災により焼死した馬が、この馬骨へと変じたとされている。

一部のマニアしか知らない極めてマイナーな妖怪であったが、2024年に某国民的海賊漫画に登場したことでSNSなどを中心に一躍話題となった。

画像 : 「土佐お化け草紙」 public domain

江戸時代には、馬の骨の脂肪を用いた蝋燭が売られていた。

馬の蝋燭は安価だったが粗悪であったため、「馬の骨」などと揶揄されることもあったそうだ。

他にも、どこの誰かも分からないチンピラを「馬の骨」などと呼ぶこともあるが、このような話から想像が膨らみ、生まれた妖怪が「馬骨」なのであろう。

4.がしゃどくろ

選りすぐりの「骨の怪物」5選

画像 : がしゃどくろ 草の実堂作成

戦場で死んだ者や、行き倒れで死んだ者の白骨死体が怨念のパワーで集結し、一つの巨大な骸骨となったものが、餓者髑髏(がしゃどくろ)だとされる。

深夜にガシャガシャと音を立てて徘徊し、人間を見つけると猛然と襲い掛かり、バリバリと食べてしまうという恐ろしい妖怪である。

このようにインパクトのある妖怪であるが、実際には古い伝承は存在せず、近年になって作られた「創作妖怪」に分類されるものである。

がしゃどくろの初出の文献は、1968年に刊行された「世界怪奇スリラー全集2 世界のモンスター」に掲載された、SF作家・斎藤守弘による記事であるとされている。

その後、1972年に怪奇作家・佐藤有文が「日本妖怪図鑑」において、がしゃどくろの挿絵に浮世絵師・歌川国芳の作品「相馬の古内裏」を採用した。

選りすぐりの「骨の怪物」5選

画像 : 相馬の古内裏 public domain

その後、漫画家・水木しげるが、この浮世絵を基に綿密なタッチでがしゃどくろ描き上げた。

これらが今日に至るまでの、がしゃどくろのスタンダートなイメージになったと考えられる。

投げすて魔人

選りすぐりの「骨の怪物」5選

画像 : 投げ捨て魔神 草の実堂作成

最後に紹介する投げすて魔人も、近年に創作された妖怪の一つである。

スウェーデン出身とされるこの魔人は、寒い季節の明け方に姿を現すという。
突然、何かが激しくぶつかったような轟音が響いた瞬間、窓や屋根を突き破って、カチカチに凍った死体が家の中に飛び込んでくる。

この現象の原因は、全長100メートルもの巨大な魔人が、雪原で凍え死んだ人々を拾い集め、民家に向かって放り投げているからだとされる。

しかし、実際にはスウェーデンに「投げすて魔人」なる妖怪の伝承は存在しない。

選りすぐりの「骨の怪物」5選

画像 : 毒麦の種を蒔くサタン public domain

なぜなら、この妖怪は1973年に刊行された「世界妖怪図鑑」において、怪奇作家・佐藤有文が画家フェリシアン・ロップスの作品「毒麦の種を蒔くサタン」に独自の説明文を付けた創作に過ぎないからである。

フェリシアン・ロップスが描いた作品が、遠く離れた地でこのような奇妙な妖怪として再解釈されることは、彼自身も予想だにしなかっただろう。

しかし、まさにこうした想像力の広がりこそが、妖怪や伝承の魅力であり、人々の心を引きつけ続ける要因でもある。

創作の世界では、現実と虚構が交錯し、時にはこのように全く新しい存在が生まれることがある。それが人々の記憶に残り、語り継がれていく過程で、また新たな物語が生まれていくのだろう。

参考 :
Jah-Het of Malaysia Art and Culture 著:Roland Werner
幽霊画談 著:水木しげる
世界妖怪図鑑 著:佐藤有文

 

アバター

草の実堂編集部

投稿者の記事一覧

草の実学習塾、滝田吉一先生の弟子。
編集、校正、ライティングでは古代中国史専門。『史記』『戦国策』『正史三国志』『漢書』『資治通鑑』など古代中国の史料をもとに史実に沿った記事を執筆。

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く
Audible で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. 「共謀罪」について分かりやすく解説
  2. 平家が壇ノ浦の戦いで滅びたというのは本当なのか
  3. 知られざる客室清掃業の仕事とは? 「客室の清潔さがホテルの信頼を…
  4. 味噌の起源と歴史
  5. お得情報について調べてみた
  6. 戦国時代の人口について調べてみた
  7. インド発祥の「ヨガ」が世界で親しまれる理由
  8. ヴォイニッチ手稿の解読に成功?!最新の動向をチェック!

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

山中幸盛(鹿介)とは 「子孫が鴻池財閥を築いた猛将」

主家・尼子氏の滅亡山中幸盛(やまなかゆきもり)は戦国時代の武将で、通称の鹿介(しかのすけ…

魯粛の実像【三国鼎立の立役者・正史三国志】

三国志のキーパーソン三国志の鍵となる三国鼎立は様々な人物の活躍と、数々の歴史の偶然によっ…

【ヴァイキングのおぞましい処刑法】 血の鷲とは ~高貴な身分の者だけが狙われる

9世紀から11世紀の半ば、かつて北欧の地にはヴァイキングと呼ばれる屈強な武装集団が存在していた。…

大久保忠世 「信玄、信長、秀吉に称賛された徳川十六神将」

大久保忠世とは大久保忠世(おおくぼただよ)は徳川家康に仕えた、徳川十六神将の一人に数えら…

阿蘇観光の楽しみ方「阿蘇山、牧場、特急あそぼーい」

阿蘇山といえば、学生の頃に修学旅行で訪れた記憶がある方もいらっしゃるかと思います。そんな…

アーカイブ

PAGE TOP