この記事では、年間100冊以上の小説を読む本の虫・アオノハナが、作家別のおすすめ作品についてご紹介していきたいと思います。
国内国外ジャンル問わず、さまざまな小説を読みふけってきた筆者だからこそ、他の王道ランキングとは一味違った、オススメの作品をご紹介できるかと思います。
第4弾は、息を吹きかけると壊れてしまいそうに繊細で、どこか不思議な世界観が、読んでいてどんどん癖になる、小川洋子さんの作品について選んでいきたいと思います。
小川洋子とは
まず初めに、小川洋子さんのプロフィールについて、ご紹介します。
小川洋子
1962年岡山県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。
1991年『妊娠カレンダー』で芥川賞を受賞すると、2004年には『博士の愛した数式』で読売文学賞、本屋大賞を受賞した。
その他、『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞、『ミーナ』で谷崎潤一郎賞を受賞している。
海外での人気が高く、特にフランスでは高い評価を受けている。
小川洋子作品の魅力といえば、その優しくて繊細な語り口でしょう。
誰も気に留めることなく、忘れ去られてしまうような、小さくて、繊細なものたち。そんなものたちに着眼点を持ち、そっとすくい上げてくれるような物語を描きます。
読者は、その独特の世界観に息を呑み、小説を読み進めるにしたがい、だんだんと優しい気持ちになっていくと思います。
ですが、ただほのぼのとしている優しい小説、というわけではなく、物語の背景には、ひやりとするような寒々しさ、ほんの少しのグロテスクさも漂っています。
良い意味でアンバランスな世界観が、小川洋子さんの作品を支えているのだと思います。
小川洋子 オススメ作品① 『海』(2009年刊行)
<あらすじ>
恋人の家を訪ねた青年が、海からの風が吹いて初めて鳴る《鳴燐琴(めいりんきん)》について、一晩彼女の弟と語り合う表題作、言葉を失った少女と孤独なドアマンの交流を綴る『ひよこトラック』、思い出に題詠をつけるという老人と観光ガイドの少年の話『ガイド』など、静謐で妖しく、ちょっと奇妙な7編。
<おすすめポイント>
表題作『海』の中に出てくる、《鳴燐琴》という楽器。
この楽器はもちろん、実際に存在するものではありません。海から吹いてくる風によって、初めて音を奏でることができる…という設定が、とてもロマンチックなものに感じませんか?
この短編集には、どのお話の中にも大きな事件は起こりません。
ですが、静かに進んでいく物語の中で、登場人物やその世界が、確かに息づいている感覚があるのです。
小川洋子さんの、静かで不思議な世界に浸るには、もってこいの一冊です。
できれば、旅先でのホテルの部屋や、たっぷりとお湯をはったバスタブの中で、非日常感を感じながら読んでいただけたらな…と思います。
小川洋子 オススメ作品② 『やさしい訴え』(2004年刊行)
<あらすじ>
夫から逃れ、山あいの別荘に隠れ住む“わたし”が出会った2人。チェンバロ作りの男女と、それを見つめる女の不思議な関係。
挫折したピアニスト、ひどいかたちで恋人を奪われた女、不実な夫に苦しむ人妻、3人の不思議な愛の物語。
<おすすめポイント>
チェンバロとは、16世紀から18世紀につくられた鍵盤楽器です。
ピアノの前身とも言われている楽器であり、マリー・アントワネットやモーツァルトの時代に広く活躍したようです。
この物語は、小川洋子作品の中では珍しく、「生々しい恋愛模様」を描いている気がします。
肉体的な性愛もそうですし、好きな人に振り向いてもらいたいという気持ち、恋敵に嫉妬してしまう苦しみ…などがリアルに描かれているのです。
ですが、そこはさすが小川洋子さん。
生々しい恋愛感情も、どこかはかなげで、美しい存在に昇華されています。
恋の苦しみも、チェンバロの美しい音色に浄化してもらえるような気がします。
息をするのももったいないくらいに、主人公達の恋愛模様を見守りたくなるのです。
長編小説ですが、比較的すぐ読み終えることが出来ます。
小川洋子 おすすめ作品③『琥珀のまたたき』
<あらすじ>
魔犬の呪いで妹を失ったきょうだいは、ママと一緒にパパが遺してくれた別荘に移り住む。
そこで彼らはオパール、琥珀、瑪瑙(めのう)という新しい名前を手に入れる。閉ざられた家の中で、3人だけで独自に編み出した遊びに興じる中、琥珀の左目にある異変が生じる。
それはやがて、亡き妹と家族を不思議なかたちで結びつけ始めるのだが…。
<おすすめポイント>
あらすじだけ読んでみると、「一体どういうこと?」と思わされるような不思議な物語ですよね。
読み進めるうち、どんどん真相が露見してゆくのですが、半分ファンタジー、少しミステリー、といった、どのジャンルに分類してよいのか難しい物語です。
ですが、まったく退屈することなく、むしろオパール、琥珀、瑪瑙の3兄弟にしか見ることのできない、奇妙でささやかな、それでいて愛おしいものたちに、読者はどんどん夢中になっていくことでしょう。
個人的には、この作品が小川洋子作品の中でも一押しです。
最後に
この記事では、小川洋子さんのオススメ作品について、調べてみました。
小川洋子さんの最新作は、2019年に刊行された小説『小箱』。
『ことり』以来、なんと7年ぶりとなる書下ろし長編小説です。
小川洋子さんの作品は、毎度のことながら、表紙や装丁がとても美しいです。
筆者は表紙や装丁で本を買うかどうか決めるほど、デザイン性にはこだわりを持っているのですが、小川洋子さんの本は、どれも美しくて、本棚にコレクションしておきたいほどです。
透明感に溢れた、少し不思議で、悲しいくらいに美しい、小川洋子さんの小説を、ぜひとも読んでみてくださいね。
この記事へのコメントはありません。