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【資産家を100人以上葬る】11億円を騙し取った結婚詐欺師ベル・ガネス ~米史上最悪の女殺人鬼

ベル・ガネス

画像 : ベル・ガネス Public Domain

1884年、ベルというノルウェー出身の24歳の女性が、アメリカ人男性のマッズ・ソレンソンと結婚した。

ベルは、夫とともにイリノイ州シカゴでキャンディーショップを開業したがうまくいかず、家計は悪化の一途をたどった。

そんななか、店舗と自宅が火災で全焼する事故が起こり、夫婦は両方の保険金を受け取ることができたのだった。

人生で初めて経済的な潤いを味わったベルは、この出来事が転機となり、その後の人生に保険金にまつわる数々の疑惑がつきまとうこととなった。

2人の子どもと夫の病死により、多額の保険金を受け取ったベル

1890年代後半、ベルと夫マッズには4人の子どもがいたが、そのうち2人が1歳に満たないうちに急性大腸炎で相次いで死亡した。

ベルとマッズは、亡くなった2人の子どもにかけていた生命保険金を受け取った。

1900年7月30日、今度はマッズが頭痛を訴えた。ベルが薬を与えたが、まもなく彼は息を引き取ったのだった。

この日は偶然にも、彼が加入していた2つの生命保険契約が重複する最終日であった。

その結果、彼女は8,500ドル(現在の価値で約30万ドル、日本円で約4,500万円)もの保険金を手にし、2人の子どもを連れてインディアナ州ラポートへと移住したのだった。

2人目の夫も事故死で失い、1530万円の保険金を手に入れる

画像 : 保険金で購入したベルの農場
Creative Commons Attribution 2.0 cc Steven Shook

ベルはインディアナ州ラポートで養豚場つきの広大な農場を購入し、新生活を始めた。

同じ頃、肉屋を営むノルウェー出身の同郷人ピーター・ガネスと出会い、恋愛関係に発展する。

ピーターは妻を亡くしたシングルファザーで、10歳の娘と二人で暮らしていた。

1902年4月、ベルはピーターと再婚し、「ベル・ガネス」として新たな家庭を築き、お互いの子どもを含めた5人での生活をスタートさせた。

しかし、わずか一週間後、ピーターが留守の間に彼の娘が謎の死を遂げる。

そして8か月後の12月、今度はピーターが「棚から落ちた肉挽き機が頭を直撃する」という不可解な事故に見舞われ死亡した。

検死官はピーターの死に疑念を抱き、調査の結果「殺害である」と結論づけた。

容疑をかけられたベルは、「夫との間に子どもを授かっている」と主張し、地元民の同情を引くことで窮地を切り抜けたのだった。

彼女は、またも3,000ドル(現在の価値で約102,000ドル、日本円で約1,530万円)の保険金を手に入れたのであった。

ベルの生い立ちと流産によって生まれた男性への憎悪

ベル・ガネスは、1859年11月11日、ノルウェーのトロンヘイム近郊セルブ村で、貧しい石工の父ポール・ストルセットと母ベリット・ストルセットの間に生まれ、「ブリュンヒルド」という名をつけられた。

18歳の頃、彼女は恋人の子を身ごもるが、男に腹部を蹴られて流産してしまう。

この男は裕福な家庭の出身だったため、罪に問われなかった。

近隣住民によると、この出来事によって彼女の性格は劇的に変わったという。

しばらくして、彼女に暴力を振るった男は病に倒れ、死亡した。

1881年、21歳になった彼女は怒りと憎悪を胸に秘め、アメリカ・シカゴへ移住し、名前を「ベル」に改名した。

ベルは裕福で洗練された生活への強い憧れを抱く一方で、身長178cm、体重90kgという大柄な体格を活かして、豚や牛を解体する畜産業で働き出したのだった。

「孤独な資産家」を募る強気の結婚広告ビジネス

1902年末、2人目の夫ピーター・ガネスの死によって多額の財産を手にしたベルだったが、保険金詐欺には限界があると悟り、新たな手口を模索し始めた。

1905年、45歳の彼女はシカゴの地元紙に、結婚相手を募る広告を掲載する。

「結婚相手募集。

インディアナ州ラポートの最高の地域に広大な農場を所有する、年若く美しい未亡人です。

共同経営ができ、資産と教養を備えた紳士を求めています。

直接訪問してお会いする意志のない方からの手紙には、返信いたしません。」

この広告はアメリカ中西部一帯で注目を集め、裕福な中年男性たちからの求婚が殺到した。

ベルは応募者の中から、「資産がある、身寄りがない」といった自分の条件に合う男性を慎重に選び、見込んだ相手にはこう返信した。

「財産目当ての方を避けるため、また農場経営のための担保資金として、相当額の現金か有価証券をお持ちになってお越しください。」

「結婚詐欺師ベル」と「孤独な資産家男性」の騙し合いの行方

画像 : 男性たちが訪れたベルの農場 Creative Commons Attribution 2.0 cc Steven Shook

ベルの求める条件を満たす男性たちが次々と農場を訪れたが、実際に彼女の理想に合う者は少なかった。

ベルは「孤独な資産家」を望んでいたが、妻に「投資事業」と偽って来る者や、保険会社や投資家から借金をして現金を調達して来る者、農場に来る前に親族に「裕福な未亡人と結婚する」と手紙で知らせる者もいた。

なかには、ベルの財産目当てで妻と離婚してまで農場を訪れる男性もいたという。

ミネソタ州のジョン・モーは、多額の現金を引き出してベルの農場に到着した後、消息を絶った。

ミズーリ州から訪れたジョージ・アンダーソンは、ある夜、客室で眠っていたところ、ろうそくを持って枕元に立つベルが、自分を鋭く見つめているのに気づく。

その表情にはあきらかに殺意が宿っており、驚愕した彼は思わず叫び声をあげた。

恐怖にかられたジョージは農場を飛び出し、始発列車でミズーリに逃げ帰ったのだった。

その後も多くの求婚者がベルの農場を訪れたが、幸運だったジョージを除き、彼女のもとから戻った者は一人もいなかったのである。

貧乏な雑用係レイ・ランプヘアとの痴情のもつれ

画像 : 雑用係で恋人だったレイ・ランプヘア public domain

1907年7月、ベルはレイ・ランプヘアという男性を、農場の雑用係として雇った。

二人は恋人関係になったが、レイは貧しいため、ベルは彼を結婚相手とは見なさなかった。

ベルに惚れ込んでいたレイは、彼女からの頼みごとはどんな仕事でも引き受けた。

農場を訪れる求婚者たちへの嫉妬は募るばかりだったが、彼はそれを堪え続けたのだった。

しかし、ベルが「将来の夫」としてアンドリュー・ヘーゲラインを紹介し、レイに納屋で寝るよう部屋から追い出すと、レイは怒り、二人は口論を繰り広げた。

半年後、レイの嫉妬は収まらないと判断したベルは、彼を解雇した。

するとレイは、ストーカー行為やベルの秘密の暴露をほのめかして脅す、悪評を広めるなどの嫌がらせを始めたのであった。

ベルは警察に「レイが土地に不法侵入している」と訴え、さらに医師に精神異常と診断させようとしたが、レイは正気と判断され釈放された。

「身内の通報」と「ベルの遺言書作成」のタイミング

1908年春、ベルに対する世間の疑惑が高まり始めた。

彼女が求婚者を募るようになってから3年が経過しており、多くの男性が消息を絶っていることが家族や周囲に知れ渡っていたのである。

決定的なきっかけとなったのは、失踪したアンドリュー・ヘーゲラインの弟アスレの行動であった。

アンドリューはベルに「身寄りはいない」と伝えていたが、実際には弟アスレが存在していたのだ。

アスレは兄の家で、

「銀行からすべての現金を引き出し、できるだけ早く来てほしい」

というベルからの手紙を発見し、疑念を抱く。

1908年4月、アスレがベルに兄の状況を尋ねる手紙を送ると、彼女から「アンドリューは農場を離れた。おそらくノルウェーの親戚を訪ねるつもりだろう。」と返事が届いた。

アスレはさらに疑いを強め、ベルに農場を訪れると宣言するとともに警察に通報した。

するとベルは4月27日、遺言書を作成するため弁護士を訪ね、怯えた様子でこう語った。

「レイ・ランプヘアが、私と子どもたちを殺し、家に火をつけると脅している。

彼が何をするかわからないから備えておきたい。」

遺言書には「財産は子どもたちに残す」と記されたが、ベルはその後、レイからの脅迫について警察に通報することはなかった。

放火で農場全焼。3人の子どもとベルの遺体発見

画像 : ベルと3人の子どもたちの肖像画 public domain

ベルが遺言書を作成した翌日の早朝、彼女の農場で火災が発生し全焼した。

焼け跡の地下室からは、ベルの3人の子どもと、頭部のない成人女性の遺体が発見された。

検死にあたった医師は、この遺体がベルよりも身長が13cm低く、体重も約23kg軽いと証言し、体格がベルと一致しないと指摘した。

しかし、警察は歯科医の協力を得て現場からベルの歯のブリッジの一部を発見したため、検死官は「遺体はベル・ガネス本人である」と結論づけたのである。

放火と殺人の容疑者として、レイ・ランプヘアの名が浮上した。

豚小屋とゴミ捨て場に埋められた「孤独な資産家」たち

画像 : ベルの農場で遺体を捜索する捜査官たち Creative Commons Attribution 2.0 cc Steven Shook

捜査官たちが農場の焼け跡でベルの頭部を捜索していると、複数のバラバラにされた遺体の一部が次々と発見され、それは少なくとも13人分にのぼった。

焼け落ちた農場に到着したアンドリュー・ヘーゲラインの弟アスレは、捜査官が掘り出した8個の腕時計や人骨、歯などの遺留品を見て、他にも遺体の一部があると確信し、「豚小屋のゴミ捨て場を掘るべきだ」と提案した。

捜査官たちがゴミ捨て場を掘り起こすと、4体の遺体が発見され、その中には兄アンドリューの遺体の一部も含まれていた。

画像 : アンドリュー含め4人の遺体の一部が発見されたゴミ捨て場 Creative Commons Attribution 2.0 cc Steven Shook

豚小屋にも浅い窪地が無数に掘られており、そこからも麻袋に詰められた部位ごとの遺体が発見された。

遺体の状況から、ほぼ同じ方法で解体されていることが判明した。

屋外トイレや湖の近くからも遺体が掘り起こされ、時計などの遺留品から少なくとも40人の犠牲者が確認された。

その中には、2人目の夫ピーター・ガネスとその娘も含まれていた。

観光地化した「恐怖の集団墓地」

画像 : 焼け跡から灰をふるいにかけて遺体や遺品を捜索する捜査官
Creative Commons Attribution 2.0 cc Steven Shook

多くの遺体は農場内で発見されたが、すべてがバラバラの状態で埋められていたため、警察は正確な人数を特定できず、最終的には数えることを断念せざるを得なかった。

犠牲者の総数は、80人から150人にのぼると推測されている。

この衝撃的な犯罪は、ニューヨーク・ポスト紙などに「インディアナの鬼女」「ラ・ポートの悪鬼」「死の城の女主人」といった異名で報じられ、瞬く間に全米中に広まった。

事件発覚後、ベルの農場は「恐怖の集団墓地」として有名となり、全米から2万人以上が見物に訪れ、売店や土産店まで出るほどの観光地となった。

画像 : 多くの遺体が発見された豚小屋の跡地を訪れ記念撮影する観光客たち Creative Commons Attribution 2.0 cc Steven Shook

レイ・ランプヘアが告白した事件の真相

ベル・ガネスの自宅が全焼した翌日の1908年4月29日、元雑用係かつ恋人でもあったレイ・ランプヘアは、殺人と放火の容疑で逮捕された。
そして5月22日には、4件の殺人と放火の罪で正式に起訴された。

逮捕時、レイは行方不明のジョン・モーのコートと、ヘンリー・ガーホルトの時計を身に着けていた。

レイの証言によると、ベルは「孤独な資産家」たちに、「田舎風のノルウェー料理」や将来の生活の魅力を語って農場へ引き寄せていたという。

男性が農場を訪れると、ベルはコーヒーに薬を混ぜて意識を失わせ、凶器で頭を殴って殺害した。

遺体は解体して豚小屋や農場内に埋められたが、時には豚の餌にすることもあったという。

レイは、遺体の解体や埋葬に加担させられていたものの、殺人には関与していないと一貫して主張し続けた。

ベルの遺体の正体

画像 : 農場の沼地を捜索する捜査官 Creative Commons Attribution 2.0 cc Steven Shook

レイは、ベルによる遺体偽装についても証言した。

ベルは火事の数日前、 シカゴの浮浪者の女性に「家政婦として雇う」と偽ってラポートの自宅に誘い出し、薬で眠らせた後、頭を殴って殺害。

首を切断して遺体に自分の服を着せ、歯のブリッジを自ら外して遺体の横に置き、ベル・ガネスの身代わりとしたのだという。頭部は、重りをつけて沼に沈めたという。

3人の子どもたちは、クロロホルムで窒息死させられた。

ベルはレイに対し、自宅と農場に火を放ち、指定した場所で合流して一緒に逃亡しようと計画を持ちかけたが、彼女は姿を現さなかった。

そして、レイのこの証言は裁判で立証されることはなく、ベルの行方も二度とあきらかにされなかった。

レイは、ベルが長年の殺人計画で少なくとも25万ドル(現在の価値で約750万ドル、日本円で約11億円)を蓄えていたことも証言している。

捜査官が口座を調査したところ、資金は火災直前に全額引き出されていたことが判明した。

1908年11月、レイは放火罪で21年の禁固刑を言い渡され収監されたが、翌年1909年12月30日に結核で死亡した。

ベルの行方の謎

1908年の農場火災で姿を消した後、ベルは故郷ノルウェーに戻って余生を過ごしたと見られていた。

一方で、彼女は「エスター・カールソン」と名を変え、1931年にロサンゼルスで毒殺事件で逮捕されたとの見方もある。

エスターは、保険金目当てでノルウェー系アメリカ人男性を毒殺し金銭を詐取したが、裁判を待つ間、1931年5月6日に病死したため、ベル本人であるかどうかは確認されなかった。

さらに、ベルがミシシッピ州で暮らしていたとの報告もあり、その後も全米各地で目撃情報が相次いだ。

2007年、インディアナポリス大学の法医学チームは、ベルの妹の子孫の許可を得て、彼女とされる頭部のない遺体を掘り起こしDNA検査を試みた。

手紙の封筒フラップから採取したベルのDNAサンプルとの照合を行ったが、サンプルには十分なDNAが残っておらず、身元確認には至らなかった。

ベルが農場で本当に死を遂げたのか、それとも別名で新たな人生を歩んだのか、その真相はいまだに謎である。

ベル・ガネスの犯罪手口は、男性の心理と状況を巧みに利用し、証拠を一切残さないよう周到に計画されていた。

彼女の男性への憎悪は、10代で経験した暴力と流産によって芽生えたとされているが、裕福な男性を標的とし、彼らの命と財産を奪うことで復讐と利益を追い求め続けたベルの執念は、人間らしい感情を失い、冷酷な手段に徹する原動力となっていた。

ベルに人間らしい愛情や幸福を感じることができた別の人生の可能性があったのかどうかは、もはや知るよしもない。

彼女の実態は謎に包まれ、闇に消え去った真相と共に、その問いもまた闇の中である。

参考 :
世界を震撼させた女毒殺者たち[上]クレオパトラからベル・ガネスまで』リサ・ペリン(著)
“Hell’s Belle” Gunness – Black Widow of the Midwest | Legends of America
文 / 藤城奈々 校正 / 草の実堂編集部

 

藤城奈々 (編集者)

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ライター・構成作家・編集者
心理、人間関係のメカニズム、スピリチュアル、宇宙
日本脚本家連盟会員

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