海外

『海と共に生きる台湾の原住民族』タオ族に根付く独特な文化 ~ふんどしと銀兜の伝統衣装

タオ族とは

筆者が現在住んでいる台湾には、16の主要な原住民族が存在する。

これらの民族は、詳細に分けるとさらに多様なグループに分類できるが、政府の認定では16区分とされており、それぞれが独自の文化、言語、そして伝統を維持している。

台湾の原住民は、政府によって法的に保護されており、原住民族としての身分を持つ人々にはさまざまな優遇措置が設けられている。

今回は、台湾の東方に位置する離島「蘭嶼(らんしょ)」に居住するタオ族の文化について紹介したい。

地下屋

タオ族に根付く独特な文化

画像 : タオ族の伝統住居 wiki cc othree

タオ族の伝統的な住居である「地下屋」は、蘭嶼(らんしょ)の気候に合わせて工夫された構造になっている。

蘭嶼は高温多湿で、台風の影響を受けやすいため、このように半地下に家屋を建てることで外気の影響を抑え、夏は涼しく、冬は暖かい環境が保たれる。

地下屋は地面から1〜2メートル掘り下げた場所に建てられ、壁は切り出した石が積み上げられ、木材の梁で支えられている。
屋根には藁に似た植物や鉄製のトタンが使用されており、台風や豪雨にも耐えられる設計となっている。特に、石積みの壁は水が浸入しても効率よく排水できる構造になっており、湿度が高く雨が多い環境にも適応しているのだ。

また、地下屋の中は上下の二層に分かれ、下層は食料の保存場所として使用されるなど、住環境も最適化されている。

現在でも、この地下屋群を見ることができるが、実際に多くの住民が暮らしているため、訪問する際は住民への配慮が必要である。

タオ族の伝統衣装

画像 : タオ族の男女の盛裝(1930年)public domain

台湾の原住民族は美しい民族衣装を特徴としており、タオ族の伝統衣装もまた独自の文化を反映している。

その衣装は、海と深く結びついた生活に適した実用的なデザインで、タオ族の男性は儀式や特別な場で、ふんどしと銀兜を身に着ける。

ふんどし姿に銀兜とは、外部の人間から見るとあまりに独特だが、これが正式なスタイルだという。

画像 : タオ族の兜の模型。wiki c 氏子

銀兜は、結婚、子供の誕生、飛魚漁の開始、新しい船の完成を祝う祭りなど、重要な儀式で使用され、タオ族の男性にとって象徴的なアイテムである。

この銀兜は、頭を覆うように装着するもので、中央の四角い穴から外を覗く形状になっている。

島内では銀が採れないため、銀貨などの素材を叩いて作られ、完成後に豚や羊の血、または海水をかけて祈りを捧げることで神聖な力が宿ると信じられている。製法は、フィリピンのバタネス地方から伝わったとされている。

衣装のデザインは、群青色のストライプが入った清涼感のある柄が特徴的で、男女ともに身に着ける。

タオ族の衣装は実用性と伝統を兼ね備えたものであり、海に出やすいデザインとなっている。

髪振り回し踊り「甩頭髮舞」

タオ族の女性が踊る「甩頭髮舞(しゅあとうふぁう)」は、伝統的な歌を歌いながら髪を大きく振り回して踊るダイナミックな舞踊である。

この踊りには、海と共に生きるタオ族ならではの意味が込められている。

男性たちは命がけで漁に出て家族を支えており、自然と向き合うその生活はときに命の危険を伴う。そのため、彼らが無事に帰還したとき、女性たちは喜びと感謝を込めて、この踊りを披露するのだ。

また、台湾の山岳部の原住民にも、狩猟から戻る男性を歓迎する伝統舞踊がある。

拼板舟

画像 : タオ族のチヌリクランというボート wiki c Yang Yao Long

タオ族の伝統的な船「拼板舟(へんばんしゅう)」は、彼らの海洋文化に欠かせない存在である。

この船には1人乗りや2人乗り、小型から大型の8人乗りまでさまざまなサイズがあり、8人乗りの拼板舟は最大で10人ほど乗ることも可能だ。
拼板舟は「板をつなぎわせて作った船」という意味があり、大型の船になるとおよそ2.5メートルに達し、27の板で作られている。

船には特別な模様が描かれており、特に「船之眼」と呼ばれるマークには重要な意味がある。
このデザインは円の中に輝く太陽を象徴し、白と黒で彩られている。船首と船尾に描かれるこの「船の目」は、航海中にタオ族を見守り、彼らの安全を導く守護の象徴とされている。

蘭嶼のタオ族は、今もこうした伝統を守り続けているのだ。

参考 : 『フォーカス台湾』『財團法人核廢料蘭嶼貯存場使用雅美』他
文 / 草の実堂編集部

アバター

草の実堂編集部

投稿者の記事一覧

草の実学習塾、滝田吉一先生の弟子。
編集、校正、ライティングでは古代中国史専門。『史記』『戦国策』『正史三国志』『漢書』『資治通鑑』など古代中国の史料をもとに史実に沿った記事を執筆。

✅ 草の実堂の記事がデジタルボイスで聴けるようになりました!(随時更新中)

Audible で聴く
Youtube で聴く
Spotify で聴く
Amazon music で聴く

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

関連記事

  1. 【伝説の美容師】 ヴィダル・サスーンについて調べてみた
  2. 『世界激震のトランプ相互関税』カンボジアやベトナムなどASEAN…
  3. スタンフォード監獄実験【実は仕組まれた実験だった?映画化もされる…
  4. 日本人が間違いやすいネイティブ英語①
  5. 頼清徳 台湾独立派の新総統「頼清徳」のスローガンと興味深い選挙活動
  6. 北朝鮮の観光事情について調べてみた【日本人も行ける!】
  7. 【スエズ・パナマ】 世界の運河について調べてみた
  8. 北朝鮮は台湾有事をどう捉えるか ~米中対立が北朝鮮の「漁夫の利」…

カテゴリー

新着記事

おすすめ記事

お得情報について調べてみた

お得情報も日々更新中。 ANAマイルをためるならポイント老舗サイトのハピタスとちょびリ…

浅野長政 ~朝鮮に渡ろうとしていた秀吉を「古狐が取り憑いた」と諫言

浅野長政とは浅野長政(あさのながまさ)とは、織田信長・豊臣秀吉に仕え、豊臣政権では五奉行…

金剛「連合軍から日本海軍の殊勲艦に挙げられた高速戦艦」

最期の外国製戦艦 金剛戦艦・金剛は太平洋戦争において日本海軍が保有していた12隻の戦艦の…

戦国時代と関ヶ原以降の島津氏の戦い

はじめに丸に十字の家紋として知られる薩摩国の島津氏は鎌倉時代から江戸時代の薩摩藩まで約700年に…

『平安の魔性の女』 和泉式部の美貌と才能に惚れた男たちとの恋愛遍歴 【光る君へ】

NHKの連続ドラマ「光る君へ」で脚光を浴びている平安時代。主人公の『源氏物語』作者・…

アーカイブ

PAGE TOP